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シャドウ・スプライト  作者: 駿名 陀九摩
Act1.世界の正体
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~02~

 俺とうずめは喫茶店を出た。


「せっかくやから、もうちょっと歩いてかへん?」

「仕事どうするんだよ」


 俺が突っ込むとうずめは包み袋でポンと俺の体をたたいた。


「仕事の帰りやからつきおうてやってん。いくらうちがサボり魔でも無断欠勤なんかしまへん」


 うーん、とうなりながらも俺は彼女と歩き始めた。

 さて、じゃあ何をしゃべろうかと思った時、後ろから何やら異常な気配を感じた。

 どうだろう。それを目にしなくても、いや振り返ること自体が危険であるということを、俺は肌で感じていた。


「どうしたん?」

「いや、なんでもない」


 気になって俺を見つめるうずめに、俺は平静を装った。一瞬、まさかと思った。

 振り返った。少し遠い場所に、メルセデス・ベンツが止めてあった。

 間違いない、気配はあの車からだ。


 そのまま見つめ続けたのがまずかった。車が急発進し、突然俺たちの方向へと向かってきた。

 俺はすぐさまうずめの体を抱き寄せ、道路のそばへよけた。

 車は俺たちの真横で急ブレーキをかけた。うずめがびっくりして叫ぶ。


「きゃっ!」


 黒いドアが開いて、中から黒いスーツが3つ現れた。顔を見ると全員人相が悪い。

 どうやら葦原佐久弥と言う男は相当な(うら)みを買っているようだ。

 オールバックの男が(ふところ)から拳銃をそっととりだす。俺はうずめをかばいつつ、3人を問いただした。


「狙いは俺だろっ!? じゃあ俺だけを連れてけよ!」


 車の反対方向にいるスキンヘッドの男が口を開いた。眉間のしわがグッと寄った。


「よくもまあ人の話も聞かんといてしゃあしゃあとぬかしよるわ。

 てめえだけじゃ危のうてしゃあない。お嬢ちゃんもついてきてもらうで」





 俺たちは仕方なくメルセデスに乗り込んだ。

 いまの体力ならこいつら簡単に潰せそうなのだが、横にいるうずめがなにしろ着物を着ているのでやりづらくてしょうがない。日本古来の伝統衣装も有事には考えものである。

 あいだにうずめを挟んだオールバックが顔を向けずに銃だけ向ける。


……おいおい、ちょっとはこちらを見たほうがいいんじゃないか?

 俺からしたら、お前全然スキだらけだぞ? 人質がいなかったらてめえら車中で今頃全滅だ。


「佐久弥はん……」


 うずめが不安になって俺を見た。俺はほかの連中にばれないようにウィンクを送った。うずめも小さくうなずく。

 暴れるのは簡単だが、問題は奴らの銃の数だ。

 もし前の座席の2人も銃を携帯していたのなら、俺じゃなくうずめの身の安全がぐっと落ちる。

 まずは様子をうかがい、何気なく探ったほうがいい。俺は表情を変えずに問いただした。まずはジャブからだ。


「どこへ向かう気なんだよ」

「お前の処刑場」


 なんの面白みのない回答。てめえ本当に関西人か、ボケろ。


「まさか、たった3人で俺をつぶす気なのか?」


 俺はいきなり本題に入った。この質問1つでいろいろなことが分かる。


「んなわけないやろが。いま事務所に連絡とって兵隊どもを現場に向かわせとる」


 なるほど、数で勝負ということか。

 いまの日本の暴力機構にたくさんの銃を購入できる資金力があるとは思えないから、あったとしても数丁程度だろう。全員が火器を持っていると考える必要はなさそうだ。

 だとすると手ごろな武器でリンチ、と考えるのが妥当だ。


「ふん、数を集めたところで俺ひとり殺せるわけがないだろうが」


 もし俺がいまの体力で本当に忍者であるとするなら、ヤクザ風情では太刀打ちできない。

 しかし仮にこいつらが(おおやけ)にならない裏組織であるなら、そういったのとは全く別の対処法で挑んでくるはずだ。そうだとすれば勝ち目がない。


 ここでスキンヘッドが身を乗り出して振り返る。


「なにぬかしとる? まるで自分がスーパーマンみたいなもの言いやな。

 ボケるのも大概(たいがい)にせえや」


 あらまあ、俺のことまったくご存じないのね。じゃあ安心だ。

 じゃあもし俺が本当のスーパーマンだったらてめえらノリつっこみね。





 そういったやり取りをしているうちに、現場に着いたようだ。

 学校だか病院だかよくわからない廃墟(はいきょ)で、真ん中に中庭があるようだった。


 俺たちは銃で脅され車を降りる。

 さて、こいつらはどうやって俺を殺すつもりだ。

 もし彼女を目前に突き出しつつやるつもりなら対処は難しくなる。逆に、こいつらが(たなごころ)を見せて彼女を別の場所に連れていくつもりなら完全に奴らの自殺行為だ。


 俺はいろいろ奴に詰問(きつもん)した結果、徹底的に俺を(はずかし)めるつもりはないと見た。

 まず、こいつらは葦原佐久弥が忍術使いだということは知っているが、その葦原佐久弥が常人を超えた身体能力の持ち主だということまでは知らない。

 また、組織の頭であるこのスキンヘッドには、俺に対する深い恨みはあっても女の目の前でいたぶり殺すほどの度胸は、おそらくない。


「おらっ! おまんはこっちや!」


 スキンヘッドがうずめの着物を掴んで引きはがそうとする。

「ちょ、まってぇなっ! 佐久弥はんっ!」


 うずめが顔だけ向けて助けを求める。


「俺なら大丈夫だっ!」


 ウソではない、事態は完全に俺のペースだ。俺はオールバックにうながされ歩き始めた。





 建物の中へ案内されると、そこに数人の男たちが待っていた。

 彼らは色とりどりの服装(しかし完全にチンピラの格好)に、これまた様々な武器を手に取っている。

 鉄パイプ、金属バット、角材。これは何に使われるのか。いざという時の護身用? それとも……


「よし、お前らこいつ料理してもええぞ」


 はい、リンチ用でした。オールバックが数歩下がって銃を降ろす。

 そして前の男たちが俺をとり囲んだ。ざっと9名。俺を苦労させる気なら圧倒的に数が少ない。

 そう思っていると、ひとりが俺のそばに近づいた。


 そろそろ来るな、と思った瞬間。俺の腕が勝手に動いた。


 金属バットをたたきつけてこようとする男の両手を驚くべき手際で折りたたみ、直後に男の首を掴んで押し込んだ。

 俺が超人的な力を持っているせいで、男は軽く吹っ飛び、そのまんまあおむけに倒れこんでしまった。


 寄ってみると、まだ息があるようだ。そう思った瞬間、今度は後ろから羽交(はが)い絞めにされた。

 そこでまたしても体が勝手に動いた。すっと息を吐いたかと思うと、姿勢を正して思い切り前にかがみ込んだ。

 そのまま後ろの人物は吹っ飛ばされ、仰向けの男の上に衝突する。2人の男のうめき声がわずかに聞こえた。そのまま両者動かない。


「ワレェェェッ!」


 今度は左のほうから男がやってきた。鉄パイプを振りおろそうとしている。俺は落ち着いてその動きを見極めた。

 何をすればいいか、あらかじめわかっていた。身を前に乗り出し、振り下ろす前に鉄パイプを掴んだ。

 そして反対側に思い切り引っ張る。男の足はそのまま空中に投げ出され、そのまま背中から落下した。

 まだ息があったので俺は倒れている男のみぞおちに指先をすとん、と当てた。

 すとん、と当てただけなのに、これだけで男は気絶した。


 次は前後から男たちがやってくる。

 この目で確かめたわけではないのに、死角からも襲いかかってくるのがはっきりとわかった。俺にはそういう能力も宿っているらしい。

 あわてて伏せて前の男の足に靴裏を当てる。


 つんのめりになる男の両腕を一瞬でつかみ、それを後ろに向かって(ともえ)投げした。当然背後の人物にぶつかり、そのまま両者とも地面に叩きつけられた。


 驚くべき速さで数人の男を撃退してしまった。俺は相当高度な格闘術を扱えるようだ。

 昔見たマット・デイモンの映画がオーバーラップする。記憶がないはずなのに、勝手に体が動く男。うずめの言っていた通り、やはり俺は忍者だというのか。

 残った男たちが下がった。オールバックが銃を構えて俺に詰め寄る。


「ちっ、相変わらずええ動きしよる。でもこいつのほうは避けられっかいな?」


 引き金を引く前に、俺はすばやく前転した。たった1回で目前まで距離を詰めた。

 俺は両手で奴の手首を掴むことで銃をもぎ取ろうとした。


 ところがだ。どうやらこいつ素人ではないようで、さっと持ち手を切り替えて銃口を向けようとする。

 俺はパッパと両手でさばいてよけようとするが、相手もあきらめが悪い。


 そのうち銃がなにもない場所に火を噴いた。まわりの舎弟が驚いて逃げていく。

 2人だけになったのを確認して、こうなったら秘密のバカ力でも使ってやろうかとも思ったが、相手のほうに一瞬のスキができて押し倒した。


 相手の足が引っ掛かりそうになるのを綺麗にさばいて、馬乗り状態になる。

 こうなるともう俺の勝ちだ。俺はゆっくり銃をとり上げようとした。


 しかし、なにやら妙な予感を覚えて、俺はあえてオールバックの喉元を左手で掴んだ。


 そして驚いた。見る見るうちに、男の体から力が抜けていくのだ。

 男はそのままガクッと落ちた。俺はいったい何をやったのだ。これも忍術の一部なのか。


 しかも、なんだこれは。まるで奴から体力を奪ったことで、“俺のほうが元気になっている”ようだ。

 こりゃ忍術というよりまるで超能力だ。

 釈然(しゃくぜん)としないながらも、俺は小石をいくつかつまみ上げ、中庭のほうに向かった。

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