訪問者
「明日の朝、君は術研に回される。その前に君を解放しにきた。」
彼はそう言うと椅子の拘束に何かを翳す。すると突然拘束が解け、立てるようになった。流れるように彼が足の拘束を解き始めたので、私は面食らいながら自由になった手で口を縛っていた布を解いた。
「どうして私を助けるの?」
ここの人は皆私を敵視し、恐れていたはずだ。100歩譲って処分が事実だとして、彼に私を助ける理由がない。
ゴトッ
左足の拘束が解けると彼は私の首に手を回した。
咄嗟に後退りそうになるが、彼の手に強引さはなく
「動くなよ…」
こちらはものの数秒でカチッという音を立てて外れた。
彼は外れた首輪を見つめながら
「君は綺麗な目をしている」
「は?」
全く予想外の返答に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。もしかしたら裏返っていたかもしれない。
「僕はもう疲れたんだ。戦い続ける事に。」
そう言った彼の目は私の目をじっと捉えていた。
「なら、どうして私を助けるの?」
「…僕は本来死んでいるはずの人間なんだ。1週間前、僕の居た部隊は僕だけを残して文字通り全滅した。真夜中に奇襲されてろくに反撃も出来ず、ただ基地も味方も蹂躙された。僕たちは司令部に籠城していたけれど、結局戦略砲撃術式を打ち込まれた。建物ごと倒壊して死んでいた筈だったんだ。」
「…」
「でも、ある人が僕を助けてくれた。彼女は僕への攻撃だけ逸らしたんだ。お陰で生き残ってしまった。どうして戦友たちと死なせてくれないのか。どうして僕だけを助けたのか。助けてもらっておきながら恨み言も吐いた。でも…」
「だから、私を助けるの…?」
言っていることは理解できても、理由の説明になっていない。
「…後のことは後で話そう。まずはコイツを」
そう言って液体の入ったカートリッジを私に渡した。
「ソイツを飲んでおけ。特別性だからよく効くはずだ。」
こんな訳のわからない物は飲みたくない。しかし、現に助けてくれる人が私に毒を盛る理由はない。
意を決して一息で中身を飲み干す。
(マズっ…でも、凄く…暖かい?)
鉄臭く、エグ味のある味だが、しかし身体を芯から温める様な、よく分からない不思議な感覚だった。きっと栄養剤か何かだろう。
彼は扉の外を伺う。
「よし、行くぞ。ちゃんと付いてこい」




