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銑鉄のワルキューレ  作者: 駄作卍
14/15

零れ落ちるもの

目の前で女の子が泣いている。

「ーーー!ーーーーー!」

何を言っているのか全く聞こえない。

ただ、炎に照らされたその顔は悲痛に満ちていた。

あまりの悲痛さに手を伸ばそうとするが、身体は横たわったまま手に力が入らない。

「ーー!まだ、ーー!」

どうして泣いているの。あなたにそんな顔はしてほしく無いのに。

「ーーーでしょ!私にーーーを使わせて!」

ああ、きっとあなたは私のために。

でも、私は静かに目を閉じて首を横に振る。

それを見て、彼女は。ーーーは更に顔を歪める。

ああ、なんて温かい。なんて美しいのか。私なんかの為に泣いてくれるなんて。私がこの子を泣かせてしまうなんて。

あなたに武器を持たせてしまって、あなたに戦いを選ばせてしまって、あなたに戦いしか教えてあげられなくて。

本当にごめんなさい。

意識が遠のいていく。

「ーーー!ーーー!」

きっと最後まで私の名前を呼んでくれているのだろう。

ああ、私は...私は誰だっただろうか。



€‘*+’&権限

飛行システム:オーバーライド

魔刀『ーーー』:停止

武装展開術式:封印



白く染まる世界の中で、戻ってきた私はただ必死に刀を抜こうとする彼女を抑えながら、一つ一つ武装解除していく。


魔導炉:抑制シークエンス

概念剥離...


次第に彼女の身体から力が抜けていく。

「は...はは、やっとか。もう私は戦わなくて良いんだな...」

ついに、自力で立つことさえままならなくなり、ゆっくり支えながら地面に横たえる。

光を失い、ただの刀の形をした鉄塊となったそれを肩口から勢いよく引き抜き、近くに置いた。

エリニュスは言う。

「ねえ、ワルキューレを辞めて一緒に来るつもりは無い?

私、あなたが誰かは思い出せないけれど、知っている気がするの。」

彼女は弱々しく応える。

「ハッ。改心しなって?諦めな」


魔導路抑制から停止へ移行。

精算を開始します。


「え?」

勝手に指示した覚えのないコマンドが実行される。

彼女は腕の中でみるみると軽くなっていく。

「どれだけ戦い続けたと思ってる。もう、私の身体は空っぽさ。これ以上の奇跡なんて御免だね。」

まるでこうなる事を分かっていて、自ら死に行くセリフに呆気にとられていると、彼女は続ける。

「そんな顔するなよ。ただ人如きの寿命を遥かに超えた年月生きる中で年貢の納め時を見計ってただけさ。」

そんな生を諦めた物言いに、私は感情的になる。

「待って!あなたに生きてもらわないと私が困るの!

何か持ってるでしょ!再起動に必要な血とか!」

「何言ってんだ。やり合う前に割っちまっただろ。ようやく無期限の刑から釈放されるんだ。間違っても生贄で永らえさせようなんて考えるな」

そんな私にも関わらず、取り憑く島もない。

「ああ、ただ一つあんたに伝えたい忠告がある。所詮私は旧世代機のワルキューレだ。今は次世代型の奴らが頭張ってやがる。間違っても次は簡単に行くなんて思うな」

「辞めてよ遺言なんて!どうして...」

この子の事は何も知らないはずなのに、涙が溢れてくる。

「...547年と172日」

「え?」

「待っていた時間だよ。世界は、変わったんだ」

次第に呼吸が浅くなっていく。

力のない身体から、薄らと光が立ち昇っている

「変わらないのは...雨の冷たさと夕陽の緋さ、それに...」

言い淀んで言葉を呑んだ

「まあ、今の世界は...君の目で、確かめてくれ」

いつもいつも、私の救いたいものはいつだってこの手から零れ落ちる。私はただの一度も守れなかった。

「最後に、なるが...あの子達を、頼むよ...」

そう言って眠る様に目を閉じた。

身体が足元から解れる様に消えていく。

必死に抱き抱えて離さない様にするけれど、ただ最後に残ったのは見覚えのあるコアだった。



何かを思い出しそうで、思い出せない感覚。

そこの記憶が欠落しているという自覚。

どうして、あっさりと死を受け入れるのか。どうして、500年以上も私を待っていたのか。そもそも、名前が全く思い出せない事に違和感を感じながら、ただ遺されたコアを眺めていた。

そもそも初撃からして私を殺すつもりはなかった様に思う。ただ、それにしてはその後の態度との整合性が取れない。

思考の海を漂いながら、今後の方針を考えていた。

(彼女の最後の警告。多分、私はワルキューレでありながらも彼女らは友好的ではない。

その上、人間も私たちを敵対視している。

だが、彼女は私に引き篭もれとは言わなかった。むしろ世界を見ろと...きっと、何か理由があるはず。

そういえば、あの子達って)

そこまで考えて、他のワルキューレが居た事を思い出す。

コアは収納する事を考えたら手の中へ消えていった。だが、初めて取り込んだ時の様な感覚は無かったので、同化はしないのだろう。

ともかく慌てて彼女等のところへ戻ると、整列して直立したまま微動だにしていない。

改めて見ると無個性に見えた彼女らに髪型や年齢のバラけが見え、まるで独立した人間の様に思えた。

だが、目の前で手を振っても反応を示さない。

(スレイブモードだっけ...どうすれば良いの?)


回答。権限上書き中...

オーバーライド完了。スレイブモードからの切り替えを行いますか?


どうやら解除できるらしい。だが、先に確かめておくことがある。

(スレイブモードって何?)

記憶にある限りでは、武装の封印や身体拘束の他にこんな状態にする機能なんて無かったはずだ。


回答。コアユニットを通して逆説的に対象の意識及び無意識を抑制します。


なんか尋常ではなさそうな事だけは伝わった。

ともかく、解除できるならしてあげるべきだろうか?

脳裏に浮かぶ言葉をそのまま紡ぐ。

「...『金の針』」

すぐに、目の前の少女の焦点が合う。

目が合うや否や、彼女は大きく後ろに飛び退きながら、銃を展開して照準してくる。

呆気に取られて咄嗟に盾を展開して構えるが、上半分が斬り飛ばされたままで、顔のすぐ横を一条の光が奔る。

エリニュス髪を一房消し飛ばし、背後の空へ消えていった。

よく見れば彼女は酷く震えている。

いや、冷静になって周囲の惨状に目を向ければ腰を抜かして座り込む子、自らの喉を掻き切らんと刃を展開するもの、最初のこの様に武器を展開して油断無く私に警戒の視線を向ける者がいた。

(とりあえず...一回戻すか)

「ねえ、あな...」

「『銀の糸』」

ちょうど唱えると同時に目の前の子は喋ろうとしていた。

(あ...)

遮ってしまう形になってしまったが仕方ない。

それまで三々五々行動しようとしていた彼女たちは突然眠ったかの様に力を失った。

とりあえず、迂闊に解除できない事だけは学べたエリニュスは、彼女たちが座る様にと考える。すると、その通りにその場で座り込む。


さて、どうしようか。

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