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ハーフタイム・ドライブスルー

自販機は昔懐かしの紙パック式で、ウィーンと動く機械(アーム)が、俺の太陽生乳、おいしい牛乳を取り出し口まで運んできてくれた。


休み時間に、俺と盟友?、縮れ毛の康輝と一緒に、生徒玄関前の自販機で、紙パックのジュースでも飲みながら、先刻の彼女について、情報を共有していたのだ。

(ちなみに縮れ毛は、大して苦くも無い、キリマンジャロコーヒーだった)


本名は、新木田桜子(にっきたさくらこ)


聞けば彼女、ロシアからの帰国子女らしいのだ。


ロシア、からだの中にウォッカが流れるヒゲクマ親父と、スラブ系金髪美少女という、豪快な抽象図(イメージ)が、頭の中に浮かんだ。


大人しめな印象からか、彼女から一片も、その様な印象を抱かなかった俺からすると、新鮮で意外な事実であった。


学内にも、いち早く目をつけ出したファンが、ちらほらと点在してるらしく、競争倍率は高い、そんな彼女だった。


飲み終えた牛乳パックをゴミ箱に投げ捨て、なかなか有意義な情報を手に入れた俺であったが、一時限分の合間に、これほどの情報を収集する、康輝の手周りの早さに、感心を通り越し、若干の不気味さを感じた。


だが俺も、入学式の一瞬で、これほどまで彼女に魅了されるのは、一目惚れなんじゃ無いかと、コーヒーを飲み終わった彼の口から指摘を受けた。


実際、彼女の身辺の情報を熟知して、そのステイタスだけで美少女と断定する他の野郎より、素のままの彼女の良さを直接感じ取り、そして魅了された俺の方が、純粋な「好き度」は高いだろう。


しかし、今まで全くと言っていいほど、女性との付き合いがなかった俺にとって、女慣れしてない、もしかしたら女なら誰でも惚れてしまうのでは無いか、という疑問の声が、俺の中で上がった。


前述した様に、中学生のときは、ほとんどの女子が、付き合いにくいよそよそしさがあったのだ。


また、俺も遅熟だったので、あまり興味がなかったというか、恋、という意味合いを、それほど深く噛み締めたことがなかったのだろう。


どっちにしろ、彼女への想いが、嘘か誠か、今の段階でははっきりしない、まるで暗闇の中、一筋の光に向かって走っているが、その光の根源は分からない、そんな感じだった。


一人思慮に浸っている俺を見て、康輝は、視野を広げることだな、と、有難くもご忠告をして下さった。


視野、そういえば、どうやって短時間で、彼女の情報を集めたんだ、と問いただしてみた。


そいつは人差し指を、チッチッチ、と左右に振り、

「情報屋としての、企業秘密だな。」

と答えた。


大方、学年全体の女生徒を視野に入れた、大規模ネットワークでもあるのだろう。


時折見せる、キザったらしい態度は健在だった。


とはいえ情報屋なら、何か情報に見合った対価を要求してくると思った。


幸いなことに、目ぼしい物は、何も無いぞ、と彼に対して理不尽なクーリングオフを申し出た。


そんなアングラな仕事を生業としているなら、タダ働きされるのも、覚悟の上だろう、俺の声に、容赦という2文字はなかった。


だが、野暮ったく、女好きに見えて、俺の斜め上を行くのが、この男だ。


「誰でもいいからよぉ、知り合いに年下の女の子、何人かいねぇか?」


彼が言った。


「年下?身内にはいるが、小学生くらいだぜ、」


「続けろ」


俺の言葉に間髪入れず、彼は言葉を重ねてきた。


その目はまるで、暗闇で獲物を狙う鷲の様に、鋭く充血していた。


何かピリピリとした緊張が漂い、続きを言うのがためらわれた。


その緊張の中には、彼の幼女嗜好に対する、深い執着の念が、直感的に分かるくらい、ベッタリと張り付いていたからだ。


続きを急かす彼を見て、俺は一歩たじろぎ、その彼の情熱に押される様に、また一歩、また一歩、気づけば彼から後ずさりをしていた。


「どうした、俺は報酬(みかえり)を求めているんだぞ。」


ズンズンと歩み行く彼に、貧乳好きの変態、では無く、幼女趣味(ロリコン)の変態、と、印象感覚が変わった時、俺は階段に向け、走り出していた。


「待てェ!」


後を追う彼を尻目に、

「たとえ情報の為でも、従姉妹(いとこ)の貞操を犠牲にするなんて、俺にはできないッ!」

と叫んだ。


「違う、俺は紳士だ!不純な(やから)から、彼女を守りたいんだ!」

彼も叫んだ。


「紳士が幼女の情報、知りたいと思うわけ無いだろォ!」


「うるサァいっ!」

苦し紛れの彼の叫びは、悲痛の色が混じっていた。


とはいえ、彼女への恋敵が、1人減ったのは、それはそれで安心できるものであった。


おそらく彼とは、この先「テイクアンドテイク」の関係が続くだろう。


口元でニヒルな笑みを浮かべ、俺は階段を駆け上がった。


大声で叫び合いながら、階段を全力疾走する俺たち2人は、自分たちこそ楽しいが、他人の目から見れば、それこそ「変態」だっただろう。

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