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シャドウ・スプライト  作者: 駿名 陀九摩
Act1.世界の正体
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~呂洞賓 01~

「ひぃっ、ひひひぃっ!」


 葦原佐久弥が部屋を出て行ったあと、おれは笑いのツボをおさえるのに必死になっていた。

ようやく落ち着いたあと、電源を落としていた「羅針盤(らしんばん)」を再び起動させた。そして通信すべき相手に向かって念を送る。

 羅針盤には相手の「幻像(げんぞう)」が浮かび上がり、おれがしゃべるのを待っていた。


「あー、ウェイウェイ。『占い』にあったとおり、奴は粛清計画に食いついてきやがったぜ」


 幻像の人物は身ぶりせずに話しかけてきた。


「『仙族(せんぞく)』同士ではもっと口を慎みたまえわが弟子よ。それと「占い」ではない。『(えき)』だ」


 話し言葉に風格がただよう。わが師、漢鍾離(かん しょうり)に向かっておれは謝った。


「これはご無礼を師匠。ついでに奴にさりげなくあなたのことを吹き込んでおきましたよ」

「余計なことを。彼とは今度私が直接まみえようと思っている。

 かの者の『(そう)』には私も興味がある」


 それを聞くと、つい師匠の前でも怪訝(けげん)な表情になってしまう。


「まさか。たしかに奴は以前より変わった相になっていますが、おれにはそれでも『頭はいいが利口ではない』人物としか思えません。いや、なにかほかに心当たりの人物でもあるのですか?」

「『ゴーダマ・シッダールタ』」


 おれはつい吹き出してしまった。


「ぷっ!? ちょっ、ちょっと待ってくださいよ師匠。

 いくらなんでも奴と『釈尊(しゃくそん)(ブッダのこと)』を一緒にするのは変でしょう。レベルが違いすぎます」

「今はな。だがいずれ化けるかもしれん」


 思わず眉間(みけん)のあたりにシワがよる。


「どういうことですか。なぜなぜわざわざあのようなお方と佐久弥を比較されるのです」

「彼も釈尊も、この世に行ける衆生(しゅじょう)をすべて救済せんと欲しておる。そして私が彼の相を見る限り、どうやら釈尊と同じく、深い(ごう)を背負っているように見受けられた」

「……しかしあの男は間違いなく葦原佐久弥です。

 奴の武器はあきらかに『涅槃(ねはん)の知恵』ではなく『武力』です」

「手法が異なるかもしれん。奴がもしあくまで武力を使うのならば、たとえ敵の命を奪ってでも目的をなさんとする鬼神と化すかもしれん」


 おれはわざと喜んで見せた。


「そうなると大変なことになりますね。ちなみにこれからの易、あなたの見立てではどう出てます?」


……すこしだけ待った後、師は答えた。


「『(あずま)より来たりしもの、騒乱(そうらん)を呼び、狂乱の神々ふたたび(たけ)んとす』」


 おれは思わずにやりとして腕を組む。


「確定ですね」

「私としては彼を止めてもらわねば困る。

 粛清計画は進められねば。いま奴らと争うことはいずれかの断絶となりかねん」


 おれはそこで態度を変え、彼に毅然(きぜん)として言い放った。


「師よ、前にも言った通りおれはそれには賛同しかねます。

 ヴェフェリムは一刻も早く掃討(そうとう)すべきです。世俗の荒廃(こうはい)の一因は、明らかに奴らにもあるのです。

 たしかに今さら粛清計画は止められませんが、奴らの討伐にその前後は関係ありません」

「お前は以前、『弟子が師のすべてを吸収する必要はない』、と申しておったな」

「『青は(あい)より出でて藍より青し』とは申しません。

 ただ、師と意見を違えることも互いのさらなる研鑽(けんさん)となるのでは、とあらためて申し上げます」

「ほざけ」


 さっきから目立ったリアクションがない。この人は会話のさい口だけが動く。


「それにおれは少なくとも立場的にはすでにあなたをも超える風水院の筆頭なのです。

 おれがその責任者となるならば、あなたも彼をとどめることはできないでしょう。ですがご安心ください。そうなればおれもただの異端分子。一切の擁護(ようご)は無用にございます」

「勝手にしろ。ただ懸念(けねん)事項が確定となった場合はいち早く風水院に知らせよ」

「シェシェ、あいわかりました。それでは通信を終わります」


 おれはそういって一方的に切った。奴が予言通りに動く可能性は9割。でもおれは易以上の確信があった。

 奴は必ず戦いの道を選ぶ。

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