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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
100/101

100 愛の剣にて悪しき竜を断つ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『鬱陶しいわ、カスどもがっ!』

迫る軍勢に対し、怒りの咆哮を上げながら千頭竜の尾が先頭集団を狙う!

雑魚どもの勢いを殺すと同時に、羽虫共に恐怖を植え付けるべく振るわれたその一撃! だが、突然現れた光の壁に阻まれて攻撃は標的まで届くことはなかった。

『なにっ!』

まさかただの雑魚と見下していた連中に防がれると思ってもいなかった千頭竜が、驚愕の声を漏らす。

そんな怪物の耳に、高笑いするリーシャの声が届いた。

「残念でしたわね、千頭竜。いかにあなたでも、人間と魔族の魔法使い千人以上が協力した魔法障壁を簡単に破れると思わない事ね!」

いつの間にか手にしていた羽扇を振りかざして、もう一度リーシャは高らかに笑う。

千人!

確かに群れている雑魚の数は多いが、そんなにも統率がとれる物なのかと、逆に感心しそうになる。

『だが、そういう事なら……』

そう、統率している者がいるなら、そいつを消してしまえばいい。

あまりにも無防備なリーシャに向かって、千頭竜はどんな魔法障壁でも防げない程の魔力を込めたブレスを撃ち放った!


「かかったな、アホが!」

ブレスがリーシャに届く寸前で、彼女の前に展開された転移口(ゲート)がブレスを飲み込む! と、同時に出口となる別の転移口(ゲート)から吐き出されたブレスが、そのまま千頭竜に撃ち込まれた!

『ごわっ!』

全力を込めたブレスを己の身に受け、千頭竜は苦鳴を漏らす。

「ふははは、一見して一番脆そうな所に罠を配置するのは初歩の初歩だぞ! まぁ、でかいだけの爬虫類には解らんかもしれんがな!」

バーカ、バーカと尻をペシペシ叩きながら、骨夫は千頭竜を挑発する。

そのあまりにも低俗な煽り方に、神話の魔物と恐れられた彼の怒りは爆発した。


『ならば直接、噛み砕いてやるわっ!』

怒りの形相で大きく口を開けた頭の一つがリーシャ達に襲いかかる。

だが、その進路上に十人ほどの巨人族の戦士が飛び出して、一斉に千頭竜の頭を押さえつけた!

さらに巨人達の背を駆け登った獣人達が、竜の目に攻撃を加え潰していく!

『おのれぇ!』

押さえ込まれた頭に群がる戦士達に、別の頭が迫る!

巨人をも飲み込む死の(あぎと)だったが、それが戦士を覆い隠すよりも一瞬早く影が走った!


「させませんっ!」

「おぉぉぉぉっ!」

二つの雄叫びが重なり、巨人王の闘気肘打ち(オーラ・エルボー)と獣王の獣気を纏った踵落としが炸裂! 千頭竜の二つの頭を地面へと叩きつけた!

それぞれの王の武威を目の当たりにした戦士達が、歓声を上げる。

「動きは悪くはないが、油断大敵だぞ」

「ですが、見事な連係でした。そのまま各種族と協力して、この難敵に当たりなさい!」

王達からの激励に奮い立った戦士達は、意気揚々と大きな返事を返した。


いくつか展開されている転移口(ゲート)から、アマゾネス・エルフ達が矢をつがえて飛び出してくる。

「放て!」

リーダーらしきエルフの号令に併せて、激しい雨のような矢の群れが千頭竜を襲う。

しかし、その矢は竜の鱗を貫く程の威力があるわけではない。そう判断した千頭竜は、当たるがままに無視を決め込んだ。

そんな標的の様子に、エルフ達はほくそ笑む。

矢が千頭竜に到達すると、そこに込められていたエルフの妖術「錆ニマミレテ砕ケ散レ」が発動、矢が突き立った箇所から一定の範囲が赤茶色に変色していく。

「っしゃ! 今だぁ!」

好機を得たりと、エルフの妖術で脆くなった竜鱗へ冒険者達が殺到した!

「よし! ()けるぞ!」

「どんどん割れ!」

「ヒュー、やりたい放題だぜ!」

千頭竜の背のあちこちで、冒険者達が竜鱗を砕きながら歓声を上げる。

日々、魔物を狩って糧を得る冒険者(かれら)にすれば、神話の魔物も金の鉱脈に見えてくるようだ。

さらに足元の脆くなった箇所へと、人間の王国に所属する騎士達が突撃していく!


『ダニめ……』

己の背で蠢くゴミと足元の蟻、小賢しいエルフどもに千頭竜の怒りが燃える。

それらを一掃すべく、頭の一つから広範囲に激しい炎のブレスが吐き散らかされた!

人間など消し炭も残らぬはずの熱量であったのだが、冒険者とエルフ達を覆うような闘気の膜が彼等の身を守る。

いつの間にか、竜と冒険者達の間に立つ男が一人。

彼こそが、魔法使い達が張った障壁以上の防御力を見せた闘気の膜を生成したのだと、その場にいた全ての者が悟った。

そして、再び炎を放とうとする竜の頭を、何処からともなく飛んできた女が蹴りの一撃でねじ伏せる!


「チャル、お見事!」

「あなたこそ、全員守るなんてさすがだわ」

男女は手に手をとってお互いを褒めあう。

端から見れば場違いな能天気カップルであるが、彼等が見せた実力に冒険者達は言葉もない。

「あれが……勇者か……」

誰かがポツリと呟く。

そう、リディとチャル(あれ)が勇者。冒険者達(じぶんたち)が憧れ、いつかそう呼ばれたいと夢見る頂きの存在。

伝説を目の前にした冒険者や騎士達の背に歓喜が走り、ぶるりと体が震える。

そんな彼等にリディは振り返り、にこやかに笑った。

「大変だとは思うけど、どうか協力してほしい。このまま、奴を削っていっていってくれ!」

「でも、無理はしちゃダメよ。ちゃんと身は守ってね!」

伝説からの頼られ、労られた冒険者達のテンションが一気に上がる!

彼等の歓声に背を押されながら、リディとチャルは次の標的を目指して駆け出した。

そんな背を見送るエルフ達は欲情の籠った熱い視線を送る。そして、誰にいうでもなく呟いた。

「はぁ……勇者の子種……欲しいわぁ」


なぜか急に悪寒がして、リディはぶるりと体を震わせた。

「……ちょっと、格好つけすぎたかな?」

「ううん、すごく格好よかったわよ♥」

「……あんたら、相変わらずね」

走りながらそんな会話をしていた二人に、突然割って入る声。

驚いたリディとチャルがそちらに顔を向けると、そこには彼等と並走する見知った顔があった。

「姉さん!」

「ルディちゃん!」

よっ! といった感じで軽く手を上げたリディの姉ラナルディオの姿に、二人は目をパチクリさせる。

「なんで、ここに!?」

「なんでって、世界を滅ぼすかもしれない魔物が現れたんでしょう? だったら勇者の子孫(あたしら)の出番じゃない」

ルディの言う通り、よく見れば勇者の子孫の村に住んでいた連中の姿がちらほら見られた。ただ、明らかにヨボヨボな長老衆の姿もあったのは意外過ぎたが。

「じいちゃん達が張りきっちゃってさー、村で戦える奴ら総出で来ちゃったよ」

まるで祭りにでも参加するような気楽な物言いに、さすがのリディ達も返す言葉がない。

「ま、あたしらにはあんたら程の攻撃力はないから、他の連中を守る事に集中するよ。だからしっかりやっといで!」

バン! とリディの背を叩き、エルによろしくねとだけ残して、ルディは乱戦の中に消えていった。

「まったく……僕よりは姉さんの方が強いだろうに」

「でもこれで後顧の憂いは無くなったわ。行きましょう!」

「 ああ!」

頷き合い、二人はさらに加速していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ふぅ」

戦いが始まってどれくらい経ったのだろうか……。

ようやく妾は一息着いて戦場を見回す。

状況は一進一退。

千頭竜にかなりのダメージを与えてはいるが、こちら側にもそれなりの犠牲が出ているようだ。

さらにまずい事に、千頭竜めは形態変化を重ね、今は十の頭は統合されて一つの強靭な頭を持つ竜へと姿を変えていた。

ただ頭が一つになっただけならともかく、防御力も攻撃力も十倍で、吐き出すブレスは複数の属性が混じるというメチャメチャな仕様。

魔王達や勇者達の攻撃もろくに通らないのだから、まさに最終形態といっていいだろう。

そこまで追い込んだとも言えるが、正直なところ決め手がない。


「アルトさーん!」

そんな妾の元に、エルとハミィが駆けてきた。

おお、お主達も無事で何よりだ。

「アルトさん! 唐突ですけど、力を貸してください!」

駆けよってきたエルがギュッと妾の手を握る。やだ、エルってば大胆な……。

し、しかし力を貸せと言うことは、エルには何か千頭竜に対抗する手段があるのだろうか?

その疑問をぶつけると、彼は頷きながら自身の持つ魔剣を見せる。その刀身はぼんやりと赤く輝き、とてつもない力を感じさせた。

「いま、この魔剣には千頭竜(やつ)から食い取った竜気と僕の闘気が満ちています。ここにアルトさんの魔力を加えて刃を形成すれば、千頭竜でも斬り裂けるはずです!」

なんと、そんな奥の手が!?

だが、強い魔力を必要とするなら、妾よりも父上の方が適任かもしれん。そう告げると、エルは首を横に振った。


「僕はアルトさんにだからこそ、信頼して全てを委ねられるんです。貴女じゃなきゃダメなんです!」

真っ直ぐな少年の瞳が妾をじっと見つめる。

その視線を受けているだけで、胸の奥に甘い疼きが湧き上がってくるようだ。

「僕を信じて……力を貸してください」

もう一度、エルは妾に懇願する。

愛しい少年にこれだけ頼られて、「うーん、妾じゃ自信ないし……」なんて言える女がいるだろうか!? いや、いない!

「わかった、エル……。お主に全てを賭けよう。妾の魔力、好きなだけ使うが良い!」

妾の言葉に、エルの顔がパッと輝き、そのまま抱きついてくる。そんな彼を妾も受け入れるように抱きしめた。


「……では、参りましょうか」

妾とエルを引き剥がしながら、少し不機嫌そうにハミィが促す。まぁ、確かに今は非常時だが……ふふん、嫉妬はみっともないぞ。

「それじゃあ……決着をつけに行きましょう!」

差し出されたエルの手を握り、彼と共に魔剣に乗って妾達は舞い上がる!

千頭竜の頭を越えて、さらに上空へ!

雲の近くまで登り詰めた時、魔剣を乗り物としてではなく剣として振るうべく、エルは刀身を振りかざした!

「はあぁぁぁっ!」

竜気を食らい、赤く輝く魔剣にエルは自身の闘気を注ぐ。

それに反応して、魔剣からは光が伸びていった!

「アルトさん……」

「……うむ!」

意を決し、柄を握るエルの手に、ソッと妾は手を重ねた。

さあ、持っていけ!妾の魔力!

エルに全てを委ね、解き放った魔力はエルを通して魔剣へと向かう。


闘気、竜気、魔力の三つは絡み合い混ざりあって天を貫く巨大な刃となって雲を吹き散らした!

地上に降り注ぐ太陽がスポットライトのように妾達を照らす!

その姿に危険を感じたのであろう、千頭竜がなりふり構わず妾達を目指して攻撃をしてきた! だが!


「「「させるかぁ!」」」


幾重にも重なる声と共に、父上が! 母上が! リディ殿が! チャル殿が! ハミィが! 巨人王が! 獣王が! 竜王が!

そして、その場にいた全ての戦士達が一丸となって千頭竜を打つ!

『ごおっ!』

絶対的な力を持つ神話の魔物も、皆の力が集結したその一撃に、巨体を揺らして体勢を崩した!


「いっけぇぇっ!」

妾は叫ぶ!

魔闘竜気(ハイパーオーラ)斬りだぁぁぁっ!」

呼応してエルも叫び、妾達二人の刃は振り下ろされた!


巨大なるその刃は、竜の頭を割り、首を引き裂き、心臓を断って、尾の先まで両断する!


『ば……か、な……』


最後まで信じられないと漏らしながら……千頭竜の巨体はゆっくりと左右に分かれていく。

やがて地響きを立てながら崩れ落ちる竜の姿に、一瞬の沈黙が戦場を支配した。

──そして、かの魔物の死を戦士達が悟った時、更なる歓声が魔界の空へと轟いた!

妾達が……いや、戦った全ての者が勝利したのだと、この世界の全て者へ知らせるように勝鬨の声は、いつまでも鳴り止むことはなかった……。

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