元vtuberの幼なじみには自分自身がない
自分を失った元vtuberの少女×その少女の『全て』を覚えている幼なじみの少年。
暖かいラブコメ。
『今年の方角は南南東、南南東です』
「そっか。今日は節分か」
店の放送で僕は気付く。
南南東。そこに何があるかはわからないけど、僕としてはいやらしいものじゃなく、まともなものが、あって欲しい。
などと考えながら、進もうとする。
さて、まずは、どのコーナーか。
そして、『あの子はどこのコーナーからかな』と、『あの子』目をやる。
幼なじみで、今は、僕の大切にしたい子。
一緒に買い物に来た、いつも通りのこと。
「…」
黙り、じっと、節分のチラシを見つめている。
「あ、あの?」
「…私、節分って、どうしてたっけ」
ボソリ、と。
「恵方巻、食べてたっけ。豆とか、まいてたっけ」
※真剣。だが、どこか、むなしく。
「ねえ。私、節分、どうしてたの?」
悲しそうな顔をして、僕に聞いてくる。
元人気vtuber。
中学生のときだけ活動し、高1の今は活動を卒業した、元vtuber。
そのvtuberの活動が原因で、『自分自身』を失ってしまった。
自分が何が好きだったか、何が嫌だったかが、わからない。
自己紹介で呆然と立ち尽くすくらいに。
この子は、今、『自分を取り戻す』ことをしている。
幼なじみで、この子の『全て』を知っている僕と一緒に。
「節分、ね」
「わかる? 私がどうしてたか」
節分…。
『節分だってさ』
『どうする? 何かする?』
『うーん。
恥ずかしいから何もしない』
『何もしない?』
『黙って長い恵方巻を食べるのは照れるし、豆をまくのも、何か言わないといけないんでしょ?』
『真面目だなあ』
小学生の『あのとき』を思い出す。
だが、
「君は、どうしたい?」
僕は微笑んで聞く。
「え?」
「やっぱり、恥ずかしいかな? 恵方巻とか、豆まきとか」
僕の言葉で、少し、この子は考える。
「恵方巻、一緒に食べよ?」
少し、照れながら返してくれる。
僕はドキッ! となる。
「うん。君がそうしたいなら」
うなずいて僕は返す。
別に、そのまま取り戻さなくても、今の自分とミックスしたらいいんじゃないのかな、と僕は思う。
今には今の気持ちがあるんだから。
2人で恵方巻を食べる、それは、やっぱり僕も照れるけど。
僕は恵方巻を2つ手に取った。
「スーパーから出たら食べようか」
「うんっ」
笑顔でうなずいてくれた。
ありがとうございました!




