33.お菓子屋のおっちゃん
悠真は非力である、こと魔術に関しては平凡を通り越して無能で有ることを自覚している。だからこそ誰よりも別のことで役に立とうと必死に動き回った。瓦礫を運び死体を掘り起こし配給を配り回り。そしてとある瞬間、悠真は瓦礫を除けた隙間に見知った顔を見つけた。
「おっちゃん!おっちゃんじゃないか!!」
あの日、笑顔で飴玉を売ってくれた菓子屋の店主である。しかしその表情に笑顔は無く、むしろ感情の尽くが失われていた。
「レオン!来てくれ!お前の魔術でドーンと瓦礫をどかしてやってくれよ!」
積み重なった疲労を忘れたかのように悠真は叫んだ、呼ばれたレオンが駆け寄ってきて息を飲む。
「ユーマさん……その方は……」
「なにやってんだよ?早く助けてやってくれよ、狭くて可哀想だろ?」
不満そうに瓦礫を動かし続ける悠真を、レオンが制止した。
「ユーマさん、手遅れです」
「馬鹿なこと言うなよ……見ろよ、大きな傷も無し、呼吸もしてる。おっちゃん、今掘り出すからな」
尚も店主を助けようとする悠真の肩をレオンが強く掴んだ。
「魔物に感情を吸われ尽くされています、こうなってはもう……回復しません」
「大丈夫だよ、俺の世界にも重度の鬱はいるけど、環境さえ整えば良くなるんだ。俺だって何回か波を乗り越えて……」
「ユーマさん!」
普段感情をあらわにしないレオンの大きな声に、思わず動きが止まる。
「ココは、アナタの世界とは違うんです。僕は何人も見てきました……彼は生きていません、ただ”死んでない”だけなんです」
「そんな……」
隙間から手を伸ばし店主の頬に触れる、冷たかった皮膚は悠真の掌の熱を受けてユックリと暖かくなる。
「だって、体温だって有るし……体も柔らかいんだ……生きてるんだ、生きてるんだよ……」
レオンは答えない、ただ無言でジッと立ち尽くしている。
「嘘だろ?なぁ……キールがさ、おっちゃんのお菓子が一番旨いって言ってさ……」
様子を見た周りの人が集まってくる、皆沈痛な面持ちをしており誰も笑っていない。
「俺が……俺が魔術を教えたらさ、めちゃくちゃ喜んでくれて、それでお菓子をサービスって言って……」
誰かが肩に手を置く、止めるためではなく、ただ……重さが伝わる。
「なんで……なんでこんなことになっちまったんだ……」
誰も答えない、そもそも答えは無い。
悠真の服の内側にある飴玉が、袋の中でカラリと音を立てた。




