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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
17/28

故郷

そこはかつて町だった痕跡が残る廃墟だった。

焼け落ちた家屋の燃え残った残骸や、崩れた井戸や割れた道。

確かにここに人が住んでいたと思える景色の中で、石造りの教会が街外れの丘に建っていた。

イオナはその庭先にある木のそばに佇んでいた。

後から降り立つエリニュスと姉妹達を一瞥すると、話し出す。

「実はここさ...私の故郷なんだよ。どうして忘れてたかな。今、ようやく思い出したんだ。この木の形を覚えてる。ここから見渡せる景色も覚えてる。私は確かにここを知っている。でも...」

彼女はそっと木に手をつく。

「でもさ、どうしてかな。私、ここにいた人たちの名前が、私の家族の名前が、私はどうしてここを去ったのか全く思い出せないんだ。」

「大丈夫...?」

イオナの顔は髪に隠れて見えない。その背中はどこか辛そうで、思わず声を掛けてしまったが、こんなにも辛そうなのに大丈夫なはずは

イオナは大きく深呼吸して振り返る。

彼女は笑顔でいう。

「ああ、大丈夫だ。心配を掛けたな。とりあえず中に入ろうか」

そう言って扉をそっと押す。だが、扉は動かなかった。

「あれ?おかしいな...」

そう言うと彼女の髪が薄くたなびき始める。

再度押すと、扉の向こう側で何かを引きずる様な音を立てながら扉が開いていく。何かが崩れる音がすると、急に抵抗感が抜けて開け放たれる。

外に待機を命じてイオナを追って入ると、そこは礼拝堂の方だった。周囲のイスが散乱する様子を見るに内側からバリケードにしてあったのだろう。

そっと耳を澄ませてみるが、自分とイオナ以外の音はしない。と言うより生の気配がない。

「誰も...居ないみたいだな。獣が住み着いた様子もない」

イオナが言う。

「教会の構造は分かる?」

「ああ。右奥の扉は奥の神官室なんかに繋がってる。左奥は地下倉庫だな。どっちも勝手に入って怒られたもんさ。」

そう言って右奥の扉を開けて進んでいく。

ひとまず危険は無いことが確認できたので、他のワルキューレ達も中へ招き入れる。

そろそろ外も暗くなり始めて来たが、私たちに暗闇は意味を為さない。

「なあ、ちょっと来てくれないか」

イオナの声が聞こえる。

彼女は一つの扉の前に佇んでいた。

「ここの部屋だけ鍵が掛かっててな。確か司祭の部屋だったから破壊するのも躊躇われるし...」

「ちょっと待ってね。多分出来ると思う...」

(この鍵の解錠を頼める?)


承知。鍵の上に手をかざしてください。


指示に従って鍵の上に手をかざすと、現れた魔法陣が鍵を精査する様に扉の中へ消えていく。


解析完了。

起動呪文は『ひらけごま』


「『ひらけごま』」

手の中に鍵の形をした光が現れる。

それを鍵穴に差し込み回すとカチリと音がして鍵が解除される

「なんだそれ、聞いた事のない呪文だな。まあ、鍵は開いたから良いんだけどさ...」

イオナが呟く

慎重に部屋に踏み込む。

ごくありふれた執務室の様相だ。机と椅子と本棚と

机の上には何冊かの本と帳簿などが積まれている。

「まあ、目立ったものも特になさそうだな。さて、あいつらのところに戻ってやるか」

そういうイオナに従って部屋を後にした。

お堂に戻ると、彼女らはやはり微動だにせず待機していた。

「それで...彼女達をどうすれば良い?」

イオナに尋ねてみる。

自由にするのも吝かではないが、それでまたあの状況になる訳にはいかない。

「あー...まあ、これでも人より何十倍も丈夫な身体なんだもんな。まだ慣れない自分が居るが...とにかく椅子に座らせてやるか。そうしたらそのまま眠らせてやってくれ。」

そういうイオナの言葉に従ってバリケードを崩した時のままの長椅子の中で原型を留めているものを配置し直した。

ここが教会というのも相まってか、年頃の少女たちが揃って椅子に座って並んでいる状況というのは中々どうして絵になる。

「わがままを言うようだが...今晩だけ此処に泊まってから行かないか?」

「ええ。別に構わないけれど」

どうせすでに夜だ。このまま移動から直ぐ強襲を掛ける訳でもない。それに彼女には抱えた事情もあるようだし、特に否定する要素も無かった。


少し気掛かりで司祭の椅子に腰掛ける。

イオナはどうやら町の跡地を巡って少しでも家に関する記憶が戻らないか試したいようだった。

ここに来てからと言うもの、ずっと違和感があるのだ。

イオナに尋ねてみようかと思ったが、彼女は彼女できっと精一杯だろうし、それに具体的に何に違和感を感じているのか分かってから伝えるのも遅くないと思った。

周りを見渡し、思案に耽る。手持ち無沙汰で目の前にあった一冊の手記を持ち上げる。

パラパラと捲るが、書いてあるのは取り止めも無い内容だ。何時、どこの家に子供が出来た。誰かが死んで葬式をした。日曜学校で喧嘩の仲裁をした。そんな日常が綴られている。

一気にページを捲り、最も新しい記述まで探したが、何も書かれていない。だが、だとすると何故人が消えた?何故街が燃えた?書くことが出来無かった理由は...

「おーい、ここに...ああ、やっぱり居た。何か面白いものでも見つかったか?」

イオナが扉を開けて入ってくる。

「いいえ、何も」

纏まらない思考は切り捨て、本を閉じる。

「そうか。まあ、ここの人達を誰も思い出せないから、別に会えなくて寂しいとか思ってないから心配すんな」

彼女は椅子を引いてきて私の前に座る。

「それで?」

「いや...話でもしないかってな」

必要な説明は彼女にはしてあるはずだ。それにまだ会ったばかりだし。

「故郷ってさ、なんだろうな。もっと、こう『帰ってきたー』みたいな感動があるものだと思っていたが、そもそも忘れていたくらいだし何も思い出せないし...」

「...」

「なあ、エリニュスの故郷はどんな場所だ?」

故郷。頭に浮かぶイメージはある。

「...綺麗なビルが並んでいて、みんなおしゃれな服を着ていて...」

あれ?なんて場所だったっけ?私の生まれた町は、私の生まれた国は。

「おしゃれな服か。一回着てみたいよな、帝都の奴らが着てるような服。それとも、それがあんたのいうオシャレってやつか?」

イオナは笑いながらエリニュスの服を指す。そういえば収容された時に着せられた後、ずっとこの服だ。

「いいえ。これは違う。ただ着替えの服が無かっただけ...」

それを聞いた彼女は

「そうか。なら、目標に服の確保も追加だな。家が残ってれば探したんだがな」

「ねえ」

「うん?」

「...イオナはさ、どうしてそうやって明るく振る舞おうとするの?」



彼女は言葉に詰まる。

「...暗くても良い事ないだろ。これが元々の性格だよ」

「...」

「じゃ、おやすみ。明日は軍隊を敵に回すんだ、準備は万端に頼むぜエリニュス」

まあ、彼女が辛くないはずないだろう。

無神経なことを聞いてしまった。

彼女はどこで寝るのか気になったが、でも今は少し後ろめたい。

背もたれに身体を預け目を閉じる。だが、眠気は来ない。ただ静寂が耳に痛くて苦痛に感じる。


入眠設定を実行しますか?


人ならばきっと夜は眠るものだろう

「...実行」


承認確認。


緩やかに意識が溶けていく。

あれ....今、何か....思い出し........

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