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紅い世界に雪が降る  作者: ハデス
33/38

The Fairty Tale Of The Red World

 この紅い世界で、わたしは待っている。


 想いを()いて。


 約束を胸に。


 白い花が、静かに舞う中で。


 ――待っている。


〈夢語り〉


 


 いくつものお墓が並ぶ。

 それは、みんなのお墓だった。

 あの日、殺されたみんなのお墓。そこに、アルとわたしのお墓はない。

 だって、そのお墓に花を供えて、手を添えているのはアルとわたしだから。

 みんなのお墓にお花を供えて、最期にわたし達のお母さんとお父さんのお墓の前で両手を合わせた。


「じゃあ……俺はそろそろ行くよ」


 アルが言った。

 あの日のままの、男の子の姿で。


「まだ、帰ってこれないの?」


 わたしが尋ねると、アルは哀しそうに笑った。


「ああ……まだだ」


 胸の前で、軽く拳を握る。


「まだ……あいつを殺せない。あいつが消えない限り、きっと俺は帰れない……」


 だから。

 ――その時まで。


「…………うん」


 アルを困らせたくはなかったから、わたしは頷いた。

 涙を我慢して、見送りたかった。

 でも、それでも寂しいから。

 とてもとても哀しいから。

 せめてもの、わがまま。

 ほんの少しの、お願い。

 わたしは、そっと目を閉じて、背伸びをした。

 唇に優しく触れる。ただ、それだけの口付け。

 だけど、それは約束だから。

 きっと、それは信じられる約束に違いないから。

 唇が離れると、わたしは目を開いた。

 ぼやける視界の中で、アルの姿がゆらめく。その髪が伸びて、身体も大きくなって、この世界の(くれない)をまとって――


 アルは、消えていった。

 涙が込み上げてくるけれど、わたしは我慢できた。

 だって、その唇にはまだ残っている。

 確かに、ぬくもりが残っていたから。


   ◇


 俺は――目を覚ます。

 どうしてか、自分の口元に指を当てた。


「……どうしたの?」


 ――声。

 となりに座っていたシェイラが、訊いてきた。

 森の木々を貫いて、降り注ぐ陽光が、そいつの銀髪に照り輝いている。


「――アルーヴァ」


 彼女が口にするのは、俺の名前。

 つい先ほども、呼ばれたのは気のせいか。ずっと昔に呼ばれていた呼び方で。


「夢を、見た……」


 つぶやきが漏れる。

 それは、誰に言った言葉だろう。

 俺自身にか。

 シェイラにか。

 それとも――他の誰かにか。

 そう、夢だった。

 目覚めれば、掻き消えるものは――

 心のどこかで、望むものは――

 それは、夢に違いなかった。


「……ふっ」


 笑いが、漏れた。

 寂しげな、優しげな、愛しげな……

 ――そんな笑いだったはずだ。


 だから。

 同族喰らいには滑稽すぎて。

 吸血鬼には不釣合い過ぎて。

 

 見上げる空は、あまりにも青く澄み渡っている。

 天井の(あるじ)はきっと笑っているに違いない。


 だが――


 時には、いいだろう。

 どうせ、長い時間のほんの刹那だ。

 どうせ、狂宴の前のほんの一瞬だ。

 


 ――夢の目覚めには。


 せめて、そのくらいは赦されるだろう。


 


 とりあえず、完結です。

 思えば10年まえの作品、個人的に感慨深いですね。

 今思えば、変わっていること、変わっていないこと、色々あります。作品についてのコメントなど、今後の反響を見て考えたく思います。


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