32.魔王
果たしてソレは現れた。如何なる魔術か技術かにより宙を浮遊し、ユックリと地に足を付ける。そう……足が有るソレは、明確に人としての形をしていた。しかし遠くからでも確認できるその頭は二階建ての建物を優に超えていた。
「対象を確認、魔王と判定します」
「黒き雨に呼ばれたようですね」
魔王は吠えず、叫ばず、ただ足元の魔物を拾った。片手で軽く握ると魔物は跡形もなく消え去った、溶けた影が魔王の一部となる。次は人間を掴む、まるで子どもが小石を拾うように。掴まれた対象はジタバタと暴れていたが段々と動きが鈍くなりグッタリと力が抜けた。掴んだ手を通して魔王の中に命の輝きが溶けていく。そうして魔王は無造作に同じ行動を繰り返す、魔物も人間も区別無く。
魔物の群れは散り散りに逃げ、人間は様々な魔術を繰り出した。しかし放たれた炎は逸らされ撃たれた水は弾かれ絡みつく蔦は軽々と引きちぎられる。人は、ただの餌だった。
「ルナール、行きますよ」
「勿論です」
歩を進めようとする背中に悠真が声をかける。
「待ってくれ!俺は何をしたらいいんだ!?」
「逃げるか隠れるか……お好きになさい、ただし……決して戦わぬこと」
ソレイユは振り向きもせず魔王のもとに向かっていった。
悠真はキールを抱え、一つの民家の前に立った。
「すみません!匿ってもらえませんか!!子どもがいるんです!!」
扉を叩きながら訴えかけると、やがて内側から開いた。
「どうぞ!早く!!」
「ありがとうございます……」
全ての窓と扉が固く閉ざされ、ロウソクの頼りない灯りの元身を寄せ合う。時折悲鳴や轟音が聞こえ、何かが焼け焦げるような匂いがする。建物のアチコチからギシギシと音が鳴り、天井から埃が舞い落ちてくる。しかしその間隔は徐々に遠くなり、やがて完全な静寂が辺りを包みこんだ。
「終わった……のか?俺が様子を見てきます」
扉を慎重に開き、覗き込んだ隙間から見えた光景は、建物は崩れ肉片や血が飛び散り、見慣れたはずの街のアチラコチラが瓦礫と化した光景だった。
「終わったみたいですが、見ないほうが良いです。暫くココにいてください」
そう言い残し、悠真は一人外に出ていった。レオンや、他の人達の安否を確かめるために。




