赤ずきんがお弁当で狼を倒す話。
赤ずきんはおばあちゃんに届ける特製お弁当を、バスケットにいれて抱えて歩いていた。そのお弁当の中身は―― ママの特製シチューだ。
作りたて熱々でいい香りがただよっている。
「おばあちゃん、絶対喜ぶわ! ニンジン、玉ねぎ、じゃがいもがたっぷり入ってるし、隠し味のチョコレートも最高なのよね!」
おばあちゃんの家は草原の向こうで森の近く。赤ずきんの家からは徒歩30分といったところだ。
草原を行く途中、茂みから不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ぐへへへ……いい匂いがするなぁ。お嬢ちゃん、俺様は腹が減っているんだ。この意味、わかるよなぁ。へっへっへ」
現れたのは大きな狼だった。
「あなた、狼さんね! ママが言っていたわ。最近このあたりでお腹をすかせた狼さんが出るから気をつけなさいって」
赤ずきんは慌てるどころか、にっこりと微笑む。
「そんなにお腹が空いてるなら、このシチューを食べる? たくさんあるから少しわけてあげる」
「え、シチュー? いや、俺様が食べたいのは」
狼は戸惑った。悲鳴をあげると思っていたのに、予想に反して赤ずきんは、笑顔でお弁当を分けようと言い出した。
「ママのシチューは最高に美味しいの。どうぞ」
赤ずきんがシチューポット蓋を開け、湯気の立つシチューを差し出した。
濃厚な匂いが漂い、狼の鼻をくすぐる。
「ふむ。たまには生肉以外も悪くないかもしれん」
狼は警戒しながらも、シチューをひとくち――。
「ぎえええ! ぐほぅぁぁぁぁっ!」
食べた途端、狼が悲鳴をあげて倒れた。
「まぁ! そんなオーバーリアクションするくらい美味しかったの? 嬉しいわ。ママにも感想を伝えておくわね。バイバイ狼さん!」
赤ずきんはさっそうと歩き出す。
「ま、まてぇ……違う、そうじゃ、な……」
狼は口から泡を吹きながら気を失った。
チョコレートや玉ねぎは人間にとっては美味しい食品。
だがしかし、狼の体には猛毒なのだ。
狼は赤ずきんの後ろ姿を見送りながら、心の中で誓った。
「二度と人間に近づかない」と。
こうして赤ずきんは無事におばあちゃんの家にたどり着き、ママの特製シチューを振る舞い、二人で楽しい時間を過ごした。
この日以降、狼は人里に降りてくることはなくなったのだった。
おしまい