55.ムキムキ、ソレは魔術師の証
一頻り紙に筆を走らせていたエルが満面の笑みでコチラに駆け寄ってくる。
「いやー!本当に面白かった!教えてくれてありがとう!!」
言いながら、両手で悠真の手を握りブンブンと振り回す、その感触に違和感を覚え握った手をジッと見つめていると、助手の視線を感じた。
「ユーマ氏、そっち系の趣味ッスか?」
「違うわ!!なんかこう……なんて言うんだろう」
考え込む悠真はフト違和感に気付く。先日のセリアの手の感触と言い今まで散々接してきた人々の掌と違い、柔らかい。むしろ元の世界の人間と同じくらいに思えた。
「手、柔らかくないか?女の子のセリアでももっとガッシリしてたぞ」
ポツリつ呟く悠真に助手が答える。
「それはそうでしょうね、ウチらは鍛えてないんで」
「そりゃまたなんで?」
「博士は魔術が不得手で、ウチは体質的に鍛えられないからッス」
魔術と身体の繋がりにいまいちピンと来ない悠真が質問を重ねる。
「魔術を使えないと、なんで体を鍛えないことになるんだ?」
「そうッスね、魔術は感情を消費するのは知ってますよね?魔術は使えば使うほど……まぁ簡単に言うと気分が落ち込みやすくなるんッス。色々と方法は有るんですけど、感情の基礎回復力を上げるには決よく体を鍛えるのが安定するんスよ」
「なるほど、鬱には筋トレが効く……みたいなものか」
遠い過去、お節介な友人からしつこく筋トレを勧められた苦い思い出が蘇る。
「ま、博士は付け加えて能力が頭の回転に極振りしてるんで、ソレも有るッスけどね」
悠真の手を振り回すことに飽きて自作の装置を弄くる作業に戻ったエルを見やる。
「お前はどうなんだ?」
「ウチはさっきも言ったように、どう頑張っても筋肉が付かないんス。なんで魔術は使えても威力も回数も回復力も劣るんスよね、もう慣れましたけど」
前髪に遮られた助手の目線は読み取れないが、顔の動きからどこか遠くを見ているように感じる。
「博士みたいに代わりになるような何かを持ってたら良かったんスけどね。たまたま出会わなかったらと思うと……あんまり考えたく無いッスね」
ため息混じりに言葉を吐き出す助手に悠真はかつての自分を微かに感じていた。誰からも必要とされていないわけでは無く、しかし必須でも無い。強いて言うなら有れば使うが無くてもどうにでもなる百均のガムテープ程度の存在だった自分を。
「俺が簡単に言えることでも無いが……ちょっと気持ちは分かるよ」
二人の目線は己が欲望に忠実に、そしてその欲望に準じた才能を持つ一人の人物に自然と注がれた。
「羨ましいよな……」
「ッスね」




