50.異世界に撒かれた種
天井の仄かな灯りが不安定に揺らめき若干暗くなる、しかし話に夢中になっている二人は気づかない。
「というわけで、科学及び化学の発展に数字は付き物ってわけだ」
「なーる、観測して数字と紐づけて法則性を作っちゃえば色んな対応ができるね」
しばしエルは言葉を発することをやめ、そのリソースを頭の回転に振り分け結果をはじき出した。
「あ、じゃあコレ音楽を奏でることもできるのか」
「……なんで分かった?」
悠真は自分の記憶の中から歴史上のやり取りを思い出していた。歯車で構成された計算機である階差機関……その設計者が汎用の計算機として自身の発明品を紹介した際とある女性から、この階差機関は作曲ができると言われていたことを。
(実物もないのに頭の中の概念を突き合わせるだけで論理がジャンプした……博士が博士足る所以がコレか……)
内心の驚きを隠せない悠真を横に、エルが何事かを呟いている。
「解析するにしても情報の精度が足りないな……観察装置の機能の向上が必須か……いやでも、観察と解析と改善のループを装置自体に適用できたら……」
自分の世界に入り込んだその時、後ろで扉が開いた。
「居ないと思ったら、なーにやってんスかポンコツ二人組」
廊下から差し込む光を背に、助手が呆れたように扉に手をかけ立っている。
「アレー助手A、早かったね?忘れ物?」
「博士、今何時だと思ってんスか?昼まわってますよ」
通りで、気づけば悠真の体のアチコチの関節がバキバキに固まってた。不用意に動かすと腰に激痛が走りそうである。柔らかさを取り戻すために徐々に動かしていると助手が天井を見上げた。
「あー、天井の明かり消えかかってるじゃないスか、長時間の使用には耐えられないんスから、誰が始末書を書くと思ってるんス」
「君」
「正解ッス」
言いながら助手は不意打ちでエルの体をズルリと引き上げ肩に担いだ。
「じゃあ帰りますよ」
「イヤだー!もっと話すんだー!」
「駄目ッス、休憩入れないとまたダウンして長期間使い物にならなくなるんスから。パフォーマンス悪いッス」
「うわー!助けてー!!」
「ユーマ氏も、今日は帰って良いッス。ウチの見通しが甘かったッスね、まさかココまで博士が熱中するとは……ユーマ氏は異常値ッスね」
暴れるエルも徹夜の疲れが出ているのかそれともそういうものなのか、助手の肩の上から逃れられそうもない、悠真は二人と連れ立って外に出た。
「……目が痛ぇ」
頂点に有る太陽の光が目に染み涙が出た、乾燥もしているようでシパシパする。
「でしょうね、その状態だとろくな成果が出ないでしょうから今日は休むッス。後日、ウチかルーナ氏経由で連絡入れるッス」
ほら博士、帰りますよ!!と言いながら気だるげに助手は帰っていった。




