鳴らない四重奏
なあチェロよ
今さら何を嫌がる?
何に縛られてるんだ
どうしたビオラ
お前は自由じゃないのか?
何に遠慮してるんだ
おい第一ヴァイオリンよ
お前は優しすぎる
もっと荒れろよ
さあ第二ヴァイオリン
そろそろ弦を張ってくれ
話しにならんよ
チューニングなんてやらなくていい
互いの音に怯えるな
鳴らすんだ
自分の音を
自分の弓で
不協和音を恐れるな
譜面を見続けるな
譜面台は倒してしまえ
鳴らせよ
鳴らせ
愛は要らない
絆は要らない
思いやりも要らない
慈しみも要らない
そんな窮屈は腐敗する
ただ鳴らせ
一心不乱に鳴らせ
己を起たせ
己を叩け
己を暴け
己を壊せ
指揮者は要らない
綺麗は要らない
潤いは要らない
器用さは要らない
そんな真っ当さは崩壊する
悶えろよぶつかれよ
我慢するな
溜め込んだ音を吐き出せ
思いっきり凶悪な和音を
お前たちの本音を
魂の叫びを
鳴らしてくれよ
鳴らさなきゃ伝わらないんだよ
鳴らさなきゃ打破出来ないんだよ
たとえ間違いであってもいい
鳴らしてくれよ
俺の想いは届かない
いつも届かない
チェロは去り
ビオラは黙り
ふたつのヴァイオリンは閉じこもる
いつまでも鳴らない四重奏
いつの日も届かない四つの響き
聴かせてくれよ
聴かせてくれよ