脱出①
どうやらこの人は特殊な訓練を受けた人らしい。消音器付きの拳銃で行く手の哨兵を倒しながら、素早く影に引き摺って隠し、ときおり草むらに伏せ、コインや石を投げて音で誘引し、監視を避けながら迷いなく何処かへ向かっている。
その背中に私は囁きかけた
「ねえ」
手で止まれの合図をしながらこちらを向かずに囁き返す
「なんだ?」
「あなた、名前は何て言うの?」
少し逡巡したのち、答えた
「…ラットだ。まあ、呼び方など些細な問題だが」
どうやら彼はラットというらしい。
「じゃあ、ラットさん。今は何処へ向かってるの?」
側溝を開け、中に滑り込む。
「魔導兵器保管庫だ。この基地から隠密に出る方法はない。なら、力尽くしか無いんだよ。」
側溝を飛び出し、建物に取り付く
「壁際の見張りと探知結界のせいでね。君を外に出す鍵はあそこにしかない。」
陰から飛び出し歩哨の首を折る。
腰を探り、鍵束を取ると遺体をトラックの運転席に座らせる。
そのまま鍵を使って何処かへ入るのかと思ったらラットはおもむろに腕時計を確認する。
「そろそろか...」
そのとき、急に基地内の警報が響き渡る。
『ケースRED発令。ケースRED発令。基地内の全隊員は直ちにロックダウンプロトコルを実行せよ。繰り返す。ロックダウンプロトコルを実行せよ。』
直後、基地内の明かりが全て灯る。
「ねえラットさん!」
焦った私は彼を見るが、
「予定通りだ。ここからは時間との勝負だから遅れるなよ?」
すると彼は何故か明らかに重要そうなその鍵を遠くへと投げてしまった。
「え?」
唖然としながら鍵を目で追うと建物の向こうへ消えてしまった。
ハッとしてラットさんの方を向くと彼は気にせず歩みを進めている。
逡巡したが結局彼の後を追いかける事にした。




