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第54話 ペット

 地下牢から上がってきたセレスティアが廊下を歩いていると、彼女の向かう先からクルデルタが歩いてきた。するとセレスティアはスカートの裾をつまみ、優雅にカーテシーをする。


「お父さま、ごきげんよう」

「セレスティアか。初めてのペットはどうだ?」

「ええ、とても気に入りました。早く可愛い服を着せて、庭を散歩させてみたいです」


 そう言ってセレスティアは嬉しそうに微笑んだ。その姿はまるで父親に子犬を与えられ、無邪気に喜ぶ少女のようだ。


「そうか。名前は付つけたのか?」

「名前ですか? そうですね。考えてもみませんでした。でも、名前を付けるのもいいかもしれませんね」


 セレスティアは少し考えるような仕草をする。


「ああ、でも凝った名前にしても仕方ありませんし、あれの名前はイヌにします」


 するとクルデルタはニヤリと笑った。


「イヌか。いい名前じゃないか。お前はどんどん立派に成長しているな」

「ありがとうございます。世界で一番尊敬するお父さまに少しでも近づけるよう、日々努力していますから」


 その言葉にクルデルタは満更でもない表情を浮かべる。


「それで、どうやって殺すつもりだ?」

「まだ特には考えていませんが、できるだけ面白い感じにできたらと思っています」


 するとクルデルタはニタリと邪悪な笑みを浮かべる。


「ククク、そうかそうか。ならば、一つアドバイスをしてやろう」

「ありがとうございます」

「いいか? ペットはな。殺す前までお前に依存させておくといい」

「依存、ですか?」

「ああ、そうだ。お前にやったペットはオスのガキだったろう? だからお前の顔と体で誘惑してやれ。そして手に入れられそうな一歩手前で引くんだ。そうやって勘違いさせ、お前しか見えないようにさせてからお前の手で殺すんだ。そのときの表情は最高だぞ?」


 クルデルタの悪魔のような提案にセレスティアは一瞬考え込むような仕草をしたが、すぐにニタァと邪悪な笑みを浮かべた。二人は顔立ちこそまるで似ていないものの、その邪悪な笑みはまさに親子と呼ぶに相応しいほどそっくりだ。


「それは面白そうですね。さすがお父様です。勉強になりました」

「ああ。どんな殺し方をするのか、期待しているぞ」

「はい。ぜひご期待ください」


 クルデルタは満足げな表情で頷くと、セレスティアに行っていいと顎で合図をした。するとセレスティアはスカートの裾をつまんでちょこんと一礼し、向かっていた方向に歩き出す。


 その後ろ姿を見送ったクルデルタは再び邪悪な笑みを浮かべ、小さな声で(つぶや)く。


「ククク、お前の顔には使い道があるからな。せいぜい励めよ」


◆◇◆


 日が傾き、マッツィアーノ公爵邸は夕暮れ時を迎えていた。セレスティアは自室のバルコニーに(しつら)えた椅子に座って茜色に染まる景色を眺めており、彼女の正面のテーブルの上では三羽の赤い目をしたカラスが羽を休めている。


 カラスたちはよく慣れているようで、セレスティアを警戒する素振りはまったく見せていない。


 夕焼けで茜色に染まった絶世の美少女と三羽のカラス。


 まるで絵画のような光景だが、すぐにバルコニーの扉がノックされることで情景に変化が生じる。


「入りなさい」

「お嬢様、失礼いたします」


 バルコニーの扉が開き、ワゴンを押しながらテレーゼが入ってきた。ワゴンの上には銀のクローシュを被せられたお盆が載せられている。


「テレーゼ、どうだったかしら?」

「はい。伝達を行った見習いの雑用係が、ロザリナお嬢様の命令で医者を呼ぶのを妨害していました」

「そう。それで?」

「処分し、ファウスト坊ちゃまに引き渡しておきました」

「そう」


 セレスティアは無表情のまま、興味なさげな様子で短く相槌(あいづち)を打った。


「こちらはファウスト坊ちゃまからでございます」


 テレーゼはそう言ってワゴンの上のお盆を持ち上げ、床に置いた。そしてクローシュを外す。


 するとそこには拳大の生肉が三つ、盛り付けられていた。


「お前たち、食べなさい」


 セレスティアが無表情のままそう命ずると、三羽のカラスたちは一斉にその生肉を(ついば)み始めるのだった。


◆◇◆


 翌日の早朝、レクスの監禁されている地下牢にセレスティアの姿があった。だがレクスは熟睡しているようで、セレスティアがやってきたことに気付いていない様子だ。


「もう。せっかく私が来てあげたのに、寝ているなんてダメね」


 セレスティアは小声でそう呟きながら、柔らかい表情でレクスの髪を慈しむように優しく撫でる。


「あら? かなり治っているわね。どういうことかしら? ポーションなんて使っていないはずよね?」


 怪訝そうにそう呟いたが、相変わらずレクスの髪を撫で続けている。


「ああ、でも、お父さまが頑丈だって言っていたわね。だから生きていたのかしら?」


 セレスティアはクスリと笑うと、愛おしそうにレクスの額に小さくキスをした。それから何かを呟いたのか、唇がかすかに動いた。


「ねえ? レイ? そうよね?」


 そう言うと、セレスティアはニタリと邪悪な笑みを浮かべた。しかしすぐに無表情となって立ち上がり、まるでそれを待っていたかのように外からテレーゼの声が聞こえてくる。


「お嬢様、そろそろ朝食のお時間でございます」

「ええ、今行くわ」


 セレスティアは無表情のまま返事をすると、そのままレクスに背を向けて歩きだすのだった。

 次回更新は通常どおり、2024/01/09 (火) 18:00 を予定しております。

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