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妖が見た夢  作者: 柊ノキ
3/10

違和感~mystery~

(1)


「そろそろ、はっきりした返事をしてほしいわね」

「考え直す気は無いの?」

「くどい」

 彼女は座を立った。

「西行妖の場所は特定したわ」

「それは、脅し?」

「お好きなように解釈したらいいわ。私は、私のやりたいようにやるだけよ」

 部屋から出て行こうとする。

「わかったわ。協力する。その代わり、この幻想郷で、表立って動くのはやめて」

「ようやく腹を決めたみたいね。ずいぶん慎重になったのね」

「おかげさまで」

 皮肉を込めて、言う。

「といっても、不確定因子を出すくらいしか、できることは無いわよ。それがどういう結末をもたらすのかは、わからない」

「結構よ」

 彼女は口角を上げ、自信満々に笑む。

「それで上手くいかなかったら、上手くいくまで繰り返せばいいのだから」

 それまで、こいつにつき合わないといけないのかと思うと、紫はめまいがしそうだった。






(2)


「私は悪くありません! 輝夜さんが強情なのが悪いんです!」

「なに言ってるのよ! もとはと言えば、阿求が変なことを言い出したんでしょ!?」

「あー、もう。うるさいうるさい」

 二人の女性に板挟みになっていた霊夢は、両手の手のひらで、耳を塞いだ。

「なんの騒ぎ?」

 紫がやって来ても、蓬莱山輝夜と稗田阿求は気がつかない。

 人里から離れ、竹に囲まれた閑静な場所であるはずの永遠亭に、二人の怒声が響き渡る。

 言い合いを続けている輝夜と阿求の足元で、一匹の猫が大きなあくびをしていた。

「あら。いつから猫を飼い始めたの?」

 紫は猫を抱き、頭を撫でた。

 かわいい。

 表情にこそ出さないが、実に癒される。

「あら?」

 猫は、紫の腕にくるまりながら、姿を変化させた。

 それまでは、小さな茶トラ猫だったのに、肌はみるみる白くなり、かわいらしく動いていた小さな耳は、にょきっと長くなる。

 この生きものは……、

「兎ね」

「兎よ」

 耳にあてがっていた両手を、腰に移動させて、霊夢。

「なんなの、この子」

「こいつらが生み出しちゃったのよ」

 霊夢の言う、こいつら、とは、消去法で、延々と言い争いを続けている、阿求と輝夜しかいないだろう。

 しかし解せない。

「生み出したって……、蓬莱人と人間とが交わって、猫か兎かどっちつかずの動物が生まれたってこと? まるでおとぎ話だわね」

「紫、あんたボケてんの?」

「だって、生み出したということは、そういうことじゃない」

 生命が生まれるには、愛の営みが必要不可欠。

 であるから、輝夜と阿求の共同作業によって、この不思議な生きものが生まれたとしか解釈のしようが無い。

「共同作業って言えば、そうかもしれないわね」

 ただしそれは、愛の営みなどとは真逆の行為であった。

 阿求は現在、永遠亭で居候生活を送っていた。

 ところが、阿求と輝夜はことのほか折り合いが悪く、毎日のように口喧嘩をしていた。

 それが、どちらの意見が正しいかを決めるものならば、まだいい。

 この二人の場合、気に食わない相手のことを言い負かしたいだけだから、ひとたび喧嘩が始まってしまえば、収拾がつかなくなるのである。

「で、今日は、天井の木目よ」

「はぁ、木目」

「天井の木目が、猫の形に見えるか、兎の形に見えるかで揉めてたんですって」

 言われて紫は、靴を脱いで、輝夜と阿求が寝起きしている、奥の間の天井を見上げた。

 そこには、シミのような木目があって、なるほど、動物かなにかに見えないことも無い。ただそれは、言われてみれば、という程度で、パッと見てこれだと断定することはできない。

 だが輝夜と阿求の二人は、自分の見立てこそが正しいと、激しく主張してしまったのだ。

「やっとわかったわ。二人の言霊が、この子に自我を与えてしまったのね」

 紫は、その子……、いまは兎の姿をしている妖怪の、つぶらな瞳をのぞき込んだ。

 命を吹き込まれたばかりの幼い妖怪は、紫はいったい、なんのことを言っているのだろうと言いたげに、きょとんとしている。

「生まれちゃった子に、罪は無いわねぇ。幻想郷で受け入れるほかに無いでしょう」

「そういうことよ」

 霊夢は、めんどうくさそうに前髪をかき上げて。

「こうなったからには、あんたたちが責任をとってこの子のめんどうを見なさいよ!」

 口論をしていた輝夜と阿求を一喝した。



「まったく……、なんであいつら、仲が悪いのに同居してるのかしら」

「でも霊夢。あのくらいなら、かわいいものじゃない」

 幻想郷では、強い思念が具現化し、自我を持つことがある。輝夜と阿求の口論によって生まれた、あの小さな妖怪のように。

 それが、善い妖怪であっても、悪い妖怪であって、幻想郷は受け入れる。

 幻想郷は、残酷なまでに、すべてを受け入れてしまう。

 そんな世界だからこそ、妖怪たちは姿形をとどめていられるのだ。

 眉をしかめる霊夢を、紫がなだめる。

「そう言うけどね。幻想郷の連中は、自分が強い力を持ってるって自覚が無いのよ。本人は、ちょっとしたことだって思ってても、それが大きな異変の引き金になることだってあるわ」

「そう……、かもしれないわね」

「?」

 それまで、怒りをぶちまけようとしていた霊夢だが、紫の顔を見るなり、急に冷静になった。

「紫、あんた、なんかあったの?」

 反射的に、紫は霊夢と目を合わせないようにした。

「それに、永遠亭くんだりまで出張ってくるなんて、なにか用事だったんじゃないの?」

 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「博麗神社に行ったら、貴女がこっちにいると言われたのよ」

 それは質問に応えているようで、答えてはいない。

 霊夢もそれを察しながら、深掘りをしなかった。

 底無しの紫の腹を覗こうとしたら、どんな深淵が顔を出してくるかわからないからだ。触らぬ神に祟りなし、である。

「霊夢の顔も見れたし、私はここで失礼するわ」

 紫は一方的に会話を終わりにしてしまった。

「あいかわらず、なにを考えてるかわからない奴」

 スキマの中に消える紫を、霊夢は涼やかな表情で見送った。







(2)


 妖夢は夢を見ていた。

 師である妖忌と自分が、剣術の手合わせをしている。

 実際に師と木刀を交えているのは、別の妖夢だ。

 本物の妖夢は、そこにはいない。

 師に声をかけることも、自分に助言することも叶わず、ただ、二人が手合わせをしているのを眺めているだけだ。

 妖忌とは、十合以上も打ち合えたことが無い。妖忌が手加減をしてくれたにもかかわらず。

 案の定、夢の中の妖夢は、あっさりと木刀を弾き飛ばされていた。

(私の動きは拙いなぁ……)

 あれは昔の自分だ。

 もし、いまあの自分と交代できたなら、もっとまともな戦いができるのだろうか。

 そんなことを考えても、栓の無いことだ。

 もはや妖忌とは、手合わせどころか、会うことすらできないのだから。

 だが、妖夢にとっては、師匠とどれだけ打ち合えるかが、実力を図る唯一のものさしなのだ。

 だから、あの自分と交代して、師匠と相まみえてみたいという欲求を抑えることができなかった。

 稽古が終わると、妖夢は妖忌に聞いた。

「私に足りないものはなんですか?」

 師匠は応えた。

「すべてだろうな」

 と。そして、

「私も、すべてが足りない」

 そう付け加えて穏やかに笑った。

「うぅん……?」

 師の真意が理解できず、妖夢が悩まし気に声を漏らす。

 するといつしか、過去の自分と重なり合っていて、一人の妖夢になっていた。

 師の言葉の意味は、あのころから今に至るまで、理解できていない。

(そうか。だから、過去の私と重なったのか)

 ぼんやりとした意識の中、妖夢は、過去と現在の自分の区別が無くなった理由を、そう解釈して納得した。

「ん……。うぅ……」

 また声を漏らした。

 その声に自分で反応をして、眠りについていたことに気づく。

 ゆっくりと目が開いていくと、景色が霧のようにかすんでいる。眠るまえの景色にそっくりだ。

「あっ。やっと起きたー」

 妖夢の耳に、いかにも奔放で、天真爛漫そうな声が入って来た。

 その雰囲気に、一瞬、

(幽々子様?)

 と思ったが、ちょっと考えれば、声質がまったく違うことに気づけたはずだ。どうも思考がはっきりとしない。

 これは、かなり深い眠りについていたようだ。

「おはよう。って言っても、もうお日さまが高いけどね」

「ん……」

 身を起こした妖夢は、声がするほうに顔を向けた。

 ぼやーっとだが、青空のような、鮮やかな水色が目に飛び込んで来る。その人の着ものの色だった。

 次に妖夢は、天井を見つめ、そして周囲をきょろきょろと見渡した。

 和室だ。

(でも、白玉楼じゃない。別の場所だ)

 意識がはっきりとしてきたおかげで、それはすぐにわかった。

 でも、空気とか、匂いとか、雰囲気とか……。肌で感じるなにかが、懐かしさを覚えさせる。

 妙な感覚だった。






(3)


「起きられる?」

 その女の人は、妖夢が寝ている布団の隣に正座していた。

 体を起こそうとしている妖夢の背中に手を回してくれた彼女は、澄んだ青空みたいな、綺麗な瞳が印象的だった。

 背丈は妖夢よりも少し低くて、 年齢もかなり若い……、というか、幼さすら感じさせる顔立ちだった。妖夢のように、髪が肩まで届かない、切りそろえたぱっつん頭がよく似合っていた。

「お茶でも持って来ようか? どこか悪いなら、薬湯も用意できるよ」

「ありがとう。だいじょ……」

 言いかけてやめた妖夢は、手をついて、ゆっくりと立ち上がってみた。

 大丈夫というのは、深い眠りにつくまでの自分なのであって、いま、自分がどういう状態なのか、まだ把握できていない。

 しっかりと二本の足で立ち、寝間着を整えてから、まだ少しだけ頭がぼーっとすること以外は、特に問題が無いことを確認した。

「うん。どうやら大丈夫みたい」

「そう。良かった」

 その子は、ころころと無邪気に笑った。

「あっ……」

「どうしたの?」

「いや……」

 落ち着きをとり戻した妖夢の頭には、様々な疑問が湧き上がってきた。

 目のまえにいるこの子は、誰なのか。

 自分は、なぜここに居るのか。

 どのくらい眠っていたのか。

 そもそも、ここはどこなのか。

 様々な選択肢がある中で、妖夢が選んだのは……。

「私の刀は?」

 という質問だった。

 なぜだか、二振りの愛刀が恋しかった。祖父の夢を見たからかもしれない。

「刀?」

 彼女は、ほっぺに人差し指をあてて考え込んだ。

「そう。刀。一緒じゃなかった?」

 妖夢が質問を重ねると、彼女は黒髪を揺らしながら首を振った。

「貴女は、昨日の夜、屋敷の前で倒れてたの。少なくてもそのときには、なにも持ってなかったよ」

「そっか……」

「荷物……、っていうか、貴女のものは、それだけ」

 その子が指をさした先を見てみると、枕元に、妖夢の稽古着が綺麗に畳んで置かれていた。

「えっ? これ?」

「そうよ」

「念のために聞いておくけれど、私が倒れていたとき、服は着ていた?」

「まだ寝ぼけてるの?」

 幼子らしく、邪気の無い笑みを浮かべていた彼女の顔が、一気に曇った。

 眉間にシワを寄せて、変なものを見るような視線を妖夢に送ってくる。

 妖夢自身、変なことを聞いている自覚があったので、そんな顔をされるのはしかたが無いのだけれど……。

 ただ、彼女のその反応で妖夢は確信した。

 彼女が妖夢を見つけたときに着ていたのは、この稽古着なんだと。

 でも、眠るまえは、間違い無くいつもの服を着ていたはずだ。

(いったい、どういうことだ?)

 どうにもこうにも、妖夢の頭だけでは理解できないことばかり起きる。






(4)


「貴女、名前はなんていうの?」

「えっ? こっ……、妖夢。あやかしに夢って書いて、妖夢」

 妖夢は咄嗟に苗字を隠した。

 まだ自分の置かれた立場は理解できていないが、不可思議なことが起きているのは間違い無いので、不用意に素性をあかすべきではないと思ったのだ。

 だから本当は、名前も偽名を使いたかったのだけれど、急に聞かれたものだから、そこまでは気が回らなかった。

「へー。不思議な名前だねー。私は(あおい)

「葵か。いい名前だね」

「それじゃ、お茶を持って来るからゆっくりしてて」

「いや。目を覚ましたいから、風に当たってるよ」

「そう? それじゃ、開けたままにしておくねー」

 そうして葵が障子を開け放つと、懐かしい匂いがする風が、部屋に舞い込んで来た。

 妖夢は縁側に出た。

 風が冷たい。

 幻想郷は、もう春になるはずだ。

 だが「この場所」はどうだろう。

 空をおおっている灰色の雲から、いまにも雪が降ってきそう。

 屋敷の庭の草木は、冬眠についたままで、開花の気配を感じられない。

 春の気配が近づいている幻想郷とは、まったく異なる季節感であった。

「やっぱり、おかしいよな」

 ぐるぐると肩を回した妖夢は、ぐーっと伸びをして、体で空気を感じた。

 幻想郷と似ているけれど、どこか違う。

 自分が本来、()るべき場所のような懐かしさを覚えながら、この世界を拒絶している自分もいる。

「お待たせ。気分はどう?」

 妖夢が状況を整理していると、葵がお茶を運んで来た。

「おかげさまで、だいぶすっきりしてきたよ」

「そっか。良かったね」

 妖夢は、久々に他人が煎れてくれたお茶を飲んだ。

 こうして他人に世話をしてもらうなんて、いつぶりだろうか。

 嬉しさと共に、不安も湧いてくる。

「あのさ……」

「ん?」

「ここ、どこ?」

 湯飲みを置いて、妖夢は尋ねた。

「知らないの? 本当に?」

 葵の澄んだ瞳が、嫌疑をかけてくるような眼差しに変化した。

 さっきも思ったけれど、純なように見えて、ちゃんと警戒心を持ち合わせているようだ。もしかしたら、見ためよりも年齢が高いのかもしれない。

「あっ……、その……、倒れたときに、頭でも打ったのかな? ちょっとこう……、記憶が曖昧っていうかなんていうか……」

 しどろ、もどろ。

 身振り手振りを交えながら、妖夢はなんとかとり繕おうとした。

 すると、それで納得したのか、嘘をつけるような器用さは持っていないと判断されたのか、葵の顔から警戒の色が引いた。

「葵。あの子の様子はどう?」

 廊下を渡って来る足音が聞こえてきて、妖夢と葵が座っている部屋の前で、ぴたりと止まった。

「ああ、起きたのね。良かったわ」

 どこか儚げに笑ったその女性を見上げて、妖夢は息を飲んだ。

(幽々子様……!)

 もう、妖夢の思考ははっきりとしていた。






(5)


 幽々子はまどろみの中にいた。

 お茶をすすっているうちに、いつしか眠気に負けて、そのまま横になってしまったのだ。

 感覚は半分ほど眠っているが、半分だけ起きている嗅覚が、主客殿の畳の香りを認識する。

 ここは白玉楼。

 冥界の管理人のための屋敷。

 だがなぜか、幽々子は障子の隙間から、陽の光が漏れてくるのを感じた。

 冥界には、陽の光が差し込まない。

 だけど、幽々子がおそるおそる目を細めると、たしかに空には太陽が昇っている。

(ここは……、どこ……?)

 そこは、幽々子の記憶に無い場所だ。

 でも、記憶のどこかに、「この場所」の正体を知るための鍵があるような気がした。

 確証は無い。

 それでも、違和感はある。

 いま幽々子が抱えている記憶は、本当に、正しい記憶だけが詰め込まれたものなのだろうか。

 幽々子とは切り離されたどこかに、別の記憶が隠されているのではないか。

 ふとしたとき、そんな考えがよぎるようになった。

(私は、誰なの?)

 いまこの体は、幽々子のものであるのか。

 西行寺幽々子という魂と、この体は正常につながっているのだろうか。

 自分の存在が、おぼろげになる。

「妖夢……」

 その名を口にしていた。

 幽々子だけの従者。

 呼べばすぐに駆けつけてくれる従者は、幽々子を幽々子としてたしかめさせてくれる存在だった。

「お目覚めですか?」

「ん……」

 にぎり拳の手の甲で、眠い目をこすった。

「妖夢?」

 幽々子の体を包むように、毛布が一枚かけられていた。

「温かくなってまいりましたが、風邪などお召しにならないよう、念のために」

 幽々子が起きると、手慣れた手つきで毛布をたたむ。

「なんで藍ちゃんが……。ああそっか。妖夢はいないんだったわね」

 くぁ……、と、大きくあくびをした。

 涙目になる。

 昼寝から起きたあと、どこか心細くなるときがある。今日にかぎって、そんな心境。

 そこに、妖夢がいないということが加わって、さみしさが増す。

「藍ちゃん。お水、いただけるかしら」

「かしこまりました」

 藍は、うやうやしく一礼すると、主客殿から去った。

「妖夢。いつごろ帰ってくるのかしら……」

 心無し、主客殿が、いつもより広く感じられた。



 白玉楼の厨房は、主客殿から出てすぐのところにある。

 お客に効率良く料理を提出するための構造だろうが、白玉楼に客が訪れることは、ほどんど無い。

 実情に対して、不相応に厨房は広いし、食器の数も多い。それでも、厨房は綺麗に清掃されているし、食器類も几帳面に、種類ごとに整頓されている。

(妖夢殿の、普段の働きぶりが目に浮かぶようだな)

 藍は、感心しきりだった。

 白玉楼という広大な屋敷の管理を、妖夢は一手に任せられているが、藍が見たところ、妖夢の仕事には、いっさいの落ち度が無かった。

「これは、留守をあずかるのは大役だな」

 世話をする対象が紫から幽々子に変わっただけだから、苦労は無いだろうと油断していた。

 幽々子はつかみどころが無くて、なにを考えているかわからないけれど、そんなのは紫も一緒なので、慣れっこだった。

「幽々子様の身の周りの世話だけならば、問題は無いが……」

 なんせ白玉楼の広さは、紫の家の比では無い。

 それに、和風庭園の手入れは専門外なので、勉強が必要だ。

「なんにしろ、妖夢殿が戻られるまで、しっかりと代役を務めないとな」

 藍は水桶のフタを開けて、水差しを水で満たした。

「戻られるまで、か……。我ながら、道化を演じているな」

 誰にも聞かれないように、厨房の中で独りごちた。

 


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