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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
18/28

ハイヴ突入前段

「えー...であるからして、現在確認されている魔法という現象は心象の具象化と言われており、行使者の力量によってその世界への干渉力は...」


あれ?いつの間に授業なんて受けに来たんだろう?

まあ良いや、今は黒板の式を書き写さないと。


「...物理現象に無意識的にも従おうとしてしまう事で年齢とともにその規模は縮小し、判明している限りでは10歳前後から思春期にかけてが最も自由な力の行使が可能と...」


メモを取ろうとノートに目を落とす。


『今すぐに引き返せ』


書き殴るように書かれている。

私はここを知っている。私はここを知らない。

私はこの先何が起こるか憶えていない。私は何をしたのか憶えている。私は、私は...


エリニュスはそっと目を開く。


おはようございます。現在、日の出より37分


冷え冷えとした空気が漂っている。

さて、イオナはどこにいるだろうか。


礼拝堂に入ると彼女は跪いて祈りを捧げていた。

邪魔をしないように、慎重に扉を閉め、壁際に佇む。

少し待つと彼女は顔を上げた。こちらを振り向いて言う。

「おはよう。気遣ってくれてありがとうな」

「貴方って祈るのね。神とか信じるたちじゃなさそうだけど」

「おいおい失礼なやつだな。これでも毎朝祈りを捧げるくらいには敬虔なつもりさ。まあ、人だった頃の話だがな」

「...それで、」

エリニュスは声色を変える。真剣味を帯びた様子に薄ら笑っていたイオナも表情が締まる。

「それで、今日の事だけれど、本当に仕掛けるのね?」

「ああ。怖気付いたか?」

「まさか。ただ、計画は?私達の達成目標、敗北条件、それに彼女達はどうするの?」

座らせた時から動く様子のないワルキューレ達を指す

「確かに私達の目標は、メノイケウス計画に関わる施設を破壊する事で、彼女達はあれでもワルキューレなのだから効果的な火力として戦う事は出来る。でも...わがままを言うなら、彼女達をこれ以上戦わせたくない。勿論、こんなのはエゴだってのは分かってる。でも彼女達に人を殺させる訳にも、ましてや危険に晒すことはやっぱりしたくない。それなら私が差し違えてでも、それにあんたの力もある」


成功確率演算中。データが不足しています


イオナの目はエリニュスの目をしっかりと捉えている。それは縋るようでもあり、宣言のようでもあった。

「分かった。彼女達は置いていこう」

エリニュスは答える。

「だから、せっかく少数なら力押し以外の方法があるはず。施設の情報は?」

訊くと、イオナは紙の束を持ってくる。

「一応出来る範囲で纏めておいた。だけど、図面を持ってる訳でも精通している訳でもないからな、薬から醒めて、襲撃があって施設を出て、その間に見たものの記憶を書いただけだ。期待してくれるなよ」

そう言って申し訳なさそうに差し出してくる。

ペラペラとページを捲る


情報解析中。敵戦力推算、構造推定不足、座標記録


勝手に見た内容を...彼女とでもしておこうか、解析していってくれる。


結論:情報精度の不足。直接抽出の推奨


「え、直接抽出って何?」

「おい、どうしたんだ急に」

急に声を出してしまった私にイオナは怪訝そうな目を向ける。

「いや、纏めてくれたのはありがたいんだけど、情報の直接抽出?ってのをした方が良さそうかなって」

「別に構わないが、どうやるんだ?そんな術式聞いたことがないが」


(ねえ、どうすればいいの?)


回答。対象頸部プラグインへの接続。波長同期後の解析は担当します。


「...えっと、首にある穴から」

「...ああ、そうか。そう言えばワルキューレにはあるんだった。まだ慣れないな。と言うより私にもあるのか確認したことが無かったな。ほら」

そう言って彼女はうなじを露出する。

「どんな様子だ?自分じゃ見えないからな」

綺麗な肌の正中に金属質な穴がある。

「なんか...えっと、穴...だね」

「いや、知ってるよ!はぁ...寝ぼけてんのか?ボケるにしても終わった後にしてくれよ...」

「いや、だって...」

「良いから。接続は出来そうか?」


端子生成。


髪の一房が首をもたげる。

捩り合わせたような紙束の先端が確かに対応する端子のようになっていた。

(いや、やっぱりこの身体おかしいよね?)

まあ、だからと言って使えるものは使う訳で

接続された髪?端子?があるけどどうすれば...


接続確認。記憶領域解読。分析完了。


いくつかの文字列が走った後、外見と限定的な内部構造がイメージとして投影される。

山肌の中に隠れる様にあった施設の様だが、まるで斬り飛ばされた様に大きく抉れ、施設が露出している箇所がある様だ。防衛兵器のあった箇所も幾つも破損して煙を上げている。もっとも、これはあくまで数日前の記憶なので今は復旧しているかもしれないが。

内へ意識を向ければ、数本のエレベーターシャフトを中心としたアリの巣様な構図になっている様だが、場所によっては半壊している上、記憶に無い、見ていない部分は再現できないのか途切れた通路が多くある不完全な構造図だ。

ただ、周囲の地形や施設の特性を考えるなら、何処かにある排気ダクトからメンテナンス通路などを使ってエレベーターシャフトへ侵入する事ができるんじゃ無いかと思う。


考察された戦術による作戦遂行、確率42%

敵戦力不明。目的深度以下の構造体について疑問。


「まあ、その作戦は最もだと思うけどさ。あそこ、単騎とはいえ一応ワルキューレに襲撃される様な施設だよ?そんな簡単にいくか、それに何隠してるんだか」

「えっと...それってどういう事?」

「あれ?そっか、知らないのか。ワルキューレは何故か人が核兵器とかそう言う類のものを作ろうとすると決まって施設を潰しに来るんだよね。個人携行可能な兵器とか、旧式の兵器なら大丈夫らしいんだけど。それに散発的な襲撃もするから必ずとは言えないけど、やってる研究が研究だし、逆説的に施設に切り札があることは考えておいた方がいいんじゃねえのって話」

まだこの世界の常識について分からない事が多すぎる。

「他に何か、知っておくべき事はある?」

「ああ...一応話しておくけど、大地に向けての攻撃って大幅に威力が減衰するってのは知ってるか?」

山が斬り飛ばされてる光景を、まあ直接見ている訳では無いが、思い浮かべる。

「...アレで?」

「何を思い浮かべてるかなんと無く分かるが、そうだ。だからこそお前らは本当にデタラメなんだよ。まあ、とにかく外から飽和攻撃ってのも現実的じゃ無いってのは一応覚えておいてくれ」

あれから帯刀している腰の形見に目を向ける。戦った相手の恐ろしさを改めて感じると同時に何故か懐かしさが湧く。

「ま、それと作戦目標に食糧調達も追加で。忘れてたが、私も妹たちもお腹が空いてるんだ。あんたは大丈夫そうだが」

お腹が空かない。寝ようとしないと寝られない。同類は山一つ斬り飛ばす化け物。尚のこと意味がわからなくなってくるが、自分探しは終わった後でも遅く無いだろう。

「分かったわ。人間の施設を襲うんだもの、レーションや情報も集められるだけ集めましょう」


日が昇る。人なら夜に行動するのがセオリーかもしれないが、私たちは力を使う時に発光してしまうから、むしろ昼の方が目立たない。だけれど、逆に言えば離脱までを日の昇っているうちにしなくちゃならないという事。


「戸締りは大丈夫、忘れ物もないわね」

「何言ってんだ、盗る人間も持っていく用意が必要なものも無いだろうが」

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