The Fragment Of The Red World Ⅱ――断章其の二
見渡す限りに、世界は紅かった。
頭上の空も。
周囲の光景も。
足もとの大地も。
ただ、ただ、気が狂うほどに紅かった。
(ここは、どこだろう?)
記憶がない。
気が付くと、わたしはここにいた。
くずれかけた建物が、赤い影となって転がっている。
まともに形を保っているものはひとつもない。戦場跡か。襲撃の跡か。どちらでも大差はないだろうけど――思わせるように、全部が全部、徹底的に破壊されていた。
人は、誰もいない。
きっと動物すらいない。草の一本さえも生えていない。
わたし以外に、生きているものは誰もいない。
わたしは、歩き出した。
ここで立ち尽くしていても、どうしようもないと思ったし、何よりも立ち止まっていたくはなかったから。
少しでも進めば、何かがあるかもしれない。救いとなる何かが。気を休めてくれる何かが。
そう思って、どのくらい歩いただろう。
歩き続けただろう。
それは、ほんのわずかな時間であったみたいにも思えたけど、同時に、もう何日も何日も歩き続けていたみたいな気さえする。
何となく、わかった。
ここは、終わっている世界。
取り残された世界。
世界の果ての、ずっと果ての世界。
きっと、時間さえも死んでいる。
だったら、そんな場所にいるリーザというわたしも――きっと生きてはいない。少なくとも、まともには生きていない。
――例えば。
そう、例えば。
吸血鬼になって、生きているとか――。
身体が重い。
ひどく重い。
足が棒になる。それもきっと鉄の棒だ。
それから、喉が渇いた。
喉だけじゃない。きっと、身体そのものが乾いている。渇ききっている。きっとこのままだったら、干からびて、崩れ去ってしまうくらいに致命的に。
(……ああ、水が飲みたい)
喉を鳴らすほどに、ごくごくと飲みたい。
文字通り、浴びるほどの水を。全身をなみなみとあふれた水の中に投げ出して。
水が。
水が。
赤い――水が。
――突然に。
頭の中に、激痛が走った。
おぼろげだった意識が、無理矢理に目覚めさせられる。
身体中を切り刻む痛みに、わたしは悲鳴を上げた――つもりで。
喉から漏れたのは、ただの掠れた息だということを知った。
歩き続けているつもりで――
わたしは何時しか、うつぶせに倒れ伏していた。
赤い大地がわたしを受け止めている。
優しく、残酷に。無慈悲に、慈悲深く。
それがとても不快だったから、力を振り絞ってごろりと転がる。すると、今度は真っ赤な空がわたしを見下ろしていた。
段々と、意識が薄らいでいく。
心地よい眠りにも似た感覚。
きっと絶望に身を委ねてしまえば、こんな感覚なのだろうとふと考えた。
闇まで侵食する紅色の中に意識が溶ける瞬間――
わたしは、女の子の声を聞いたような気がした。
次章、「同族喰らい」夕方に投下します。