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シャドウ・スプライト  作者: 駿名 陀九摩
Act1.世界の正体
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~04~

 肩をたたかれて、自分が気絶していたことに初めて気がついた。

 先ほどのマスクが起こしてくれたようだ。


「どうやら佐久弥の記憶がないのはホントみてえだな。

 大丈夫かよ、だとしたらこれからもパニックシーンの連続だぞ」


 起きてみると、どうやら後ろのソファーに寝かされてたみたいだ。俺は起きぬけに首を振った。


「いや、大丈夫だ。矢継ぎばやに超常現象が起きたもんだから、脳みそがついていけなかっただけだ」


 それを聞いて、男はマスク越しでわかるくらいにニヤニヤしている。


「おいおい次も超常現象だぞ? ホントについていけんのかよ」


 俺は眉根を寄せて聞いた。

「今度はなんなんだ」


 奴はあごで指図すると、飛行機の窓へ誘導した。


「みろ、あれがオレたち超能力者たちの隠れ里だ。ホントに覚えてないか?」


 窓の外はうっすらときりがかっていたが、それでも巨大にシルエットが浮かんでいるのがわかった。

 そして驚いた。まず、スケールがバカみたいにでかい。隠れ里といっても、まるで都心の一画ぐらいの規模はある。さらに驚くべきなのが……


「おい。この街、

 宙に浮かんでいるように見えるが気のせいか?」

「『ように見える』んじゃなくて、“本当に空に浮かんでんだよ”。そんなこともわかんねえのか?」


 男は少ない髪の毛を()いた。俺は眼を丸くして応える。


「ラピュタ……」

「うわっ、こいつマジで一見(いちげん)さんと同じこと言いやがった……」


 そのあきれ声に耳を貸している余裕はなかった。俺はまじまじと街の様子を観察していた。

 それはおおまかに巨大な円盤の形をしており、それがいくつかの層に分かれて数多くの巨大な摩天楼(まてんろう)を乗っけていた。

 中央にはとりわけ大きな摩天楼がそびえており、そいつはまるで中国の楼閣(ろうかく)のような形をしていた。


 どうやら飛行機はその楼閣へと向かっているようだ。





 UFOは予想よりもでかい楼閣の屋上付近に入った。

 そこはちょっとした空港になっていて、同じ形のUFOがいくつか停泊(ていはく)していた。

 そのUFOの向こう側からのぞく青空が、今は妙にまぶしく感じられた。


 (じゅん)とかいう男とはそこで別れ(何も言わずに勝手に去っていった)、俺はこれまた全体的に丸みを帯びたエントランスに案内された。

 妙にピカピカな床を通ったあと、エレベーターがあるのを確認した時はまた驚かされた。

 天井はおろか壁も一切存在せず、ただの平板が宙に浮かんでいるだけなのだ。


 床とエレベーターの板の隙間(すきま)が若干あいているのにもビビったが、移動するときはそれがズズズと下に降りて行くだけなので、ずいぶん肝を冷やした。まわりをよく見回せば絶景が広がっているのだろうが、いまの俺はそれどころではなかった。


「ハハハ、お前ホントに新人みてえなリアクションすんな!」


 白い男が小バカにして笑う。





 そして俺はとある部屋に案内された。

 中は一面濃い灰色をしていて、同じ色のテーブルと椅子が置いてある、ただそれだけの殺風景な部屋だった。


 俺たちはその座席に対面して座り、今はどうしようもない禅問答(ぜんもんどう)を繰り広げている。


「おい、ホントにおれのこと覚えてねえのか?」

「何度同じことを言わせるんだ。

 俺はお前のことなんか知らないし葦原佐久弥(あしはら さくや)という人物でもない」


 殺風景で誰もいない部屋で幾度となく繰り返される会話。ただ記憶喪失ってだけならこうはならない。

 なぜなら俺は井光廉雅(いびかり かどまさ)という別人だからだ。


「どうしてお前はそんなあからさまな質問ばかりする」

「言ってることが矛盾してやがる。見た目も性格も全く同じなのにアカの他人だなんてありえねえ」


 さっきからこいつは似たような質問を繰り返すばかりで自分の名前も名乗ろうとしない。


「空中都市に住んでいる人間が俺の話を信じられないってか、笑えるな」


 この空中都市の名は『蓬莱(ほうらい) 』ってことだけは教えてもらった(ただし半分ため息まじりで)。

 蓬莱、中国神話に登場する伝説の島にあやかっているのか。ここはどうやら超能力者だけで生活している街らしい。

 非能力者の眼から逃れるにはこれだけのことをしないとダメっていうことか。それにしてもこの街はどんな動力で宙に浮いてるんだか。


「勘違いすんな。世俗の常識が通用しねえからっておれたちが常識を持ってないわけじゃねえ。

 むしろおれたちのほうがより物理法則を強く意識していると考えるべきだね」

「じゃあお前らはなんで超能力を使えるんだ」


 すると男は首をすくめて俺をたしなめる。


「超能力? そんな呼び名はおれたちが使うべき言葉じゃねえ。俺たちにとってそいつぁ差別語だね。

 おれたちにゃおれたちなりの能力の呼び方がある。本当に覚えてねえのか?」


 なんだかめんどくさい展開になりそうだ。俺はそっけなく答えた。


「なあ、俺が悪かった。この際自分が誰なのかはなかったことにしよう。

 俺は記憶喪失、自分の名前はおろかここがどこなのか、自分がなぜちょうの……じゃなく不思議な力を使えるのかさえ覚えてない。そういうことにして話を進めようじゃねえか。なあ兄弟」


 ようやく大人の対応をすることにした俺に、それでも男はしかめっ面をやめようとしない。やはりその容姿は少年にしか見えない。またポリポリと後頭部を掻いた。


「知ってる顔に説明するのはしんどいんだがよ」

「……たのむよ」


 男はため息をついて(あと小さく「新人マニュアルを思い出せ」とつぶやく)説明を始めた。


「よし、じゃあ自己紹介から始めようじゃねえか。

 おれの名は『呂洞賓(りょ どうひん) 』。ん? いま聞いたことあるって顔したな、それについては後で説明してやんよ」


 呂と名乗る人物は立ち上がり、斜めを向いて両手を広げた。


「超能力者、いろんなSF作品に登場してるよな。連中どんな感じで登場してる?

 だいたいの作品だと、ごく普通の何の変哲(へんてつ)もない凡人が(同じ意味の言葉を繰り返すなよ)、ある日突然目覚めるってのがパターンだよな。おれらからすると笑っちまうけどな」

「違うのか」


 俺の質問をきっかけとして呂はテーブルの周りを回り始めた。長話の予感。


「いや、そうでもねえ。きっかけはいろいろあれど、世俗の連中のなかにはそうやっていきなし能力に目覚める連中もいる。ごく少数の人間だけだけどな。

 いまお前に説明しているのはまさにそういう『新人向けマニュアル』ってやつだ」

「じゃあそのほか大多数は?」


 すると奴は困った顔であごに手をあてる。いや呼吸器のヒモをつまんでる。まるで仙人が白いヒゲに手をやってるみたいで、なんだかわざとらしい。


「その話をする奴ぁだいたいショックを受けるんだがな、おれにしちゃ何でそこまでショックを受けなきゃいけないんだがわかんねえ。

 奴らの読んでる本に出てくる超能力者は、だいたい普通の連中から差別を受けてる。

 つまり超能力を持ったところで幸福にはなれんっつうことを連中はハナからわかってるってこった。

 だのに奴らは超能力ネタを()りずにリリースし続けてやがる。おれにはあきれるを通り越してなんだか不可解だね」


 俺はなんだかはぐらかされたようで不愉快になった。


「おい、その話重要なのか? 脱線ならお断りだ」


 すると奴は血相を変え、なんだか生き生きとした眼で指を一本突き立てた。


「いや、重要なんだなこれが。

 つまり奴らは超能力者そのものに(あこが)れてるんじゃなくって、

 超能力者が実在することにあこがれているのさ。

 これはひょっとすると心のどっかで、そいつらに支配されたがっているんじゃないか、とおれは見ているんだがよ」


 俺は嫌な予感がしたのだが、質問をやめられなかった。


「……どういうことだ」

「悪いがいったん話を変えよう。『政教分離(せいきょうぶんり)』、って言葉は知ってるか?

 これは政治的なリーダーと宗教的なリーダーを分別するっつう考えなんだが、じつははるか古代文明ではこいつはかなりスムーズにおこなれてきた。政治的リーダーを長老や首長、そして宗教的リーダーをシャーマンとするといった具合にな。

 これはなぜなのか? 都市に生活している人間の世界観をみるとわかりやすいんじゃねえか?

 奴らは自分たちのコミュニティの維持(いじ)にこだわるあまり、自然環境や遠い世界の出来事への関心が薄れやすい。

 シャーマンはそんな人間関係から一歩距離を置いて、それ以外の物事に集中する必要があった。宗教の司祭が禁欲を行うのもおんなじ理由だな」

「それがどうして超能力につながる?」


 ゆっくりと俺のまわりを歩き始める呂。なんだか楽しそうだ。


「いろいろ異説はあると思うが、おおまかに古代のシャーマンの役目は自然に耳を(かたむ)け、部族の発展のありようを客観的に分析するっつうのが仕事だ。

 そんな連中が一般的な人間よりも違った能力に長けていたとしても不思議じゃねえだろ」

「だからってこんな人間離れした能力を持つにいたる理由にはならないだろう」


 そういうと奴は人差し指を上に突き出した。


「そう、最初はただ単に吉兆を占うとか、大自然の声なき声を聞くとか、ごく簡単な能力しか持たなかった。

 しかし彼らは次第に“自らの能力を拡張していく”ようになった。訓練やシャーマン同士の婚姻(こんいん)、そしてシャーマンだけのコミュニティの結成などだな」


 次第に自分の体から寒気がしてくるのがわかる。震える声で質問を続けた。


「なぜそんなことをしていく必要がある?」


 すると奴は突然テーブルをたたき、突然声を荒げた。


「そうしなけりゃ“他の人間たちを支配できねえ”からだ!

 放っときゃ奴らは自分たちで勝手に自然環境を荒らしまわり、同じ人間同士で争い始める!

 それを力ずくで無理やり押さえつける必要があったのさ!」

「…つまり、他の人間を奴隷(どれい)にする、ということか」


 呂はテーブルから手を離し、腕を組んで不敵に笑う。


「乱暴に言うと、そういうことになるねえ」


 俺は下を向いて額に手をあてざるをえなかった。


 奴隷人間、完全なる遺伝格差、人種差別も真っ青のアーリア人、カースト制度。

 ガンジーやキングはある意味間違ってた。ファシストやレイシスト(白人至上主義者)はある意味正しかった。

 ただ1つ違うのは、地上には優勢人類はいないということだ。


「で、人間は超能力を持つ人間と、持たない人間にわかれた。そういうことだな?」


 神は人の上に人を作り、人の下に人を作りたもうた。悪夢を見ているようだ。呂は深くうなずく。


「そうさ。シャーマンたちは自分たちだけで交配を繰り返した結果、他の人間たちとは違う、まったく別の種族になり変ったんだよ。

 おれたちは自分たちのことを賢者・すなわち『メイジ』、世俗の人間たちを愚者・『フーリッシュ』と呼ぶ。

 そして俺たちの使う能力は才能・『アビリティ』と呼ぶ。ホントは『サイコ・アビリティ』って言うんだけど、ヒッチコックのせいでサイコがつくといやがる連中が多くてな」


 奴の口調は次第に冷徹(れいてつ)を帯びていく。

 もうお前は今まで知っていた人々の仲間ではない。これからは我々の一員として生きていけ、そういうことか。

 俺は乾いた笑いが止まらなかった。


 聞く人物によっては死刑宣告を受けるようなものだろう。

 俺は地上ではもう守るものはないが、そうじゃない人間はどういう心境でこの言葉を聞くのだろう。


「おれだってこういう話をするのはつらいさ」


 この言葉にウソはないだろう、なんとなくそれは伝わった。だがどこまで同情しているのかは疑わしかった。


「だがアビリティを持った時点でその人間の運命は決まってしまうんだ。

 簡単じゃねえが、新人さんにはいままでの生活を捨ててこっちで新しい生活を始めることを(すす)めてるよ。どうせ世俗で生活を続けてもうまくいきっこない」


 しかし自分たちの仲間が増えるのは、こいつにとっては何よりの喜びではないのか?

 俺はここで、1つの疑問につきあたった。


「じゃあ、なぜお前らはこんなところでこそこそしている? お前ら現在は人間を支配していないのか?

 俺にはその……フーリッシュとやらが地上で好き放題やっているように見えるが?」

「支配してるよ、『一応』な」


 そう言いながらも、奴の表情は険しくなる。


「おれたちはあらゆる手段を使って奴らを監視してる。奴らに確実にバレない手段を使ってな。

 そしてあまりに行き過ぎている時は直接手を下すこともある」

「満足にやれてるわけじゃなさそうだな」

「やつらはおれたちが監視できる許容範囲の何倍もの人口を持つ。今や70億人っていう時代に、おれたちゃたかだか数十万人ぐれえしかいない。

 こちらもそれなりに人数を増やそうとはしてんだが、おれたちが自然に逆らうのは難しいようだな」

「どうしてこうなった」


 ここで椅子に腰かけ、呂が(さと)すように切り替えた。


「なあ、お前疲れてねえのか。おれの話を一度にこんなに聞こうとした奴はお前だけだぜ。

 まあお前さんは世俗で帰りを待ってる奴はいねえからかもしれんがよ」


 呂は心配する顔で俺に告げる。俺は勇気を出して言ってみた。


「いいや、続けてくれ。こうなったらピンからキリまで話を聞かないとおさまらない」

「……こっからは本当に言いにくいことなんだが……」


 そこから彼はしばらく黙った。再び言葉を紡いだのは1分ぐらいかかったと思う。


「シャーマン同士で婚姻するようになったっつっても、するかしねえかは当人の自由だった。

 それでも時がたつにつれ、シャーマンと一般人の能力差は歴然となり、メイジはフーリッシュを軽蔑(けいべつ)するようになってく。

 しかしいつの時代も少数派っつーものはいるもので、あえてフーリッシュとの愛をはぐくむメイジもいるにはいた、らしい。

 しかしもうその頃には遺伝レベルで差がついてたので、子供は非常に生まれにくかった」


 呂は再び席を立って俺の周りを回り始める。


「問題はそっからさ。

 生まれてきた数少ないガキどもは、自分のアビリティをうまく操ることができなかった。

 そんだけでなく精神的にも不安定な奴が多く、中には好んでフーリッシュをいたぶり殺すクソも出始めた。当然奴らは健全なメイジたちから差別される。

 またメイジとフーリッシュの婚姻(こんいん)も公式に固く禁じられた。しかしそれだけならまだよかった」

「それだけならよかった?」


 俺は眉をひそめる。彼は拳を握り、続ける。


「アビリティを制御するということは、制御自体に相当のエネルギーを使う。制御というタガを外れた力はずば抜けて強いっつうことだ。また連中には、自分自身のエネルギーのみならず、身の回りに宿る自然エネルギーまでも取り込む能力があった。自然と個人は深いつながりを持つからな」


「つまり、その中途半端な能力者たちが、普通のメイジたちに反逆し始めた」


 俺は身を乗り出した。


「そう、奴らは次第にメイジたちを(おびや)かし始めたのさ。

 当然メイジと彼らは大規模な戦争を行った。奴らの中には完全にメイジ社会を掌握(しょうあく)した連中もいやがる。世界各地に残る神話ってのは、もともとそのころの歴史をもとにしているやつが多い。神話における大規模な戦争はこの時の世界大戦が元になってる。

 おおまかに2度に分かれたこの大戦を、おれたちは『フィロソマキア(賢者大戦)』と呼んでる」


「つまり、その大戦に負けた?」


「いや、もし負けてたとしたらこの世は完全に奴らのものだろうな。

 実際には両者がほとんど壊滅(かいめつ)状態で引き分け、両方ともフーリッシュに追われる結果となった。

 おれたちメイジはこの街のような場所で隠れ住むようになり、奴らはフーリッシュの社会にまぎれた」

「連中に特別な名前はつけているのか?」


 呂は人差し指をつきあげた。

「『ヴェフェリム』。聖書における『ネフィリム』や『デヴィル』の語源になってるな。文字通りの『堕天使(だてんし)』だぜ」

「つまり、今現在はメイジとその『ヴェフェリム』って連中が世界を分け合って支配してるってことか」


 そういうと、奴は手を横に振った。


「いや。おれたちは自分たちの仲間を増やすことでせいいっぱいで、あまり世俗の政治に干渉できてない。

 一応監視はしてるが、非常事態以外の時は現状野放しになってる。そうじゃなきゃ世の中こんなに腐っちゃいねえだろ」

「……ヴェフェリムのほうは」

「さっきも言った通り、連中は出生率が低くて数を増やせない。

 ていうか現状残っているのは数家族ぐれえしかなく、メイジとフーリッシュを無理やり交配させて仲間を増やすっていう手段も使わずに、基本自分たちだけで子づくりばっかりしてやがる。

 その代わり奴らは下界の政治に積極的に関与し、数多くの歴史上の陰謀(いんぼう)に加担してやがる。また科学技術も一歩先進んでて、様々なテクノロジーで兵器・兵隊を増やしていやがる」

「じゃあ、現状はヴェフェリムとフーリッシュの好き放題ってわけだ」


 俺は鼻を鳴らして行った。すると呂は小さくかぶりを振った。


「どうかな。まあこのまま現状を維持し続けるってのも問題なんだから、いずれ決着をつけなきゃならねえんだが……」


 ここでなぜか彼は突然話を切り上げた。


「そうだ。ここは新人研修らしくこの街を観光としゃれこんだらどうよ」


 なぜだろう、妙に話をはぐらかされたような気がするんだが。しかし表情には出さず取り(つくろ)う。


「案内してくれるのか?」

「いや、他のに任せるぜ」そして彼は突然耳に手をあて、

「ウェイウェイ、秘書室聞こえっか? 呂だ。……じつは新人案内をまかせたくてよ。誰かヒマな奴いるか?」


 しばらくした後、奴は「ああ、それがいい、シェイシェ」と言って耳から手を放した。

 耳をみると、黒くて丸いイヤリングをつまんでいるのがわかった。呂は俺の視線に気付いた。


「ああ、これか? このイヤリングはチョー便利な通信機器でよ、

 手をあてて話をしたい相手を思い浮かべるとつながる。しかも声に出さなくても念じるだけで会話できる」

「じゃあ、この街が宙に浮かんでるわけは?」


 すると奴は自慢げに答えた。


「『風水(ふうすい)』の応用だ。風水ってのは、本来おれたちのアビリティがあってはじめてその真価を発揮すんだが、うまく気脈をつかむことができればこの街みたいに、ドデカイもんだって宙に浮かすことだってできる。おれたちのテクノロジーはだいたいそういうテクを使ってる」


「あんたの名前も聞いたことがあるぞ」


「ああ、中原|(中国)の神話の中を探したら一番人気のある8人の中におれの名前があるんじゃねえか? 

 つっても不死身なわけじゃねえぞ。おれたちはチベット仏教でいう転生術、『リンカネーション』ってやつを使ってる。

 自然死する際に、エリクサーあるいは金丹(きんたん)って薬を使って自分の人格をなんにもわからねえ新生児に移植するって方法だ。

 記憶は飛ぶが、その代わり幼児期からあっという間にいろんなことを覚える」


「へえ、すげえな」


 俺は素直に驚嘆(きょうたん)した。どうやらこっちの世界は、下界の人間たちがどんなに時間をかけても追いつけない超絶的なテクノロジーをもっているらしい。

 まさに「超古代文明」だ。


「そうだ、お前自身はどんなアビリティを持ってるんだ」


 俺はもう1つ気になることを尋ねた。すると相手はあきれたように肩をすくめる。


「おれか? 今はしがない『占い師』だよ。ただそいつを使ってお前を見つけたってことは覚えとけ」

「感謝しとくよ」


 一応感謝の念はこめたのだが、ひょっとしたらそっけなく見えたかもしれない。

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