35.無自覚な異常値
あの日、裁きを受けた場所に悠真は一人呼び出されていた。何を言われるものかとビクビクしていたが、ソレイユからの答えはアッサリとしたものだった。
「不問と致します」
「はぁ……?」
自分の耳が信じられずマヌケな声が漏れる。
「貴方の行動を見ていました、先に調べていた報告と合わせると……誰かを騙して不当に利益を得るような人とは思えません」
「それは……ありがとうございます?」
「事実を述べたまでです」
手元の紙の束を見ながらソレイユは続ける。
「それよりも気になる点がいくつか有ります。黒き雨による魔術の阻害、その上魔王の襲来……にも関わらず被害状況が過去の事例と比べて明らかに軽い……」
「軽いって……人が死んでるんですよ?」
「他と比較して、です」
思わず声を荒らげかけた悠真を無機質な態度が鎮める。
「過去の事例に無く、今回の件に存在した条件は……ユーマさん、貴方です」
「俺ぇ?」
「魔術の使い方を教えてましたよね?」
今までやってきたことを思い返すが、あまりピンとこない。
「使い方というか、コツというか……ソレでも全員には教えてませんよ?」
「でしょうね、物理的に不可能なので。しかし確かに起点にはなった……貴方を中心に魔術を教え合う行為が広がったんです」
コツコツとヒールの音を立てながらソレイユが歩き回る。考えるときのクセなのだろうか?
「この前の戦闘を見ても、皆さんの損耗が少なく見えました。とは言え、ワタクシの観測からの憶測ですけどね」
「そりゃ結構なことで?」
あまり話が飲み込めず、ついつい他人事のような返答になってしまう。
「更に、キールくんを庇ったときの魔物の行動……」
「アレはそちらさんのルナールさんの魔術では?」
当時は必死過ぎて覚えていないが、微かな記憶を手がかりとして光景を引っ張り出す。
「いいえ、ルナールが魔術を使う前に、魔物は貴方達を見失ってました……と言うより、貴方がキールくんを遮った……?」
疑問のようで問うていない、自分自身に条件を確認しているようだ。
「魔物は感情を吸い取ります、そして貴方の感情値は無に等しい……魔物には見えていない……魔物は感情を見ている?」
「あぁ、そう言えば何度か魔物にスルーされた記憶が有ります。スライムとかクマ?とか」
何となしに口に出した言葉にソレイユの眉がピクっと動いた。
「詳しく調べる必要が有りますね、仮説止まりですので」
「はぁ……」
「取り急ぎ、貴方の魔術への影響度を確認しましょうか」
「どうやって?」
「貴方と近しい人の魔術を見せていただきます」




