ニュクス戦
『エリニュス、イオナ、聞いてください。現在進行中の作戦フェーズ1では、換気システムのダウンしたハイブに乗じて下層から致死性のガスを充満させています。よって下からの増援は無いものとして良いです。次にフェーズ2ですが、コレも同時進行で施設の設備系のシステムを順次オーバーライド済みです』
「ちょっと待て、シャットダウンされたんじゃ無かったのか?この施設が全部統一のシステムで管理されてたみたいな話だったじゃねえか。どうやったんだ?」
『魔法とでも言っておきましょう。それで、システムに接続された防衛兵器を上書きし、地上の掃討も進行中。その過程で武装専用エレベーターなどスキャンに反応しなかった通路を幾つか掌握。この先にある第一兵器格納庫をキルゾーンに設定し、基地内の兵器を集約しました』
誤魔化された様なイオナが若干不貞腐れる。だが、お構いなく淡々と、しかし頼もしい内容を聞き、エリニュスは自分たちが危険を犯した意味が分からなくなってくるが、まあ結果論と納得させる。それよりも
「で、アレを貫けるような武装はあるの?」
『可能性26%。試作型の魔術兵器が別にあった様ですが、資料によれば適合者なしで凍結されたプロジェクトの産物です』
「それって私なら使える?」
『エリニュス、イオナ共に出力は満たせますが適合は未知数です。それよりまずは通常火砲による飽和攻撃を試みます。それとエリニュス、貴方達にして貰わなくてはならない仕事が二つ。メノイケウス計画のレポートによれば、かの兵器は未完成で、まだ贄にされる予定の少女がまだ2人施設内にいます。それと、兵器起動を察知したワルキューレが向かってくる筈です。現在、早期警戒体制を敷いていますが、レーダーに掛かり次第迎撃に向かって...』
その瞬間、エリニュスの身体が突然排出される。瞠目するうちに、先ほどまでいた場所を貫く様に鉄パイプが数本突き刺さっている。
逃げてください。
メッセージと共に目的地と施設内のイメージが更新される。再びここより下に潜る必要がある様だ。
振り返れば肉塊から伸びる人型の塊は先ほどより個数を増している。アレを殺さなくては生きて帰ることは難しいだろう。だが、まだ生きている少女たちが、イオナの姉妹がいるなら助けない選択はしたくない。
例のパワードスーツは反転して攻撃を加えるが、やはり効果はない様で、どころか完全に無視されており、肉塊はエリニュス達を目指してまっすぐ向かってくる。それを確認すると間に割り込み、必死に押し返そうとするが、腕先から猛烈に火花が散り、金属が折れ曲がっていく。
5...4...
視界端に現れたカウントダウンが何を意味するかは察せられた。
駆ける勢いそのままに壁を撃ち抜いて、防衛兵器用のエレベータに滑り込むと、下へ再び落ちていく。
1...0
ちょうど頭上で爆発音と炎が見える。すぐ後に溶けた鉄が降り注ぐと共に肉塊が侵入してくる。
だが、よく見ると周囲に浮かぶ人型の肉体のうち幾つかが少し潰れている様だ。
それらは引き込まれる様にして肉塊に融合していく。
上ばかり見ているわけにも行かない。
翼を展開し、目的の階へ滑り込む。肉塊に出会った階層より上だが、すでに説明にあったようにフェーズ1は進行している様だ。廊下は非常灯と見られる暗い明かりだけで、地面には制服姿も完全武装も等しく、鼻や耳から血を流して伏している。もがき苦しんだ様子が這いずった血や剥がれるまで掻き続けた手の跡で分かるが、おかげで人の気配は無い。薬品を嗅いだときのような香りがして、心配になってイオナの様子を確認しておくが、平然としているので渡した鞘は仕事をしてくれている様だ。
目的の部屋へ入れば、いくつかのカプセルを保管していた痕跡と、まだ残っているカプセルが二つだけあった。あの肉塊の側にあったものと同じカプセルだ。窓から覗けば液体が充填してあるらしく、取り外しても生命維持が続く事に賭けてそのまま運ぶ事にした。
同じく窓を覗いたイオナと目を見合わせたが彼女は首を横に振った。どうやら同じ孤児院の出では無かったらしい。それは同じ目的の施設が複数あることを意味するが、今は目の前の問題の対処だ。
固定用アームを力尽くで折り曲げ、解放されたカプセルをそのまま掴んで持ち上げる。イオナも同じく一つを抱え上げ、幸い近くにある搬入用のエレベータから上へ。エレベータそのものは通電していないが、ワルキューレには関係無い。うまくカプセルを抱えたまま翼を広げて飛び上がる。
だが
「エリニュス!無理だ。このカプセルは重すぎて追いつかれちまう!」
幾ら膂力が人の数十倍あろうと、ワルキューレだろうと、容器と中身合わせて自分の十倍近い重さを上げるのは容易ではない。
中の少女達だけでもと思ったが、ここの空気はまだ中の少女には耐えられない
「イオナ!まだ中の子が耐えられない!」
「そうは言ったって、無理なもんは無理だ!一か八か中の液体だけでも」
その時だった。
通信回復。援護を行います。通路の中央部分を空けてください。
「イオナ!上から援護!端によって!」
通路の端へ避ければ、中央を貫くように曳光する弾が雨の如く降り注ぐ。
肉塊を覆うような人型に命中するばかりだが、撃ち落とす事により肉塊の全貌が覗けた。それは最初に見た時より僅かに身体が細り、手足の長くなっている事に気づいた。だが、斉射の終わった途端に再び肉塊から人型は生え出て補充され、再び姿は覆われてしまう。
更にはお返しとばかりに電撃に加え、壁面からパネルやボルトなどが力尽くで引き剥がされるように捲れ、そのまま目にもとまらぬ速度で上へ向けて射出される。
上を見れば、先ほどと同型と見られるパワードスーツが足で突っ張り、待っていた。だが、腕にマウントされた砲身や取り付けられた装甲板に先ほど打ち出されたボルトや鉄屑がめり込んでいる。
『エリニュス、イオナ、回収ご苦労様でした。まずはそれを預かります』
そう言って足裏のローラーを動かして登りながら相対速度を合わせると、カプセルを掴んで背中にマウントした。
『しかし、面白いですねあの能力は。タネが分かってしまえば、あまりに力づくな魔法とは』
「ねえ、タネが割れたってどう言うこと?」
「ああ、今それを聞こうと思ったところだ。と言うか、分かったところでアレを倒す手段なんてあるか?」
『倒せるかどうかは不明です。それより間も無くキルゾーンに到達します』
そのままキルゾーンとして設定されていた広場に着くなり、反転して武装を構えるが、砲身が使い物にならないのを忘れていたようだ。
広場には前に見たものも見たことのないものも、装甲車から戦車、機械式の銃座やパワードスーツに、土がついているので外から持ってきたであろうランチャーの類まであった。
火器管制システムが無数のコードで繋がれており、全ての照準が部屋の入り口を向いている。
『間も無く到達』
壁が赤熱し始め、溶けた穴から肉塊が入ってくる様子は既に見慣れたものになりつつあった。
『攻撃開始。AMAPFSDS、AMHE、20ミリ多目的弾、30ミリ対魔徹甲弾』
矢の様な弾や、セイバー戦でも使った砲弾、口径の多種多様な弾丸が雨あられが如く殺到する。だが、幾つかは通れども、殆どは命中前に不自然に軌道が曲げられ、近くにある兵器群が引きずられる様に肉塊へ向かって浮かべられていったかと思えば空中ですり潰す様にスクラップにされていく。
『エリニュス。この槍を握ってみて下さい』
そんな奇妙な大戦争を他所に、エリニュスたちは一本のケーズに収められた槍の前にいた。
言われた通りに槍を握る。だが、何も反応がない。
『イオナ。あなたも握ってみてくれますか』
「ああ、いいぜ」
イオナに槍を渡す。
彼女が握っても同じく槍は沈黙を保ったままだった。
『起動は失敗。プランBへの移行を行います』
「おい、こいつがなきゃマズいんじゃなかったのかよ?アレならカプセルの中の奴らを叩き起こしてでも握らせなきゃ行けねえんじゃねえの?」
『実はその槍の構成はエリニュスの盾と非常に近い。なので、槍は放棄。エリニュス、力尽くでその槍を概念侵食してみてください』
言われた通り、腕に力を込めれば青白い光が走り始める。
その状態でイオナが持ったままの槍に静かに手を伸ばすと、今度は磁力によって弾かれるような抵抗さえ感じる。
その斥力を跳ね除けるように力を込め、槍を強く握る。屈服させるように、自身の存在を刻み込むように、稲妻を纏い始め、槍が光る。
『...!エリニュス、今すぐに離して!イオナ!』
だが、もう遅い。先程まで強く弾こうとしてきていた斥力は強力な引力に変わり、離したくとも手が吸い付いて離れない。
クラススキル、不発。条件不適合につきシールダー・クラスを条件付きに移行
白い稲妻が紅く塗りつぶされていく。




