二十八の並行世界 〜幼馴染みとの別れ方〜
7/31以降何もしてませんでした。復活の幼馴染み沼でございます。
この短編には、謎の設定と思われるようなものがあるかもしれません。『この設定、いるのか?』と思うこともあるでしょうが、この8月23日という日に僕が書く短編としては必要なものなので、そこは理解していただけるとありがたいです。
では、皆様の幼馴染み沼の奥底へ御案内しましょう。
幼馴染みとの日常が、消える日が近づいてくる。
幼馴染みーーー船倉ヒナはもうすぐ海外に行ってしまう。前からいつも自分のすぐ近くにいた幼馴染みは、どうしようもないところまで遠くに行ってしまうなんてことが、全く想像できなかったが、事実なのだ。
その知らせを聞いたのは1ヶ月前のことだ。
夏休みに入った直後、本人から聞いた。海外に行くのだと、いつ戻れるのか見当もつかないのだと……。
当然だが、彼女は僕が彼女を好きであることを知らない。幼馴染みとして接する彼女と、ただの幼馴染みとして見ることのできない自分、この感覚はもう味わえないのか。
生まれた時から一緒だったと言ってもいいくらいに近い距離にいた幼馴染み、ヒナ無しの生活は自分にとって存在しないものであった。
彼女無しの生活を、どうやって送ればいい?
これから自分はどのようにあればいい?
ヒナのことを、どうやって見送ってやればいい?
考えるたびに、何もかもが真っ暗になった。
☆
もう日がない。僕は、彼女が出発する日を確認する。今週の土曜日のはずだ。
………って、学校あるじゃないか。なんでこんな、夏休みの講習なんて取ってしまったんだろう。勉強は大事だなんて親は言うが、僕はヒナが何より大切だ。
しかし、これは後悔してもしょうがない。彼女が乗る飛行機は午前の出発で、空港へ行くための電車に乗って、少しだけでも話せたらいいと思った。自分にとって日々の暮らしそのものであるヒナ、そのヒナとの話しなら、より日常に近くあるべきなのだ。
今日は火曜日か……。あとほんの少ししかない。
☆
水曜日、学校の講習は今日から始まる。
ヒナは講習を取っていなかった。もしかして、僕が知るよりも前から海外にいくのが決まっていたのかもしれない。
そしてこの日、最悪の一言が教員から発せられた。
『すまない、学校の事情で、土曜日の午後に一部の場所で工事をすることになった。その時になるべく生徒を居させたくないということになったから、土曜日のみ、講習の開始時間を30分早め………』
それ以降、僕は話を全く聞いていない。
わかったのは、彼女と一緒の電車に乗ったら学校に間に合わなくなる。長く一緒にいたいと思ったのに、僕と彼女が共にいる時間はさらに短くなっていく。
どうにかしよう、どうにかしないとまずい。
☆
木曜日、昨日の水曜日とは違い、今日以降、午前のうちに帰れるようになる。
学校が終わったらすぐにヒナのところに行った。家につく前に彼女がそれに気づいて、外まで出てきてくれた。
「ねぇ、せっかくだから公園に行かない?」
ヒナに誘われる。それは多分今日で終わりだ。
『ヒナちゃんと遊んで来るー!!』
それを親に告げ、この公園に行くのが、幼い頃の日課と言えるべきことだった。
しかし、小4くらいだろうか、ヒナは僕ではなく、同じクラスの女の子達を誘って遊ぶようになった。それとほぼ同じ頃、僕にもヒナではない友達が増えていって、ヒナと遊ぶことは日課ではなくなった。
だけど、それが嫌だったから無理矢理女の子達のところに行ってヒナに話しかけようとしたけど『男子は出てって!』と他の女子に追い出されてしまった。だから、日曜日、ヒナが家で1人でいる時を狙って会いに行った。この頃から僕のヒナに対する執着心は強かったのだろう。
その執着心が明確に『好き』になるのは、その先のことであるが………。
公園に行ったからって、特別なことがあるわけではない。むしろヒナは幼馴染みだ。だから、最後の最後まで日常らしくなければいけないのだろう。
たとえ終わりが近づいていても、ヒナは僕にとっての日常としての在り方を失うことがなく、いつものように輝いていた。僕は、こんな、いつも自分にとっての日常に堂々と居続ける、幼馴染みとしてのヒナが好きなんだなぁ。でも、その中で気持ちも変わっていった。ともに暮らす日々はあまり変わらないのに、幼馴染みとしてそこにいるだけなのに、気持ちだけが変化していって、なんか苦しい気分になる。でも、ヒナがいる限り、絶対に大丈夫だという自信があった。そんな日々も終わりか………。
☆
なんだろう、どこからか声が聞こえる。
『1番目の世界の貴方、ちゃんとできていますか?』
なっ!?なんだよ!?
『幼馴染みにちゃんと別れを告げられますか?』
さらに、言葉は続いていく。
『ここは二十八ある並行世界の中でも、最後の最後まで一緒に居られるただ一つの世界なんですよ?その貴方が何もできないでどうするんですか?』
二十八の並行世界?なんのことだ?
『半年前、貴方のクラスに転校生が来たのを覚えていますか?』
転校生………確かにいたなぁ。
『その時私は貴方の心に訪ねました。二十八の並行世界のうち、どれを選びますか?選び方次第で、貴方と貴方の幼馴染みの関係が変わります。って。』
だから、並行世界なんて知らないって!
『貴方はまず13番目の世界を選びました。そうしたら、幼馴染みは4月の後半から突然姿を消し、7月の中盤あたりに貴方のもとに海外に行ったという報告が入るという結果になりました。』
選んだ覚えなんてないが、それは13番目の世界とやらを選んでないからかな?
『その後貴方は22番目の世界を選びました。そこでは7月の最初にまた幼馴染みが突然貴方の元を離れ、どこかにいなくなってしまい、22番目の世界の貴方は、まだ彼女がどうなったのか知らないんですよ。』
そんなことがあっていいのか……?
『3番目の世界を選んだ貴方は最悪でしょう。先程言った転校生が2月の中頃に転校してきて、それから1〜2週間後に貴方の幼馴染みは亡くなってしまうんですよ?』
彼女が死ぬ!?そんな並行世界まで!?
『それと比べれば、1番目のこの世界を選んだ貴方は大当たりなんですよ。唯一、別れの瞬間に彼女の元にいられるのですからね。それがわかったら、早く貴方がやるべきこと、いえ、やっておきたいことをやりなさい。』
☆
気がついたときには、そこに『声』はなかった。あるのは、今日が金曜日である事実だけ。
そこに、悲報が入ってきた。ヒナは体調を崩してしまったらしい。今日のうちには治ると思われるが、今日外に出ることはできないだろうって。
………なんだよ、何が大当たりだ。こうして彼女の暮らす最後の日常をぶっ壊されたんだぞ。
こんなことになるんなら、突然いなくなってはい終わりでよかったじゃねぇか!?なんでこんな、苦しい思いだけ長く続かせんだよぉ!?
結局、その日は何もすることなく、学校で講習受けて、帰ったら家にいるだけの生活をするんだ。やっぱりそうなんだ。
しかし、夜になって、そうも行かなくなる。
突然、ヒナが外に出たという知らせが入った。
彼女の体調は夜になったら良くなったというが、その後『ちょっと外に出てくる』と言って、出ていってしまったんだとか。
別に女の子が夜に1人でいるのが危ないとか、そんなことは言わない。
ただ単純に、ヒナに会いたい。
ヒナはすぐに見つかった。どうやら最後の夜の町を見たかったんだとか。
「良かったな。体調戻って。僕もここでヒナに会えてよかった。」
「な、何いってんの?そんな、会えてよかったなんて……。」
「ヒナといると、いろいろ思い出すんだ。どんなに昔のことも、ヒナは、生まれた時からずっといる。いつも通りの生活を始めるって時には絶対にヒナがいる。今まで、欠けることなく、ずっと。」
「私も、こうして最後に話ができるのは嬉しいけど、本当はそうじゃないと思う。別れの心配なんてしちゃいけないんだ。だって、そんな心配したら、これから離れ離れになっちゃうってことだから。今までの日常が、全部無くなっちゃうってことだからっ!!」
そう言うヒナは、今にも泣きそうだった。
「泣いちゃうかもしれないけど、別に慰めなくていいのっ……。一緒の……ことを……していたいの。だから泣きたいなら……2人で泣こう?……一緒じゃないのは嫌だ………こんな生活ありえない……って、一緒に……訴えて……やるのっ……!」
隣でヒナは、もう完全に泣いている状態だ。このヒナを見ていると自分まで泣いてしまいそうで………。
やっぱり、涙は抑えられなかった。
僕とヒナは、別れたくないと泣き叫ぶ子供のように、2人で泣いた。それでも、今だけは一緒にいるということを示せるように、手だけは繋いだままでいた。
☆
土曜日、僕は駅の近くの、電車が良く見えるところにいた。
駅の西側にはちょうどフェンスを挟んで線路ど道路が並んでいる。そういえば、ここを通るときにちょうど電車が通ると、よく喜んだものだ。
駅のホームを見ると、ヒナ、そしてその両親がいた。あの2人にも、お世話になったこともあったなぁ。
そして、ヒナが見えなくなるまで、僕はずっとヒナを見続けた。自分の中から幼馴染みの姿が無くならないように、そして………
「(この世界にいられて、本当によかった!!)」
二十八の並行世界の中で、今自分がこれを選んでいることに、強い誇りが持てるように。
幼馴染みとの別れということですが、4.3を書くときとは全く違う感覚を味わいました。
4.3では幼馴染みとのこれからも続く日々を書くのですが、今回は幼馴染みとの最後の別れですから、もう幼馴染みに会えないという悲しみがどうしても感じられるのです。
皆さん、幼馴染みは大切に、いつまでも愛してあげてください。あと感想くださるとありがたいです。