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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
12/101

12 森に跋扈する影

 ゲートを潜り抜けた妾達の前に、広い街道の景色が現れる。

 その近辺には、柵に囲まれた耕作地、さらに先には壁によって守られたリオールの街が見えた。

 だが、なにより圧巻だったのは、ここからでもすさまじい存在感を発し、城壁のごとくそびえる緑の木々。

 人間界と魔界を分断する超巨大森林『緑の帯』は、今日も外部から立ち入る者を拒んでいた。

 ……あ、いや、人間界と魔界を繋ぐ街道があるから、拒みきれてはいないか。


 さて、この『緑の帯』だが二つの世界を繋ぐべく開拓された街道は三つある。

 しかし、直線距離でも三十キロほどある上に危険地帯を避けて道は通っているため、どの道も額面よりかなりの距離になっているのだ。

 だから余程の訳がなければ、一日に三本出ている護衛付きの乗り合い馬車で通るのが普通なのである。


 妾達も急ぎではあるが、危険を犯してまで『緑の帯』を突っ切る程でもないので、素直に乗り合い馬車に搭乗することにした。

 なにより、半分は観光案内的な意味を持つその馬車に乗ったことがない、エルの意見も尊重しての決断であるが。


「楽しみですね、アルトさん」

「そうだな」

 『緑の帯』の中を進むのが楽しみなのか、にこにことエルが笑いながら声をかけてくる。

 まったく、はしゃぎおって……。

 とはいえ、妾も乗り合い馬車は初めてなので少し楽しみだがな。


「アルトさん達は『緑の帯』に入った事があるんですか?」

「ああ、入った事だけ(・・・・・・)ならあるぞ」

「そうなんだ……『緑の帯』の中は、独自の生態系があるって聞いたことはあるんですけど、アルトさんは詳しいんですか?」

「うーん、あまり妾は詳しくないな。骨夫の方が何か知っているだろう」

 そう言うと、子供らしい好奇心に目を輝かせながら、エルは骨夫の所に駆けていった。

 その姿を微笑ましく見送り、ふと城を逐われて『緑の帯』に逃げ込んだ時の事を思い出す。

 夜の闇からチャルフィオナが飛び出してくるかもしれない……そんな幻想に付きまとわれた一夜。

 ……くそう、震えが止まらんわ。


「おおい、早々に手続きを済ませんと馬車に乗れんぞ!」

 後方で、手のひらサイズのカメムシの話に花を咲かせる二人に声をかけて、街の方へと促す。

 男の子って、ああいう話が好きだな……。

 しかしまぁ、骨夫の話を聞いて楽しそうなエルを見てると、こちらも笑みがこぼれる。

 どんな発見があるか、わくわくしている彼を眺めつつ、妾達はリオールの街の乗り合い馬車受付所へと向かった。


「申し訳ありませんが、あなた方は馬車への搭乗をお断りさせていただきます」

 チケット売り場に並んでいた妾達に、女性職員がペコリと頭を下げる。

 え、なぜ……。

 疑問が頭を支配するも、ちらりとエルの様子を盗み見てみた。

 ……少年の瞳からは光りが失われ、その表情は絶望に彩られている。


「な、なぜ私達が乗れないんだ! もしかして私がアンデッドだからか!」

「こやつは妾の使い魔ではあるが、こやつがダメなら置いていくから乗せてくれんか?」

「お嬢、非道いっ!」

 職員に食って掛かっていた骨夫だったが、妾の一言で標的を変える。

 いや、しかし妾達が断られる理由なんてお前くらいではないか。

 転移魔法で後からついてこれる訳だし、別に良いであろう?

「ヤだい、ヤだい! 私も馬車に乗って観光気分に浸りたいんだい!」

 まるで駄々っ子のように、バタバタと転がる骨夫。

 こいつ……本当に元四天王寺としての、自覚と誇りはあるんだろうか?


「ち、違います! 問題があるのはそちらの方です!」

 慌てた職員が示したのは……エル。

 一瞬、その場にいた職員以外の皆がキョトンとした後、ええっ!っと声をあげた。


「ぼ、ぼ、ぼ、僕は何も悪いことはしてませんよ!」

『主様になんの不備があると言うのか! 場合によっては斬る!』

「貴様、うちのエルがどれだけ良い子か小一時間聞かせてやろうか!」

「あー、私が原因じゃなくて良かった」


『うるせえぇぇぇぇ!』


 詰め寄る妾達を、魔道具で声を増幅させた女性職員が一蹴する!

 こやつ、手慣れておる……。

「失礼しました。別にそちらの方が悪いと言うわけではなく、『緑の帯』の状況が悪いのです」

「状況だと?」

「はい。今現在、『アマゾネス・エルフ』の襲撃による被害が増えておりまして、男性客は搭乗できない事になっております」

 アマゾネス・エルフ!……なんだ、その『知的なモヒカン』みたいな響きの連中は?

 いや、魔界や人間界にもエルフ族はいるよ?

 しかし、いわゆるノーマルやハイ、ダークといった知性と優雅さを兼ね備えた奴等ばかりだ。

 だから、そこまで野性味溢れる種族にはお目にかかったことはない。


「『緑の帯』は言わば第三の異界ですからね。人間界や魔界とは別に、独自の進化を遂げていてもおかしくありません……」

 なるほど、骨夫の言うことも一理ある。

「それで、そのアマゾネス・エルフは人や魔族を問わずに、繁殖を兼ねた奴隷として男を拐うんです。ですから、男性が馬車に乗れば襲撃される危険性が増すのでお断りしていると言う訳なんです」

 ふむう……一応は納得できた。


「しかしだな、妾達とて腕には自信があるぞ。そいつらが襲ってきたら撃退して……」

「全てのお客様の安全を考慮するのが私達の仕事です。危険性が高まる要素は、極力排除いたしますので、悪しからず」

 キッパリと断ってくる女性職員。お、おのれ石頭め……。


「事情があるなら仕方ありませんよ。別の方法を探しましょうか……」

 エルが力なく笑いかけてくる。

 気丈に振る舞ってはいるが、やはり残念そうだ。

 むむ……なんとかしてやりた……ハッ!


 その時、妾に稲妻が走る!

「ア、アルトさん?」

 突然固まった妾をエルが怪訝そうに覗き込む。

 そんな彼の肩をガッと掴んで、妾はある確認をした。

「エルよ……もしかしたら、アマゾネス・エルフを欺けるかもしれん策がある。そのためには、お主の『覚悟』が必要なのだが… やるか?」

 妾の問いかけに、まっすぐ見つめ返しながら……エルは力強く頷いた。

 よーし、言質とった!


「フフフ……それでは行こうか、エルよ」

「ど、どこへですか?」

「いい所……とだけ言っておこう」

 妾の雰囲気と言葉に少し怯えるエルを引きずりながら、街中へと足を伸ばす。

 さぁて、どこから回ろうか……。


 ────それから、二時間ほどが過ぎた。

 再び妾達は受付の前に立ち、チケットの購入を申し出る。

「今度は文句なかろう?」

「……そうですね。本日三本目の馬車、チケットは三枚でよろしいですか?」

 先程とは打って変わって、今度はすんなり事が運ぶ。

 フッ……やはり妾の目に狂いはなかった。


「あの男の子は街に残るんですか?」

「いや。一緒に行くぞ」

「えっ……? でも……」

 職員が戸惑うのも無理はない。彼女の目には女が二人(・・・・)と骨夫しか映ってないだろうからな。


「……まさか!」

 職員がハッとして、妾が連れている少女(・・)を凝視する!

 そう、彼女の予想通りだ。

「成功だな、エルよ。どっからどう見ても美少女にしか見えぬよ」

 作戦通りに女物の服を着せられ女装したエルは、妾の言葉に真っ赤になって身を縮めていた。

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