44.その名は……
ダンゴムシに引かれ、厚い森の中を走る馬車の中、土地勘の無い悠真にはどれくらいの距離を移動したのかは分からなかった。ただ道中何回か休憩を挟み辺りが暗くなりかけ、そして外気が薄ら寒くなってきたのを感じた。
(多分、大分北か……?)
以前、バイクで一時間移動しただけで気温が変わったことを思い出す。しかし寒そうにしているのは悠真だけだった。
(強いとは思ってたが……体温調整もか)
周囲に視線を巡らせているとまたもやルナールと目線が合うが……フッと窓の外にその目線が移された。
「皆さん、そろそろ到着します。準備を」
言われて不調を訴える全員がのそのそと身支度をする中、悠真は好奇心から窓の外を覗き見た。
(なんだありゃ……?)
まだ距離があるはずなのに、唐突に開けた森の中巨大な壁が目に入る、一つの街をグルリと囲んでいるようで、端のほうが曲がって消えていた。
(石の壁か……?いや、にしては継ぎ目が無い……)
何処かからか石を切り出して持ってきたにしては、ブロックごとの境目が見えなかった。まるで偏頭痛を起こしたような様相のレオンに恐る恐る声を掛ける。
「なぁ、あんなもの見たこと有るか?」
「無い……ですね、少なくとも僕の記憶の中では……何らかの魔術的処理が行われているかと……しかしこの規模で?」
一瞬、窓の外にチラリと目を向けたレオンは、苦しそうに呟くが、目には苦痛ではなく興味の色が滲んでいる。
「悔しいですね、こんな状態じゃなければもっと考えられたんですが……」
「まぁ、どうせ俺達はあの中に入るんだ。あとでジックリ考えようか……悪いな、声をかけて」
「いえ、大丈夫です」
馬車が道なりに進行方向を変えると、その先に巨大な城門が見える。その横の塔に門番らしき人影が立っていた。御者と言葉を二言三言交わし、何かを提示すると地面を揺らしながら城門が開く。通りすがりに突き刺さる目線は敵意より価値を見定めているような気配だった。
壁の内側に沿うように川が流れ、その上を石畳の橋が架けられている。悠真がパッと見ただけでも不自然なほど綺麗に区画分けされており、所々に人工的に管理された公園が有る。今まで暮らしていた街とは本格的に趣が違う、コレまでが生きるための街ならば、ココはまるで管理し観察するための研究所のようだった。
(なんつーか、来ちまったなって感じだ)
宿題を忘れて職員室に呼ばれたときのような居心地の悪さを本能的に感じ気分が悪くなっていると、後ろからルナールの無機質な声がした。ただ情報を伝えるためだけの淡々とした声色で。
「ようこそ、超古代文明研究圏パレクシアへ」
「パレクシア……」
目の前の情景に圧倒されていた悠真は、感情が湧く余裕すら無かった。




