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超短編2

卒業イベント。

作者: しおん

 

 学園の王子様。

 なんて、恥ずかしい名前で呼ばれている人がこの学校には居る。なんでも、顔も頭もよくて、性格も優しいらしい。そんなやつ、実際は腹の中が真っ黒なだけだと俺は思うんだ。


 俺が、学園の王子様と同じ学校に入って早三年がたとうとしていた。

 同じ学年だという情報を手に入れてからは、ますますその捜索に力を入れていたっていうのに、卒業近くになってもその姿は見ることが叶わなかった。


 不登校なのかもしれないと思ったが、王子様が不登校とか何言ってんだと友人に言われ、王子は学校に顔を出していることが確定してしまったし、どこかにいることは間違いなかったのに、結局見つからなかったのだ。


 絶対腹が黒いはずだから、その腹を割ってみんなに現実を見せてやろうと思ってたのに。ざんねんだ。


 そして結局卒業式。

 学園の王子様を見つけられなかったのは心残りだったけれど、それさえ除けば充実した学校生活だったと思う。


 式も終わって、もうここに来ることはないのかと思い出に浸るように校舎を眺めていたら、顔も知らない女の子に声をかけられた。


「先輩、第2ボタンくれませんか?」


 こんな時代でもそんなことを言う子がまだいるのかと驚きつつ、僕はかねてから決まっていた言葉を紡ぐ。


「ごめんね、先約がいるんだ」


 俺の言葉にそうですかと残念そうにする女の子。できることならこんな貴重な経験を思い出にするために

 ボタンなんてあげてしまいたかったのだけれど、先ほども言ったようにこの制服の譲渡先には先約があるのだ。


 それは、弟。

 受験に受かった彼は、僕と入れ違いでこの学校に入学することが決まった。親からは新しい制服を買うことがもったいないから丁寧に着るようにと、再三注意されたこともあり、ボタンすらもあげ難い状況だ。


 それに、一人の男として弟に制服を譲るから渡せないなんて、恥ずかしくて言えないのだ。


 彼女の後に何人か同じようなことを言ってきた子がいたけれど、俺はボタンもカラーも制服そのものも、同じように返事をしてその場をのりきった。


 このことを友人に言うと、


「やっぱりモテモテだねえ」


 と、冷やかすように言ってきたけれど、もてるとか、もてないとか、そういうことを話したいんじゃないんだ。

 俺はただ、こんな古風な習慣を女の子は大事にしているのに、同じ女の子であったはずの母親がそれを阻止するようなことをしていいのかということを、言いたいのだ。



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