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54.時既に遅し

 「なんじゃコリャア……」


 とある日、助手に招集され研究施設の裏に来てみると、何やら大掛かりな装置の横でエルがちょこまかと走り回っていた。


 「おー!!待ってたよー!!この前教えてもらったヘロンの蒸気機関を作ってみたんだ!!」


 しかしその見た目は、悠真の記憶の中の資料とは違い、大きさは身の丈ほども有りアチコチが分厚い木で補強されている。横に立つ助手の目が前髪越しにジロリとコチラを睨んでいるようだ。


 「ユーマ氏……えらいもんを教えてくれましたね……」

 「スマン……」


 二人を尻目にエルは台座の下の燃焼剤に着火しようとしているが、火が弱く上手く着かない。


 「博士、手を貸します」

 「はいよー」


 助手のアシストでやっと火が燃え移った。熱されていても暫くは何も変わらなかったが、シューという音と共に球体に接続されたL字の管から蒸気が吹き出し回りだした。


 「いぇー、予想通り」

 「……コレが天才ってやつか……」


 しかし様子が少しおかしい、本来ならシューと一続きで出るはずの蒸気が段々と、シュッシュッと間欠的になっていく。


 「なぁ?音がおかしくないか?」

 「んー?わざとだよ?ずっと蒸気を出してるとロスが多いからね、タイミング図って出すようにしてるの」


 事もなげにサラリと述べるエルに悠真は驚愕した。


 (パルス駆動だと?)


 蒸気が辺りに蔓延すると、得も言われぬ香りが鼻腔をくすぐる。


 「……なぁエル?あの中身って水じゃないよな?」

 「うん、お酒。沸点が低いからね。この前教えてくれたじゃない?」

 「あー……」


 その時、蒸気と化した酒に火が燃え移った、まるで火炎放射のように炎が伸び、勢いを増して回転が早くなる。


 「あー、お酒って燃えるんだー」

 「言ってる場合か!!早く消さないと!!」


 取り乱す悠真に対し慣れた様子の助手がエルと手を繋ぐ。


 「んじゃ博士。サポート頼むッス」

 「あいあいー」


 そうして何事か呟くと、空気中に水分が集まり巨大な水球となり、装置を包み込んだ。酸素を失った炎は鎮火し、装置は冷やされ回転が収まる。


 「いやー、失敗だったなあー、でも新しい知見も得られたし……今度は何をしよう?」


 ワクワクと紙に何かを書いているエルを横目に、悠真がボヤいた。


 「俺……やっちまったかも知れん……」

 「そうッスね、あーなった博士はもう止まりませんよ」

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