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カーテンコール・ウィンドは気まぐれ

同じ椅子の列の、俺より7、8列前だろうか


黒タイツを履いた足をちょこんと閉じ、行儀よく椅子に座っている女子がいた。


彼女の隣にも、俺と同じく、親御さんらしき人は座っていなかった。


ざっと周りを見渡したところ、いないのは彼女と俺の2人だけであった。


制服にはシワひとつなく、整っていて、髪も、混じり気のない黒髪で、長すぎず、短すぎずのショートヘアーだった。


時折、講堂の厚い扉をすり抜けた、暖かい春の風で、彼女のさらりとした髪が波打った。


その度に、耳にかかる髪を指先でこねるように払っているのを見て、久し方、目にすることのなかった、女の子のあどけない可愛らしさを、うすらと感じるようだった。


中学時代は、周りの女子の全部が全部、お嬢様めかし過ぎていて、女の子という感じより、落ち着き払った淑女のような、可愛らしさとは違う一種の関わりずらさを持っていたのだ。


強い風が吹く。


ひゅう、と飛んで行ってしまいそうな冊子類を咄嗟に手で押さえた。


突然の春風からの、冊子の飛散を防いだ安心感から、胸を撫で下ろしていると、先刻の彼女が、床に散ったプリントを拾って、自分の足元でとんとんとまとめていた。


顔を上げた彼女とばったり、目があった。


ドキッとした心の衝動、春の息吹が桜の花を連れて講堂に流れ込んできたのだ。


ふわっ、とした彼女の髪や、ゆったりとした制服は、絹のような、春の優しい陽射しのように、風にゆれていた。


薄紅色の桜の花弁が、より一層、彼女の爽やかさ、あどけなさを引き立てるようだった。


まさに一枚の絵のような、刹那的な美しさが、目の前に映し出された。


つかの間、一瞬が長く永く感じさせられるように、思わずその光景の中の彼女に、随分と見惚れてしまったようである。


ハッと何かに気づいたかのように、その一瞬は終わった。


俺は見惚れた恥じらいからか、視線をそそくさとずらし、彼女もそそくさと席に戻って行ってしまった。


そしてまた、細くスラリとした足を、椅子の上で整えた。


俺はあの一瞬が、記憶の中で反復し反復していた。


穏やかな春の息吹、そんな第一印象を彼女に対して抱いたのであった。


入学式が終わると、教室に向かい出口にぞろぞろ人が集まってきた。


その波の中で、彼女を一目、もう一度確かめておこうと探したが、見失ってしまったようだった。


倦怠な心に差し込んだ、薄紅色の風。


青春というものを、一瞬垣間見た気がした。


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