41.酒、それは本能の解放
日が沈もうとした頃合いに、ガルドが訪れた。一人なのが気になり悠真が尋ねる。
「アレ?お前だけか、セリアはどうした?」
「疲れたようでな、家に帰ったよ」
そう言うガルドの表情に疲れは見えない、大した体力である。
「ところでなオッサン、ちょっと付き合ってくれ」
「えー?セリアに叱られレオンからも説教され俺はクタクタなんだよ、勘弁してくれよ」
「なに、一杯飲むだけだ、それなら良いだろう?オレの奢りだぞ」
「嫌だよ!コレから夕飯の仕込みも有るんだ!なぁレオン?」
助けを求めるように振り返るがレオンの反応は無慈悲であった。
「ご安心を、キールくんがいるので。たまには羽目を外してきてください」
「決まりだな、さぁ行くぞ!」
屈強な体躯の前にささやかな抵抗を試みるが、結局出口へと押し出された。
ガルドに案内されるままに訪れた場所は、度々見かけるが初めて入る建物だった。木と石が複雑に入り組んでおり、視線を上げると店名が刻まれた看板が風に揺れている。ガルドは慣れたように重々しい扉を押し開けた、カランと頭上で音が鳴り客の到来を店主に告げた。
「なんだ小僧!このクソ忙しいときに!!」
カウンターの向こうで出迎える声は赤い髪色と同様荒々しく、見た目も比例してどこか粗暴である。発達した筋肉は服をはち切れんばかりに押し上げておりしかしコップを拭き上げる手つきは繊細だ。
「ハッ、いつもどおりだな。席は空いてるか?」
「見りゃ分かんだろ!どこにでも座りやがれ!!」
気圧される悠真を伴いガルドはカウンターに座った。
「オレにはいつものを頼む、オッサンはどうする?」
「あー、俺は強い酒が苦手でな……なにか優しめなのがあればありがたい……」
オズオズと控えめに申し出た悠真に店主の荒っぽい口調が答える。
「ココをどこだと思ってやがる、酒場だ!酒を飲め酒を!!」
「アンタ!慣れてないお客さんにその言い方は無いだろ!」
横に居た恰幅のいい女性が硬化した水に包まれた右手でカコーンと頭をぶん殴る。髪色は鮮やかな青色だ。
「ゴメンなさいね、うちの主人ったら口が悪くて……アンタには果実酒で良いかしら?」
「ありがとうございます、助かります」
二人の前に木製のコップに入った酒が出される。隣のガルドの前に置かれた内容物は距離が有るのに強烈なアルコール臭が鼻を突く。
「それじゃあオッサン、乾杯だ!」
「うぃっす、かんぱーい」
ちびりちびりと酒を啜る悠真と対照的にガルドは一気に飲み干した。改めて見回してみると圧倒的に赤い髪色が多く、ガヤガヤと騒がしい喧騒に包まれている。
「オイ!お代わりくれ!」
「マジかよ……ハイペース過ぎるだろ……」
半分も減っていないコップの中身と見比べながら悠真は呆れていた。




