30.黒き雨
屋内から外に出ると、急速に雨雲が広がり太陽の光を遮っていた。
「急いがないと、濡れて帰ることになりそうですね」
「確かにな……あ、でも寄り道したいんだ、先に帰っててくれ」
「どこです?」
「丁度見えてきた、あそこだ」
悠真が指を指し示した先には慣れ親しんだお菓子屋が扉を開けていた。
「懲りない人ですね……今回は特別ですよ」
「わーい!ありがとうお母さん!」
「誰がお母さんですか」
一人店に入った悠真は、馴染みの店主に挨拶をした。
「オッス、おっちゃん」
「おや、ユーマさんじゃないか、またキールくんへの手土産かい?」
「まあな」
軽い雑談を交わしながら商品を選ぶ。手に取ったのは様々な色が混じった小さな球体の入った袋だ……少なくとも悠真の中では飴玉として認識していた。動かすと微かにカラコロと音が鳴る。
「コレ貰えるか?」
「はいよ、少しサービスしとくよ」
「マジかよ?悪いな」
「ユーマさんのおかげで魔術周りが楽になったからね、ほんの礼さ」
会計を終え外に出ようとすると、ポツリと顔に雨粒が当たった。びしょ濡れになる覚悟をしたが違和感に気付き手のひらで受け止めた。
「黒い雨……?」
後ろで様子を伺っていた店主が駆け寄ってきて空を見上げる。
「あぁ……コレは不味い……ユーマさん、しばらくココにいなさい」
「え?いやあ……別に濡れるのは構わないんだが……」
「違うよ、魔物だ……魔物の群れが来るんだよ。そんな事も忘れちまったのかい?」
悠真が固まっていると店主はドタバタとアチコチの窓を閉め始めた。
「良いかいユーマさん、私はこの街の一員として戦う義務がある、でもアンタは無理だ……だからせめて隠れてるんだ。自分の命を大切にしてくれ」
言うやいなや、どこからか取出した大きな両刃の剣を構え外に走り出していった。
言われた通り、暫くおとなしくしていると分厚い扉が乱暴に叩かれる。何事かと様子を伺っているとレオンの声で自分の名を呼ばれた。
「ユーマさん!!いますか!!」
「どうした?」
閂を外し扉を開けると、息を荒げたレオンが珍しく感情を顕にして明らかに狼狽えている。
「すみませんユーマさん……キールくんが外に……」
「なんだって!?」
「僕が扉を開けた瞬間に貴方の名前を呼びながら走り去ってしまって……僕としたことが……本当にすみません」
「反省するのは後だ、二手に分かれてキールを探そう」
「分かりました」
レオンと悠真は、キールの名前を呼びながら駆け出した。ココ最近の思い出がフラッシュバックする。初めて名前を呼んでくれた日、初めて笑顔を見せてくれた日、いたずらをして一緒に怒られた日、夢の中……父と母を呼びながら涙を流していた寝顔。
(そんな……今からじゃないか、折角コレから幸せになれそうだってのに……)
運動し慣れていない悠真の脇腹は痛みを訴えだし、喉の奥から音が鳴り吐き気を催す。だが止まらない、止まれない。
(頼むよ神様、もしいるんならどうか助けてくれ、お願いだ)
様々な武器を構えて走り行く人混みを必死に掻き分ける。
(どうかキールから、これ以上何も奪わないでくれ……!)




