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青い日々  作者: スイカ
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入学と邂逅~Spring~

どうやって高校生活を過ごそうか、ずっとそう考えていたら、周りの人たちが突然立ち上がった。慌てて合わせるとみんなで国歌を歌いだした。気がつくと無駄に長い校長講和は終わり、式も最後の国歌斉唱までになっていたのだ。歌い終わった後、退場が始まる。この式の終わりはそのまま高校生活の始まりを意味するのだ、新しい世界でやってみたいことがたくさんある。やれるだけ努力しよう、そう心に決めた。

 1年4組の教室には、喧騒が満ちていた。見たことない顔がたくさん・・というか誰も知っている人がいない、それはそうだろう、自身の中学からここに進学したのは自分だけなのだ。さて・・問題が起こった。

友達の作り方がわからない、去年までは・・いや元々友達なんていなかった。中学時代、生徒会長の権威をかさに着て好き放題やった結果、皆に嫌われたのだって結局自業自得であろう。ただ、それでも友達は欲しいし、彼女だってできるものなら欲しい。一人で思案にふけっているとガラガラと音を立て扉が開いた。そこから優し気な男の人が入ってきた。その人は教壇に立つ。チャイムが鳴り、みんなは席に着く。

「こんにちは、今日からあなた方の担任を努めます、松本です。それではホームルームを始めていきましょう 今日はとりあえず各委員を決めてしまいたいと思います。まずは、学級委員長をやりたい人、挙手をお願いします。」

 その瞬間少しざわざわしていた教室が、しんと静まり返る。俺はこの空気を知っている。みんな心の中で面倒ごとは避けたいと思い、他人が挙げてくれると期待しているのだ。ただ、この空気で手を自主的に挙げられる奴なんていない。そんなことしたら目立つに決まっているからだ。何歳になっても変わらないなと思った。小学、中学、高校と進学してきたがみんな考えることは一緒であることに、可笑しさすら覚える。

「やります、前からやってみたいと思っていたので」

「おお、やってくれるか、浅間。」

みんなの視線が集中する。無理もない、みんなにとっても顔なじみのないどこぞの出身かも知らない奴が突然立候補すれば、必要以上に注目を集めるだろう。見たことのない顔がたくさんこちらに向くがその感情だけはなんとなく分かった、面倒ごとを引き受けるもの好きがいてくれて助かったと安堵している。

「ええと、もう一人はだれがしますか?」

先生がそう言った直後再び沈黙が満ちた。そう、学級委員はもう一席ある。このまま誰も言わないままじゃんけんなどにもつれ込むんだろうなとなんとなく思っていた。しかし、その沈黙を破る声があった。

「私がやります。」

「おお!ありがとう桃原、じゃあこの二人で決まりだな」

先生が黒板に、浅間慶太と桃原白梅と名前を書いた直後。クラス中の男子が突然我先にと立候補しだした。まあ、もう決まったことが覆りはしないことはわかっているだろう、こいつらだってバカじゃない。

桃原さんの容姿は、モデルのようなものでクラスの男子にとってはヒロインのようなものなのだろう。

もっとも俺は、そうは思わないが。絶対何か裏があるに決まっている。まあどうせ、何もしないだろうし、一人で仕事できるようにプランを考えることにした。授業前に黒板消して挨拶するにはどれくらい時間的余裕を持って動くことが大切かなど。俺はこうやって一人でいろいろ考えて解決することが好きである。どっちかというと積極的に手伝われるほうが邪魔でイライラする。そんなことを考えていると先生からHRの進行を任された。教壇に立ち、委員を決めていく、桃原さんは名前を書きに来る男性陣とずっと話をしていて何もしなかった。非常に都合がいい。変に絡まれることも避けられるし、自分は好きなようにやれる。そうやって全て決め終わり、今日は解散となった。

 放課後、図書館にどんな本があるのか気になっていたので行くことにした。しかし教室から出る前に呼び止められた。桃原さんだった。俺はさっさと図書室に行きたかったので、わざとぶっきらぼうに返した。

「浅間君」

「何の用だ」

「あの、浅間君だよね?私桃原白梅っていうの、よろしくね」

「ああ、よろしく、じゃあまた明日」

 桃原さんは目を見開いて硬直した。そのすきに俺は教室を出た。この人とはあまりかかわりたくない、苦手なタイプだ。できるだけ必要最低限の会話をすることにしよう、半年我慢すれば相方はきっと別の人になるだろう、そのためにも必要以上に仲良くならないことだ。そのとき最近読んだラノベの主人公とヒロインの出会いのシーンに今の状況が似ていたなとふと思った。しかし、後ろの教室の入り口のほうを見て、誰も見えないことを確認して、軽く笑った。ここはただのつまらない現実で、小説みたいなことなんて起こりはしない、起こるとしても俺みたいな奇人にではなく、もっとイケメンで、人好き愛のいい奴に対してだろう。俺は再び図書室に向かって歩き出した。目的地に着くまで後ろを振り返ることはもうなかった。

 図書室には1人だけ人間がいた、俺はその人を知らない。そもそもクラスメイトですら顔がわかるだけなのだ、名前はわからない、ましてや他クラスのやつなど。その人が他クラスと分かったのは、クラスの中にそのような顔がなかったことを覚えているからだ。ただ彼女が読んでいる本の名前は知っている。

 『Books of laws(法の書)』

 20世紀を生きた思想家であるアレイスター・クロウリーが残した魔術書とされているものだ。俺もこの本がこの広い図書室の片隅にあることは知っていた、だが読む気にはなれなかった。魔術など、うさん臭いものに耳を貸すのも馬鹿らしいと思えたからだ。俺はさっさと自分の目当ての本を取って読み始めた。

 1時間ほど経過しただろうか、ふと顔を上げると目の前に彼女の顔があった。

「なにを読んでるの?」

 そう問いかけられてびっくりした、この人とかかわることなんてありえないそう考えて存在を忘れていたからである。ただ、無視するのも申し訳ないと思い答えた。

「Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)」

 そうとだけ答えた、邪魔されたことに対する当てつけとしてわざと流ちょうな感じに言ってやった。

案の定きょとんとしていた。その瞬間俺は自分が恥ずかしくなった。この人はただ本の題名を聞きに来ただけなのに、俺は何で意地悪をしているのかと思った。ばかげている。バツが悪くなりさっさと立ち上がって図書室を後にした、別に彼女は着いてくることはなかった。そら、まぁ、カッコつけのヤベェ奴に着いてくるやつなんているはずもないだろう。

 予定よりも早くなってしまったが帰路についた。さてどうしたものか、友達できなかったんだが。

俺、一応学級委員長だよな?人当たり悪すぎやろ。どうにもならない後悔にのたうち回る。もうすこし

頑張ることができていたら、図書室であった見ず知らずの人とぐらいは友達になれただろうし、もう一人の委員長(名前忘れた)とも仲良くなれたかもしれないというのに。朝の楽観はどこへやら、肩を落として夕暮れの街を歩いた。

 哀れな敗残兵は、無様に自宅に帰還した。肩を落として帰ってきた兄を見て妹が笑う 

「なんだよ」

「兄さん朝の威勢はどうしたのさ、そんな落ち武者みたいな顔して」

「まぁ、うまくはいかないなぁ」

 妹はそうだね、と肯定してから続ける。

「まぁ、兄さんならなんとかできるよ。だって私の兄さんだもの」

「理由になってねえぞ、まぁありがとな」

妹の頭の上に手を乗せ撫でてから部屋に向かう。

少し元気が出た。まぁ何とかなるだろう。

そう思って部屋の戸を閉じた。中からはまたあのゲームの音がし始めた。

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