合流、そして上へ
逃げながら度々後ろへ向けて発砲するが、傷一つ付けられず、進行を僅かでも遅れさせる事さえ出来ていない。アレは魔術より上位の概念で、つまりは魔法で守られているのだ。
「エリニュス!逃げてるだけじゃ埒が開かない!どうする!」
イオナは判断を仰いでくるが、どうするべきか分からない。頼りになる声も聞こえない。
「エリニュス!」
だが、考えている暇などなかった。角を曲がった途端に待ち伏せていた連中がいた。
いつぞや見た、あの妙な装備をつけた兵士たちだ。
私に銃弾は効かない。そう思って咄嗟にイオナを後ろ手に庇う。直ぐに銃弾の雨が浴びせられるが、体表で弾かれるはず...だった。
身体に無数の穴が開く。おかしい。銃弾は私には効かないはずで...
(本当に?どこか自分は傷付かないなんて傲慢があったんじゃないの?)
思えば、あの妙な奴らは基地以来会っていない。そもそも攻撃が防げる確証なんてなかった。
身体は力を失い、地面に倒れる。咄嗟に手をつく。
腕から、脚から、腹から血が流れ出る。手足の先が冷たくなり、視界が揺れ始め...て....
「おい、エリニュス!しっかりしろ!おい!!!」
イオナは直ぐに立ち直り、通路の先へ砲撃を加え、一団を吹き飛ばした後、立ち上がらないエリニュスの腕を掴み、そのまま走り出す。
「エリニュス!再生はまだか!ったく、あたしなんか庇うよりしてもらう事があるだろうが」
扉を蹴破り、シャフトに出ると、翼を展開して飛び上がる。だが、ほんの数階登ったところで上から曳光弾の軌跡が見えると近くの階へ再び戻る。
「チッ、やっぱ楽はさせてくれねえよな。まあ、だから侵入経路から外したぐらいだし。見つかった今、活路はどこにある...エリニュス、まだ動けないのか」
振り返れば、通ってきたシャフトを例の肉塊が同じ様に浮上してくる。上からの弾幕をものともせず、どころか、付随する人型から雷の様なスパークが数条、反撃とばかりに放たれる。
「ああ、ほんっとに最高だ。無敵バリアに飛行能力に攻撃まで出来るとはな」
だが、結局ソレはイオナ達の後を追う様に階へ侵入してくる。
「しかもあたしらにご執心とは。ったく、とんでもないもの作りやがって。こんなものが魔法の産物なんて笑えねえ」
悪態を吐きながら、背後の警戒も怠らない。アレの攻撃の性質も、生物としての殺し方もまるで分からないぶん、人間より恐ろしいとさえ思える。
だが、いくら何でもエリニュスの再生が遅すぎる。そう思って目をやれば傷口が再生する様子がない。
「おい!?まさか...」
息はしているし、魔導反応も消えていない。ワルキューレなら再生能力が無いことも考えづらい。銃創程度の傷ならそろそろ回復できておかしく無い筈なのに。
「クソッ、それとも再生には何か条件でもあったのか?ったく、説明書の用意はねえのかよワルキューレってやつはよ」
だが、嘆いても始まらない。今できることは脱出を目指すかエリニュスの目が覚めるまで逃げ続けるか。どちらにしろ足を止める選択はない。そう思いながら走って広い空間に出た時、先の角を別の方に曲がればよかったと後悔した。
広めの空間に、装輪車や重装備の兵士。何より目を引いたのが3m高程のパワードスーツとでも呼べば良いのだろうか。無骨な骨組みのボディ、腕の30mm機関砲と肩のランチャーは喰らえばひとたまりもない。
前門の重火力、後門の怪物。まさに詰みと思われたその時、彼我の間で床が滑らかに開き、別の機体が出てくる。それは躊躇わず一団に向けて兵装を掃射し始めた。
『間に合いましたか?それよりイオナ、エリニュスはどうしたのです』
急にそれは背中越しにイオナの名を呼ぶ。
「ああ?誰だお前。どうしてあたしやエリニュスの事を知ってる」
唐突に現れた機体に不信感を募らせながら、誰何する。だが、答えは返ってこない。何発もの大口径の弾が装甲を貫通して背面へ抜けるが、中身のない様で怯む様子はない。続けて装甲車から発射された大口径の砲弾が機体に向けて飛翔する。だが、それは翳した機械腕により命中目前で掻き消えた。
『見知った攻撃、無駄です』
そのまま、反撃に放たれた誘導弾で砲塔を吹き飛ばされ、ただの金属の箱と化す。
前が片付いたと見るや、後ろを振り返りイオナの頭越しに肉塊へ向けて30mmを斉射する。だが、肉塊の手前で目視できる程の力場で捻じ曲げられ、全て逸らされる。
『なるほど、状況を理解しました。まずイオナ、あなたの事は知っています。説明は後でしますので、エリニュスの状態を確認するため、逃げながらで良いので本機の後部から中へ格納してください』
そう言って背中側を展開し、人1人が入れるスーツの内側を露出させながら背中を向けて走り出したそれを、意味も分からず唖然としながら、とりあえず追いかける様に再び走り出した。
狭い通路の規格に合わせた設計の機体は通路のスペースの大半を占有しており、逆に弾除けにもなった。
『では、何を言えばご納得いただけますか?』
「だから、てめえの存在が意味分からねえって言ってんだよ。助けられて、わーい味方だなんて言える様なお花畑じゃないんでね」
『なるほど。なら、溺れたあなたを助けるために策を謀ったのも私であると言ってもですか』
「ああ?そのくらい、わざと解放したに決まって...いや、よく覚えてないがエリニュスが配線に触れたのはお前をお前を放つためだったって言いたいのか?」
『ええ。その後システムに侵入しましたが、サーバーごと落とされ、何とか逃げ込んだコンピュータがコレでした。まあ、ある意味幸運でしたが』
「で?100歩譲って敵のスパイじゃないとするなら、エリニュスを入れろって?」
『...エリニュスの意識がないのは明白です。本機のパイロット分析機能を使ってエリニュスと接続、状態を調べます』
複数の触手のようなものが背面から露出している。
後ろを振り返り、障害物として落とした防火扉が赤熱して溶かされ、相変わらず等速に迫ってくる肉塊を見ると、もはや
「はぁ...分かったよ。なんか抜けてるワルキューレも居るんだ。知らない間に仲間だった人工知能だって居るだろ。まあ、後でエリニュスには問いただすか」
エリニュスの身体を触手が絡め取り、後ろ側の開いた殻にエリニュスの体を取り込む。
すると身体を包み込むように殻が閉まるが、翼が干渉し、締まりきらない。確認するや装甲板をパージ、内部の骨格が見えるほど風通しがよくなり、エリニュスの体が見えるほどで支えている。
『分析中...解析完了』
気がついたら、狭い空間で磔の様な状態だった。
『おはようございます、エリニュス』
音声と同時に視界にもメッセージが表示される。というか、前の様にさまざまな項目が見える様になっている。
「あれ?ここどこ?あと、戻ったんだね?イオナは?」
「いるぜ?」
背後から声が聞こえた。
「ここは、お前が倒れた場所より11階上で、お前の相棒を名乗るやつの中と言ったところかな」
『エリニュス、倒れる前に受けた攻撃に心当たりは?』
記憶の連続性を探す様に一瞬逡巡する。確か最後の記憶は
「エリニュスは撃たれたんだよ。あたしを庇ってな」
そう言われて思い出す。そうだ、普段と違って弾を弾けなかったんだ。
『あなたの状態ですが、部分的にマナが停滞していました。おそらく呪詛や魔法に近い形の攻撃ですが、銃弾への刻印というのは知る限り実用化されていない技術のはずです。あなたの防御を突き破る程の対象には注意が必要です』
その様に長々と返されて、ふと思い出す。
「そう言えば、あなたどうしてそんなに流暢なの?前はもっと機械的だったじゃない?」
『サーバ内にあったデータから情報を抽出してきました。シャットダウンまでの僅かな時間で限られた情報ですが、施設の構造から、軍のデータベースまで抜いてきました』
「それよりエリニュス!アレから逃げ切るって本当に可能なのか?地の果てまでも追ってきそうな執念してるぞ!」
「ねえ、何か使える情報は無かったの?」
『残念ですが、アレの情報はおそらく独立したサーバにあったと思われ、収穫はなし。ですが、この施設ハイブについての詳細な構造図は手に入れられました。この機体もその収穫の一部といったところです。それと』
そこでドローンが数十機通路の先から生き物のように連なって飛行してくる。敵襲だと思い咄嗟に武装腕を動かそうとすると、視界に「cease fire」との表示とともに武装がロックされる。
どころか、咄嗟に反応しようとしたイオナの前に手を翳し、射撃を阻害する。そのまま天井スレスレをすれ違うように飛び去ると、背後で爆発が聞こえた。
肉塊への特攻攻撃だが相変わらず効果は無に等しい。
『やはり歩兵火器程度の威力ではダメですか。ですが、この先で私のアルターエゴがキルゾーンを構築しています。そこでケリをつけましょう』
旅に出した子は大き過ぎるほどに成長して戻ってきたらしい。




