メノイケウス計画
「メノイケウス計画。私たちが本来使われるはずだった計画だ。神話のメノイケウスって知ってるか?」
「あのテーバイを守る為の?」
「ああ」
「どういう事?というより話している時間はあるの?」
そうエリニュスは訊くと彼女はフッと笑った。
「まあ聞いてくれ。というより他の子達と話をするより先に知っていて欲しい事柄だ」
そう言って彼女らを振り返る。
「かつて私たちが居た孤児院だが、そこは待遇も良く、常に活気に溢れていた。本は自由に読めたし食事も腹一杯食べられた。戦況が厳しくなろうと、それで新しい子達が増えれば歓迎会を開いた」
過去を懐かしむように言う。
「ああ。恵まれていた。恵まれすぎていた。幼い頃から居て、なぜ全く疑問を持たなかったのか分からない。でも、あの恵まれた環境がいかに不自然だったか、かつて親を失った私たちは戦場を知っているはずなのに考えもしなかった...いや、もしかしたら考えたくなかったのかもしれない」
「それに何の関係があるの?」
「はぁ...結論を急ぐなよ。これでも話し上手で有名だったんだぞ?まあ良い。伸び伸びと暮らせたのも、本を大量に与えられていたのも、何故か女子しか居なかったのも、全て私たちが居た場所は人間兵器工場だったからさ。想像力と扱いやすい無垢な願いだけで発現した奇跡を兵器転用するために家畜のように育てられていただけさ。当たり前だろう。こんなにも荒れた世界で孤児院をわざわざ運営するような活動が善意だけなわけ無いんだから」
「でも、貴方達の奇跡であって、あなたたちが戦争をするわけでは無いでしょう!?」
「いや、あくまで私たちは触媒だよ。世界の法則を捻じ曲げるという法則があれば人はそれを如何様にも使える。私たち一人一人の奇跡は細くとも束ねれば大きな力になる。つまり多くを生贄に使った大量破壊兵器。それがメノイケウス計画って事だ」
「生贄...それは絶対に止めなきゃ」
「ああ、そうだとも。それで、協力してくれるのかい?ワルキューレさん」
まるで私が断るとは微塵も思っていない様に冗談めかして言う。
「それで、彼女達を後にさせた理由については?」
この話が本当なら、彼女たちの中にも戦いたい子たちが居るはずだ。ならその子とも話をしなくては。
そう思って彼女に尋ねると、少し答えづらそうに頬を掻いて言った。
「ああ。彼女達はこれを知らない。実を言うと、この中でこの計画を知っているのは私だけなんだ。彼女達はただ知らない間にワルキューレにされて、なっていると言うことは自分は人を殺したのだと、きっとそれはここに居ない姉妹だとそう思い込んでいるだけだ。何せ、気付いた時には凄惨な有様だったからな。」
「違うの?だって貴方さっき何人も殺したって」
「私は殺してやったさ。この計画を立てた大人を何人も。ただ、彼女たちは正真正銘無実なんだ。でもそれを説明してあげるためには、今まで信じていた環境が全て敵だったと、親も故郷も失ってようやく見つけた居場所を否定してやらなければならない。もちろん私は可能な限り協力するし、きっと必ず本当の事を話すから、だからどうか彼女達は今しばらくこのままにして欲しい。これは彼女たちを守る為の嘘なんだ。信じてくれ」
そう言うと彼女は頭を下げる。
「どうか頭をあげて。なら、尚の事そんな計画は絶対に止めなきゃ。残っている姉妹たちも助けなきゃいけないし。でも、私は無案内だから一緒に来て貰わないと...」
エリニュスの返答に彼女は顔をあげる。
「もちろんだ。例え断られたとて一人で突貫するつもりだったさ。でも、あんたが協力してくれると言うのなら心強い。あのクソみたいな絵図を描きやがった奴らに目にもの見せてやる」
「なら、まずどこへ向かえばいいの?」
「いや、先に拠点を確保しよう。必要だからな、あの子達にも私達にも」
「当ては?」
「ここから程近くに集落の廃墟がある。ほとんど焼け落ちているが教会だけはまだ形を留めているはずだ。大きさも申し分無い。」
...地理情報更新。方位87°、約16km先
最後に振り返って、地面に突き立てておいた一振りの刀を見遣る。
墓標代わりに置いて行く事も考えた。存在ごと消えてしまった彼女の唯一残したものとして。ただ、この荒野の真っ只中に野晒しにしてしまう事も憚られ、結局持っていくことにした。
私の盾と同じ様に体内に格納する事が前提だからか、鞘は見当たらない。抜き身のまま持ち歩くのもどうかと思うが、どうしたものか...
...提案。破損した盾の再構築。
破損した盾だが、元の形に戻せなくとも残った部分で鞘の形に整形するくらいは出来るらしい。
(えっと...やってもらえる?)
...要請確認。マテリアルの再構築を開始
左腰に無骨な鞘が形成される。角張った形状に、鯉口の下に引き金が付いた独特な形状だ。
(この造形にはどんな意図が?)
回答。現在の戦力大幅低下に伴い、改造を実施。
引き金を引く事で刀を射出。速度を加算した抜 刀が可能。
余計な機能まで付けられていたらしい。
いや、要らないんだけど...刀の使い方なんて分からないし。
...記憶領域における類似兵器の再現。
まあ、良いか。
それよりも
「ねえ、えっと...C-14-107?」
呼びかけると彼女は直ぐに応える。
「ああ、どうした?」
「あのさ、やっぱり呼びづらいから名前つけたいんだけど...良いかな?」
「別に構わないが...今の名前じゃダメか?」
「いや、それ名前とは言わないでしょ」
「そうか...これでも孤児院に来て貰った名前なんだが...」
「ごめん。もしかして特別な思い入れとかあった?」
彼女は慌てて否定する
「ああ、いや!その...もうこの名前で呼ばれ慣れてるってだけだ。何か別の名前を付けるのか?」
C-14-107。なんか捻って名前を出したいな。Cは論外として...14はロット番号?多分、姉妹で被るはず...107...イオナ。まあ、悪くないかな?
「イオナとか...どうかな?」
「私の107からか...まあ、悪くないな。Cとか14に関しては?」
「えっと、Cは分からないけど14ってロット番号でしょ?多分今から助けに行く子たちの中で被ったりするかなって...」
「ああ、そうか」
彼女は静かに笑い出す。
「ふっ...ふくくっ...君は優しいな」
だが、イオナの顔はわずかに曇る。
「まあ、その心配は無用だ。とにかく日が沈む前にまず移動するぞ」
だが、その顔を確認する間もなく頭部にバイザーが展開される。
勝手に飛び立った彼女を、スレイブモードのままな他の子達を引き連れ追いかける。




