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第62話 決意

「っ!?」


 思わず大声を出しそうになった俺の口を慌ててティティが塞いだ。


「静かに! 黙ってついてきて。お母さまに会わせてあげるわ」


 俺は(うなず)いて立ち上がった。そして足音を立てないようにそっとティティの後ろについて歩き、庭へとやってきた。雪が降っていたはずなのにしっかりと雪かきがされており、ランプの(あか)りだけでも転ぶ心配はなさそうだ。



 そうして歩いていると、俺たちはなんと墓地にやってきていた。


 え? もしかして……?


「ここよ。ここがお母さまのお墓」


 そう言ってティティは寂しそうな表情を浮かべた。墓標にはマリア・マッツィアーノと刻まれている。


「そ、そんな……マリア先生……」


 ショックを受けて立ち尽くす俺を尻目に、ティティは墓標の前に(ひざまず)き、手を組んで祈りを捧げる。


 そうか。ティティはもう、一人だったのか……。


 マリア先生……。


 ぼんやりと墓標を眺めていると、ティティが立ち上がった。俺は入れ替わりで跪き、祈りを捧げる。


 なんと報告をすればいいのか分からなかったが、とりあえず自分が生きていることを伝え、育ててくれたこと、そして多くのことを教えてくれたことへの感謝を伝えた。


 そして目を開けると、タイミングを見計らっていたのか、ティティが話しかけてくる。


「今年の春ごろだったかしら? お父さまのご不興を買ってね。魔の森に一人で放り出されたわ」

「え? 魔の森って?」

「魔の森って言うのはね。この村を囲む森のことよ。強力なモンスターが大量に生息していて、その森が国境をまたいでずっと広がっているの」

「え? そんな場所に一人で?」

「そうよ。だからここに眠っているのはお母さまの髪の毛だけ。残りは多分、モンスターの胃袋の中ね」

「そんな……」


 ひどい。ひどすぎる。墓標にマッツィアーノと刻んであるのだから、マッツィアーノ公爵はティティを引き取ったときにマリア先生を妻として迎えたということのはずだ。それなのに!


「レイ、これがマッツィアーノなのよ」

「ティティ……だめだ。今すぐここから逃げよう。モンスターなら、モンスターだけなら俺が何とかするから!」


 するとティティはよくわからない複雑な表情を浮かべた。


「レイ、その申し出は嬉しいけれど、そんなことをしたらレイは殺されるわ。マッツィアーノはこの瞳を持つ私を絶対に手放さない。だからレイ、私のことは忘れてちょうだい。一人で逃げるのよ」

「そんな! 俺はティティを!」

「あなたが生きていてくれた。私はそれだけで十分よ。あなたまで失うなんて耐えられないわ!」

「ティティ……」


 再会してから初めて見るティティの感情的な様子に俺は言葉を失う。


「いい? 明日、私はあなたと一緒に森に入るわ」

「え? それは、どういう……?」


 ティティの言葉の意味がさっぱりわからない。


「いい? お父さまにはね――」


 ティティは計画の詳細を教えてくれた。


 そんな! まさかそんなことが!


「私はほとんど魔力がないの。だからね。従えられたのはこの子たちだけ」


 ティティがそう言って腕を右から左にスッと振ると、どこからともなく三羽の赤い目をしたカラスが現れた。


「ダーククロウ……?」

「そうよ。だから森の中でモンスターに襲われないのは私がいるからじゃなくて、お父さまがそう指示しているからよ。だから、途中でモンスターはあなたを襲うわ」

「……」

「明日はこの子たちがあなたをモンスターの少ないところに案内するわ。だからあなただけでも逃げてちょうだい」


 ……ティティをこんな地獄に一人置き去りにして、俺だけ逃げる?


「分かったわね?」


 ティティが念を押してきた。その表情からは切実さが伝わってきて……。


 俺は、俺は――


「嫌だ」


 俺の返事にティティは泣きそうな表情を見せる。


「ど、どうしてよ! なら私を連れて行くっていうの?」

「ああ、そうだ。そんな表情をしているティティを置いて行けるわけないじゃないか」

「でも! 私はマッツィアーノなのよ? この瞳を持つ限り、殺されることはないわ」

「でも、ティティの心は殺される。それにあのロザリナとかいう女が後継者になったら――」

「そんなことは絶対にないわ。ロザリナお姉さまの継承順位は第四位よ。魔力量から考えても、従えてるモンスターを考えても、後継者はほぼ間違いなくサンドロお兄さまよ」

「……じゃあ、そのままそいつの妾になるっていうのか? ティティはそれでいいのか?」


 するとティティは下唇を()み、黙って(うつむ)いた。


「俺は嫌だ。孤児院が襲撃されたあの日以来、ずっとティティを助けることを目標にして生きてきたんだ」

「でも! その結果、あなたはマッツィアーノにペットとして連れてこられたじゃない。たまたま私のところに来たから助けてあげられた。でも次は絶対にないわ! あなた一人でどうやってマッツィアーノが従えたモンスターから逃げられるて言うの?」

「俺にだって魔法がある。あれから覚えたんだ」


 そう言ってティティの手を握り、ヒールを掛けた。


「え? これって……」


 ティティは困惑している様子だ。


「光属性魔法。人間を攻撃することはできないけど、ほとんどのモンスターは一撃だ。だからモンスターならなんとかなる」

「でも……」


 信じきれないのか、ティティはなおも渋っている。


「わかった。じゃあ、森でモンスターに襲われたとき、俺がすべて倒せたら俺と一緒に逃げよう。それならいいでしょ?」

「でもそれじゃあ……」

「大丈夫。俺を信じて」

「……」


 ティティは悩んだ様子だったが、やがて小さく頷いてくれたのだった。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。本話より、なろう版とカクヨム版で別々のストーリーに分岐します。カクヨム版ではマリア先生が生存している世界線でのお話となりますので、もしよろしければ、そちらもお読みいただき、応援いただけますと幸いです。


↓↓↓カクヨム版はこちら↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667791642533


 また、同時へ移行での連載となりますので、なろう版は更新のペースを落とさせていただき、毎週土日の 18:00 とさせていただきます。


 つきましては次回の更新予定は 2024/01/20 (土) 18:00 となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 複数の世界戦を同時に書くのは大変だと思いますが応援してます! カクヨムの方も読みに行きますかね
[一言] 毎日更新と土日だと話の進み具合が大きく変わりますね どうなるのか楽しみにしています
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