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ライト・スタッフの乱心

東寺が去ると、再び教室に活気が満ち溢れた。


周りから、俺に対する、同情のような視線が感じられたのは、言うまでもない。


おそらく、東寺に対し、快く思う者は少ない(というか居ない)のであろう。


実際教室からは、先刻の横暴な態度に対する批判の声が、ぼすぼすと上がっているようだった。


そんな事より、隣の席の彼女である。


担任が教室を去ったと同時に、俺に慰みの声をかけてくれたのは、彼女であった。


「大丈夫、だった?」

と、椅子から軽く身を乗り出し、心配そうに俺に尋ねてきた。


いきなり目を見つめられ、顔の距離もちょっと近かったので、そそそ、と顔も引き、少々たじろいだ。


けれども、この感情にもだいぶ慣れてきた。


すぐさま落ち着きを取り戻し、

「なんともないよ、それよりも、目薬ありがとう」

、と改めてお礼を言った。


「えーと、そんな大したことじゃないよ」

、と謙遜するように、胸の前に手を出して彼女は言った。


「大したことさ。あんな状況で目薬を渡してくれるなんて、よっぽど度胸がない限り、できないことだよ。」

女の子に度胸という言葉を使うのは、(いささ)かどうかとは思ったが、ありのままの思いを伝えた。


「そう、かな。」

と、耳元をポリポリかいて、えへへ、と笑いながら、恥じらうように答えた。


少し頬を赤らめて、遠慮がちな彼女を見ると、かわいい、という感情が、またもや心の中に浮かんだ。


入学式のあの瞬間の、印象が強く残っているので、外見に関しては一概に断定できなかったが、今、目の前でこうして頬を赤らめている彼女を見ると、内面に関しても、世間一般に言われる美少女の、基準を満たしていると、断定できた。


その瞬間、入学早々に、美少女とのコミニュケーションが取れた、ある種特有の充実感に、俺は満たされた。


自分の前でニマニマと笑う俺を見て、彼女はまたもや不思議そうな顔をしていた。


「おーい桜子ー」

女子の方からこちらに向かって、誰かを呼ぶ声が聞こえた。


「あ、私行くね。」

2、3人かで話をしている、背の高いポニーテールの女子に呼ばれ、彼女は席を立った。


桜子か。


そうか桜子か。


イメージとぴったりの名前を、嚙みしめるようにして、連絡先もメルアドも、まだ何も交換してない、日常会話的なものであったが、他の野郎共と比べ、一歩抜きん出た優越感に浸っていた。


すると後ろから、何者かに肩を叩かれた。


もじゃもじゃの縮れ毛を頭に携えた、男性だが、興味津々で俺に話しかけてきた。


「なぁ、あの子と、中学とか一緒だった?」

もちろん、桜子、のことだ。


俺は自信満々に、

「悪いな、ついさっき、知り合ったばかりだ」

ついさっき、を重点的に強調した。


縮れ毛は、おどけたかのように

「うぉい」

と驚き、

「やるじゃねぇか〜、めちゃくちゃかわいいよなぁ、あの子。」

「ああ。」

2人でニマニマと、彼女を眺めていた。


やはりスラリとした細い足は、黒ストッキングに映え、かといって、か細いわけでもなく、思わず抱き締めたくなるような、女の子らしい女の子の、体つきであった。


だが多少、胸は小ぶりだった。


縮れ毛が眉間にしわを寄せ、呟いた、

「 BかC...Dってとこはねえな」

「大きい方が好みか」


「貧乳はステータスだ」


俺が聞くと、縮れ毛は、ニヒルに微笑み、そう呟いた。


なるほど、貧乳好きの、変態か...


そいつに対する第一印象が、決定づけられた...


ん、だけれども、彼女にニマニマと熱い視線を送る俺も、多少、いや、そいつと何ら変わりのない、変態、かもしれないのだ。


俺の水平無垢な心に、疑惑の波が立った。


実際今も、彼女のストッキングを履いた脚ばかり、まじまじと見つめてしまっている。


「お前とは、うまくやっていけそうな気がするぜ」


そんな俺を見てか、そいつは馴れ馴れしく、俺に対してそう言った。


「俺もだ」


!?、心より先に、口が動いた。


俺の深層本能の中の変態が、無意識的に、そう呟いたのであろうか。


お互い拳を差し出して、握り締めた。


意外にも、先に名乗り出たのは、俺だった。


「俺は浅瀬守白良(あさせもりしらよし)だ、よろしく頼む。」


自分の知らない、未知の自分自身に、多少の好奇心を、持っていたゆえの、行動であろうか。


少なくとも俺は、女子の脚を眺めて、鼻の下を伸ばすような人間ではなかったはずだ。


「俺は佐藤康輝(さとうこうき)、よろしく頼むぜ?相棒。」


相棒、か。


一瞬のうちで、今までとは違う世界に、身を投げ出した気がした。


それとも、彼女へ対する想いは、それほどまでに、強大なものなのだろうか。


どっちにしろ、彼女への想いを胸(それとも脚)に、今、2人の盟友が、熱く結ばれた、かもしれない。

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