命の価値は
嘘だ...
急に息ができなくなったと思ったら、気がついたら知らない尻尾はついてるわ、ワルキューレの兵装が使えないどころか無くなってるわで、戦いが終わったと思ったらエリニュスが胸を貫かれてる。
あまりに情報量が多すぎて
ガランッガラン...
力無く項垂れるエリニュスが手放した盾が地面に落ちる音が私を現実に引き戻す。
ザシュッ...
穂先を勢いよく引き抜けば、支えを失った身体は地面に崩れ落ちる。背後にはやはり黒い鎧を纏った、異様な威圧感のあるあのワルキューレが血振りをしている。
一切の生気を感じないが、その視線が私を見つめている事だけは確信している。
ああ、どうか私を見逃してほしい。まだ妹たちも待っている。エリニュスに用があるなら、悪いが私には構わないでほしい。そう思っていたはずだ。
だが、彼女が徐に槍を消し、倒れ伏すエリニュスに手を伸ばしその身体を持ち上げた時。考えるより先に身体が動いていた。
(今エリニュスを見捨てて逃げても、いずれ見つけ出して妹たちも処分される。だが!)
エリニュスなら見捨てない筈だと確信めいたものがあった。
足裏で炎が爆ぜ、身体は弾かれた様に前へ。虚を突かれたのか、反応が遅れたその頬に拳を叩き込む。
命中する瞬間、拳に炎を纏わせる。綺麗に入った拳はランサーの身体を綺麗に吹き飛ばし、壁にめり込ませる。
イオナは油断なく相手を見据えながら、落下したエリニュスの身体を受け止め、横たえた後、炎で出来た掴める筈もない尻尾を実体が有るかのように一本引きちぎり、エリニュスの上に落とした。
壁に開いた穴から、人間大の瓦礫が幾つも投げつけられる。エリニュスから離れつつ、拳で、蹴りで瓦礫を迎撃する。すると、一つを殴り飛ばした瞬間、陰に隠れる様に投擲された槍が迫る。
完全に振り抜いた姿勢で無防備な身体に、しかして正確に迫る穂先を見るや否や、体勢を崩す勢いで後ろに倒れこみながら、槍の横腹を蹴り上げる。だが、不可解な事に、弾いた槍は空中で意思を持つように回転を止めると、再びイオナ目掛けて飛来する。
ただ、胸の焼けるような痛みと裏腹に身体は凍えるように寒い。命が形を持って流れ出ているような、身体から魂が抜け落ちていくような。
身体が動かない。指一本さえ動かせない。瞼さえ閉じてきて、息はとうに詰まってる。鼻から口から鉄錆の匂いがする。ただ流れ出る血の多さに視界は黒く、耳は鳴り続け、ここで終わるんだと、私の中でどこか冷静に考えていた。
(ああ、悪いことしちゃったな...せっかく助けてあげられると思ったのに)
あの時、「生きて」では無く「逃げて」と言っていたら結果は変わっていただろうか?
いや、どうせワルキューレに会った時点で詰みだった。ここに来ること自体が、そもそも彼女たちの世話をしようと思ったことが、もしかしたらもっと前...
身体から離れ、沈んでいく思考の中、息もしていないはずだが、ふと乳の香りが鼻腔をくすぐった様な気がした。
(そういえば、どうして今まで私は両親のことを全く考えなかったんだろう?)
どうしてか、どうしても母に会いたかった。顔も名前も分からないが、ただ会いたいのだ。
グチョッ...ヌチョ...
肉の触手が倒れるエリニュスの手を包む。
(ねえ、お母さんに会いたいの?)
パチパチと脳の奥でスパークする様な感覚と共に複数が同時に喋るような不鮮明な音を拾う
ああ、会いたい。ただ温もりの中で穏やかに眠りたい。
(一緒だね。わたしたちも皆んなで一緒にお母さんを探してたの)
なら勝手に行けば良いじゃ無いか。私に構うな、邪魔してくれるな
(...そうしたかった。でも私たちにはもう、お母さんに会いに行ける身体が無いの)
なら、もう会っても認識してもらえないじゃないか。するだけ無駄だ。出て行ってくれ
(そう。私たちにはもう身体が無い。でも、あなたには腕も足もある。だからさ、その身体を貸してよ)
ふざけるな。悪いがそんな事する義理もないし、第一絶対に嫌だ。
(ううん、悪いけど身体は借りるね。じゃあね、お姉ちゃん。)
間合いに潜り込み殴りつけようとするが、槍は穂先だけが武器ではない。バトン回しの様な華麗な槍捌きで攻撃はいなされ、石突に胸を突かれれば鈍い音と激痛が走る。掴んで引き留めようとすれば、その瞬間に槍を消し、再度展開して肘の下を通し、肩関節を極められそうになる。
エリニュスも度々やっていたが、武器が現れたり消えたり、しかも扱いは超一流。全く反則じみた動きで、払われそうになった足元を避けたと思いきや跳ね上がる様な軌道で今度は穂先が目先に迫るのを慌てて避けながら、思考はかえって冷静であった。
(更には飛行の応用で重力を無視した軌道しやがるから、全く予想が出来ねぇ)
縦回転で円軌道を描きながら迫る動きを見切り、回避しながら反撃と火球を撃てば、槍を使って跳ね上げたワルキューレの残骸に命中させられ、ただ死体を焼くだけに終わる。
(だが、おかしい)
最初の数発以外は全て体術を軸とした近接戦で、出鱈目な魔法を使っていない。
もちろん、イオナが近接で闘う都合、近接に応じているのか、発動には条件があるのか。そもそもが魔法で何をしていたのかさえ分かっていないのだ。
細かくも傷が蓄積し、だんだんと重くなってきた身体を懸命に動かしながら考える。
(私はワルキューレでなくなったのか、再生が効かない。ただ、蘇生すれば傷は治せるみたいだ。だが....)
知らない間に生えていた尾に思考を馳せる。
(多分、一回につき尾を一本。残りは6本あるが、ジリ貧の状態で削ったら本当に詰んじまう)
なら、この一本一本を決定打に繋げれば良い。
ここまで致命傷を必死に避け続けていたが、敢えて受け止めてゼロ距離でカウンターブローを放つのはどうだろう。見る間に人体を炭化させる様な炎は流石にワルキューレも堪えるだろう。
そう考え、次の攻撃が迫る時、貫かれる感触がする前に彼女の動きが止まる。
目元が見えないが、視線がと言うより注意が私をみていない。いや、私の後ろに向けられている。目の前の敵にも関わらず、私は後ろを振り返った。何故なら、常にエリニュスを庇いながら戦っていた私の背後にはエリニュスしか居ないのだから。
エリニュスは確かに起きていた。地に伏していた筈の彼女は今立っている。だが、彼女の復活というには様子がおかしい。糸で吊るした人形か、関節が錆びたロボットか、形容し難いが異様な様子であった。
状況は常に私を置いて勝手に進んでいく。
彼女が右手を上げると何処からか見覚えのある刀が、と言うより例の刀が飛来し手に収まる。
ああ、鞘のマテリアルを再構成に使った為に抜き身で転がっていたのだろう。
掲げられた刀の切先は迷いなく私たちを向く。
そこで初めて立っているのがエリニュスでない事を認識した時、全身の沸騰する様な感覚と一瞬の空白の後、気がつけば私の腰から尾が一本散っていた。
(くそっ、やられた。一体どうなってる)
その間に黒い影が私を無視して電光石火の速さでエリニュスの身体を、先に貫いた胸部の傷を正確に今度は正面から貫いた。だが、ソレは心臓のある位置を貫いた攻撃が致命傷でもなんでも無い様にただ見ている。
「...ジャまヲ、スルな」
エリニュスの声に違いないが、彼女ではない声で話す。
ランサーは槍を握られたのを反応する前に感電する様に硬直し、その隙に殴り飛ばされる。
胸に刺さる異物を忌々しそうに引き抜いた後、放った槍を雷を纏った刀で切り裂いた。抵抗を感じない様な切り口で複数にバラされた槍は無惨に地へ転がる。
ランサーは殴られた勢いそのままに体勢を立て直し、虚空へ手を伸ばすと新しい紅い槍を握っていた。
(なっ!?使っていた槍は固有の武器で無かったのか?)
エリニュスやセイバーの様に一つの武器で闘うと思っていた私は暫し硬直する。
だが、エリニュスがどうなっているのであれランサーがそれと対峙してくれるなら都合が良い。
そう言いたかったが、結局どちらが残っても化け物が私を脅かす結果は変わらないだろう。
(ああ、ちくしょう。誰か状況を説明しやがれってんだ)
システムメッセージ:クラス グラップラーの戴冠を申請




