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【第7.5話】ただ愛を願った少女

 ママはすごく優しい人だった。


 あの人からいつも私を守ってくれた。


 アルたちとは幼い頃、よく広場で遊んだ。


 でも、学校に行きだしてからは遊べなくなった。


 父親は酒癖の悪い人だった。


 お酒に酔って、家で暴れることは少なくなかった。


 私にも暴力を振るうようになった。酔ってる時も、酔ってない時も。


 ママは必死に私を守ってくれた。それでもあの人の暴力は止まらなくて、私はいつも痣だらけだった。


 私が学校に行きだしてからそれはどんどんひどくなった。


 アルたちも最初は心配してくれていた。でも、私は助けを求めることは出来なかった。


 私はあの人の前ではいつも笑っていた。泣くと、ママが怒られてママまで殴られてしまうから。


 痣だらけの私を見て、学校の女子たちは私をからかい始めた。

 

 それでも私は笑っていた。それが私が家で手に入れた唯一の処世術だった。


 嫌がらない私を見て、からかいは過激化していき、それはいじめになった。


 本は破られ、机は傷つけられ、服は汚された。


 私は学校ではいつも笑顔だった。家でもずっと笑顔だった。


 泣いていたのは1人、誰もいない草むらだった。


 私が笑顔をしなくていいのはその場所だけだった。


 学校でのいじめが止まることはなかった。教師に心配されても、私は笑顔でその心配を振り切った。


 いじめには次第と男の子たちも加わっていた。学校で私が笑う時間はどんどん増えていった。


 それと同時に、私が草むらで過ごす時間も増えた。





 ある日の帰り道、いつもの草むらで私はいつも通り泣いていた。


「ねえ、大丈夫…?」


 声をかけてきたのはクラスの男の子だった。


 眼鏡をして、目にかかるくらいの黒い髪、静かで大人しい男の子だった。


「いつもここにいるよね。」


 笑顔じゃない私を見られて、私は何も声が出せなかった。


「僕も帰り道ここに寄ってもいいかな…。」


 否定を知らなかった私は、無言のまま小さく頷いた。


 




 その日から、彼との草むらでの時間は始まった。

 

 と言っても、最初は彼が一方的に私に話すだけだった。


 彼はヒカルと言う名前で、すごく物知りだった。

 

 本を読むのが好きで、本で得た知識を楽しそうに私に話してくれた。

 

 クラスではいつも静かに本を読んでいて、他の男の子たちともあまり話していなかった。


 ヒカルと過ごす草むらでの時間は、私から少しづつ涙を奪っていった。


 私からもヒカルに話せるようになり、それはすごく短い言葉だけだったけど、それでもヒカルは私といつも楽しくお話してくれた。


 


 それは突然だった。私の中に恋が生まれた。初恋だった。


 ヒカルの顔を見るだけで心がどきどきする。本の知識を楽しそうに話すヒカルの横顔がきらきらして見える。


 私にとって、草むらでの時間は特別なものになっていた。この時間がずっと続いてほしかった。


 


 

 家での暴力は止むことはなかった。ママはいつも本当に優しかった。ママのことは今でも大好き。


 ヒカルと過ごす私は気づけば本当の笑顔が増えて、でもそれは父親の望む私ではなかったらしい。


 暴力はさらに増え続けた。楽しそうな私を見て、父親は身体だけじゃなく、顔まで殴り始めた。私は頑張って笑顔を作った。



 


 ある日の学校、ヒカルから貸してもらった本が破られた。その時ばかりは笑顔を作れなかった。


 それを見た女子たちは、嬉しそうに次から次へと私が持っていた本を破っていった。


 学校のトイレで泣き続けた。その日は草むらに寄らず1人で家に帰った。

 

 ヒカルがくれた栞が破られた。酔った父親に見つかり破られそのまま捨てられた。ヒカルから初めて貰ったものだった。


 家の布団の中で泣きながら栞を必死にくっつけた。見られないように布団の中に潜りながら。


 多分、限界だった。


 私の心は助けを求めていた。


 泣きながら頭に浮かぶのはヒカルの顔。


 







 

 次の日、私は学校でヒカルの手を取り校舎裏に連れて行った。

 

 学校でヒカルと接触するのは初めてのことで、ヒカルは少し驚いていた。


 校舎裏で、私は勇気を振り絞って告白をした。


「わ、わたし…ヒカルが好き…」


 それは救いを求めた言葉で、私の世界を救ってくれるのはきっとヒカルだと信じた私の願いだった。


 ヒカルはびっくりしながらも言葉を紡ごうとする。


「ぼ、ぼくも…」


 その時、クラスの男子と女子が何人か現れ、ヒカルをからかい出す。


 私の急な行動に後をついてきたらしい。


「ヒカルくん、ミリムのこと好きなの笑?」


 「顔も身体もこんな傷だらけの女の子がヒカルくんの趣味なんだ」


 「いいじゃん、お似合いだし。付き合っちゃえよヒカルくーん」


 浴びせられる言葉たちは、ヒカルくんの続きの言葉を消し去るには充分で。


 「べ、別に好きじゃないよミリムのことなんて。」


「勝手に好きになられてこっちが困ってるんだ」


 歪な笑顔を浮かべながら、ヒカルくんは拒絶の言葉を放った。


 クラスのみんなはそれに満足したのか、ヒカルを連れて戻っていった。


 残された私はただ1人、大声で泣き続けた。


 鞄も何もかも教室に置いたまま、私は泣きながら家まで走って帰った。


 帰ってきた涙に溢れた私を、ママは何も言わず抱きしめてそのまま布団に寝かせてくれた。


 父親の怒号で目が覚める。私が勝手に学校を帰ったのを聞いたらしい。


 父親はママに暴力を振りつづける。その様子を私はただ隙間から見ていることしか出来なかった。


 大好きなママが苦しんでいるのを見ることしか。


 私は泣いた。布団に潜って声を殺して泣き続けた。


 そして、願った。愛されたいと。


 みんなに愛されて、誰も私をいじめなくて、誰も私に暴力を振るわなくて、誰も私の好意を拒絶しない。


 そんな夢物語をただただ願い続けた。


 ママの苦しむ声を、父親の怒号を、必死に掻き消すように、布団の中で私は涙を流し愛を願い夢を望んだ。


 




 







 最初に変わったのは父親だった。


 私に優しくなった。私を殴ることはなくなった。それどころか私を可愛い可愛いと言い、一緒に寝るようになった。


 父親の暴力の行き先はママだけになった。それでもママは私が殴られなくなったことに救いを見いだしていた。


 


 

 次に変わったのはクラスの男の子たちだった。


 私をいじめることはなくなって、それどころかみんな私に話しかけてくる。


 一緒に帰ろうだとか、これあげるだとか、今までで1度も言われなかったことを何度も言われた。


 女子たちのいじめは続いていた。


 それでも男の子たちが私を守ってくれるようになり、罰が悪くなった女子たちは次第にいじめをやめてくれた。


 私が嫌った女子が、男子からも嫌われるようになったからだ。



 アルたちとも広場で遊べるようになった。


 身体の痣はほとんどなくなっていって、私に本当の笑顔がどんどん生まれていった。


 町の男の人たちもみんな私に優しくしてくれた。

 

 痣だらけの私には何もしてくれなかったのに、今では何でもサービスしてくれるようになった。


 









 1番最初におかしくなったのは父親だった。


 私への父親の好意はどんどん大きくなり、その好意はもう娘へと向けるものではなくなっていた。


 父親は寝る時に私の身体を求めるようになった。


 私はその意味を知らなかった。でも父親からの愛をこれまで知らなかった私は、それを喜んで受け入れてしまった。


 そのペースは日に日に増えていった。最初は1週間に1回くらいだったのが、5日ごと、3日ごと、最終的には毎日になった。


 ママが異変に気づいたのは、身体を求められてから3ヶ月後の夜だった。


 父親の激しい声に気づき、扉を開けたママは目の前の光景に言葉を失っていた。


 ママの目は、怒りに変わり、私を求めている父親を台所から手にした包丁で、背中から思いっきり刺した。


 私に覆いかぶさる父親から血が滴り落ちてくる。


 ママはそれを見て、私を父親から剥がし、泣きながら抱きしめてくれた。


 そして、何度も何度も謝った。


「ごめんね。ごめんね。」


 ママの涙を見て、私は父親がしていたそれが悪いことなんだと知った。








 




 ママは城の兵士に捕まった。私の為に父親を殺したから。


 連れて行かれる時


「ミリム、幸せに生きてね」


 ママは笑顔でそう言ってくれた。それが私が見た最後のママの顔だった。








 



 1人になった私だけど、生きるのには困らなかった。町の男の人たちがみんな優しくしてくれたから。


 

 



 私はヒカルにもう一度告白した。


 ヒカルはすごく嬉しそうな顔をして、受け入れてくれた。


 ヒカルと初めてキスをした日、私はヒカルと結ばれた幸せを感じながら、強く強くヒカルを好きだと思いながらキスを続けた。











 



 ヒカルは変わった。優しかった彼はいなくなってしまった。


 彼は私を自分の所有物のように扱い、私の都合は考えず、彼の思うがままに私を扱い始めた。


 それでも、私は初恋の人と結ばれたという甘い夢に溺れていた。

 

 ヒカルの行動も全て私への愛だと感じていたから。


 

 




 ヒカルの束縛は激しくなった。他の男の子と話してるだけで怒られた。目を合わせただけで怒られた。


 それでも男の子たちの私への好意は止まることなく、ヒカルの束縛も呼応するように激しくなり続けた。










 


 


 ヒカルとの日々は長く続かなかった。私に声をかけてきた男の子を殴り、蹴り、大怪我を負わせた。


 子供だったため、捕まることはなかったが、ヒカルの両親は居づらさにヒカルを連れて町を出ていった。


 ヒカルは連れて行かれる時も私の名前をずっと呼んでいた。














 


 大きくなるに連れて、私は私の力を理解した。


 私を嫌いになる男の人はいなかったし、私が望めば誰とでも付き合えた。


 私が求めれば誰でも寂しさを埋めてくれた。


 私が求めれば誰でも私を守ってくれた。


 


 それでも近づきすぎないようにはしていた。変わった父親とヒカルを知っていたから。



 





 アルたちが旅に行こうと誘ってくれた。


 この町を出たことがなかった私にとって、すごく魅力的な提案だった。


 旅は楽しく、初めて見る景色ばかりで私の心は躍った。


 それでも、一緒に過ごす時間が増えるとみんなは私を求めるようにはなった。


 旅を続けたかったから私は応え続けた。でもこの関係が壊れないようにみんなに平等に。













 不思議な人と出会った。一緒にいても私のことを好きにならない人。


 私はその人の心を捻じ曲げた。私の好奇心で。


















 燃え続ける視界の中、私は思う。

 

 普通の恋がしたかった。普通の愛が欲しかった。

 自然な恋がしたかった。自然な愛が欲しかった。


 私のことを普通の距離から始めてくれた、ケントとならもしかしたら普通の恋も出来たかもしれなかった。


 あの日のヒカルと同じように。


 だから、せめてこの運命だけは私1人で受け入れる。ケントを道連れにはしたくない。


 それが私の最後の、人へ与える最後の愛情。


 視界にまだ映る彼を見て、私は笑顔を作る。


 最後にあなたに残る私の顔は笑顔がいい。






 「ありがとう。ごめんね」


 


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