29.疑惑は更に重なって
「改めまして、ワタクシはソレイユと申します」
さながら教会の鐘のような荘厳な響きに否応なしに背筋が伸びる。
「貴方達が呼ばれた理由は理解してますね?」
両膝の上に置いた握り込んだ手の中に汗が溜まっていく。何か返事をしなければと焦れば焦るほど口は硬く閉まって開かない。見かねたレオンが服の内側に手を入れ手紙を取出した。
「はい、コチラに詳細が書いてありますから」
「でしたら、そちらの内容について何か弁明はありますか?」
その時悠真が右腕を指先ごと真っ直ぐ上に伸ばした。
「スミマセンソレイユ様、俺から宜しいでしょうか」
「発言を許します、あと……様は付けなくても構いません」
「ありがとうございます……俺は……少なくとも俺自身は騙していたつもりは有りません。勘違いされることも有りましたが訂正してきました」
上手く回らない舌を無理矢理動かして言葉を紡いでいく。
「そうですか……でしたらその髪色は?」
「地毛です」
間髪入れずに答えたが、どうにも疑惑が拭えないようだ。
「確かに……染めた様子は見られませんが……確認してみましょうか」
言ってソレイユは、水を掬うかのように両手をお椀のような形を作り、何事か呟き出す。
(呪文の詠唱か……となると何らかの魔術か?)
見ていると手の中に段々と光が集まりだし……
「——示せアブソリューション」
詠唱が静かに止まると光が拡散して辺りに飛び散る。思わず顔を逸らした先でレオンの影が見えた。
(影が緑色だ……多少赤と青も混じっているな)
(後ろのルナールとやらは真っ黒だ、普通の影ともまた違う……)
(となると……影の色で属性を判別できるわけか……)
部屋に満ちた光の密度が薄まり、室内に暗がりが戻ってくる。誰も口を開かない、魔術を使った主のソレイユでさえ。
「あー……ソレイユさん、俺の結果ってどうでした……?」
沈黙に耐え切れず恐る恐る尋ねた悠真にソレイユが感情の揺らぎすら見せず答えた。
「確かに、他の属性が闇属性を偽装しているわけでは無さそうですね」
「そうですよね!だって俺、魔術使えないですし!」
「えぇ、そもそも属性云々より、影の色が薄すぎます……まるで死者のように」
死者、という意外な言葉に違和感を覚える。
(俺が死んでる?まさか、異世界転生した挙句ゾンビやらキョンシーやらになったってのか?属性山盛りだな)
その思考の流れをレオンが遮る。
「そんなまさか、僕は彼と同じ家で過ごしていましたが、とても死んでいるようには見えません」
「そうでしょうね、もう一つの近い可能性としては、魔物に感情を吸い尽くされ死に向かう者……いずれ死ぬか既に死んでいるかの違いですけど」
(まぁ、感情が無いのは正解と言えば正解なのだが……)
ソレイユはと言えば、椅子に座り長机の上の紙の束に何か書き込んでいる。文字を刻む行動一つとっても優雅さが滲んでいる。
「ユーマさん、詐欺行為については保留にしますが、今後の行動を含め要観察とします」
それが、今回の審判の結果だった。




