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第41話 依頼の真相

「だがあっちの馬車は空っぽだったじゃねぇか」

「まあ、馬車はあっちにもあるしな」

「そうだな。でもその前にあのテントの中も調べようぜ」


 二人の男はそんな会話をしながらこちらへと近付いてくる。


 テオのほうをちらりと見ると、テオは強張った表情で全神経を外に向けていた。


 そうだ。俺も俺の役割をきちんと果たさないと!


 会話の様子からして、敵は二人だ。ならば先手を取り、一人を倒す。体格で劣る俺たちが生き残るにはそれしかない。


 となると!


 俺は中腰になり、剣を腰だめに構える。そして体内の魔力を練り上げ……。


「さぁて、なんかあるかな?」


 テントの入口が開けられた瞬間、そこに向かって俺は体ごと剣を突き立てる!


 ガキン!


 だが俺の剣は金属音と共に、硬いなにかに受け止められてしまった。


「うおっ!? このクソガ――」


 次の瞬間、剣にエンチャントしてあった【雷属性魔法】のボルトが発動する。


 バチン! という激しい音と共に男はそのまま崩れ落ちた。


 バチン! バチン!


 男が崩れ落ちるのとほぼ同時にボルトが二回連鎖した。


 連鎖というのは【雷属性魔法】の特性で、魔法が命中したときに近くにいる敵に連鎖して少し威力の落ちた同じ魔法が発動するというものだ。


 そのままテントの外に出て確認すると、三人の盗賊が雪の上で倒れていた。意識はあるようだが、痺れて動けなくなっている。


 これはきっと【雷属性魔法】の追加効果に違いない。


 ブラウエルデ・クロニクルにおいて【雷属性魔法】には、耐性のない相手に確定で短時間の行動不能(スタン)を与えるという追加効果があった。そしてこれこそが、俺が【雷属性魔法】を選んでいた理由だ。MP効率はとんでもなく悪いが、どんな盤面も一人でひっくり返せるだけのロマンがある。


 まあ、MP効率が悪いだけあって俺の魔力はあの一撃だけで尽きかけているわけだが……。


 とはいえ、今はそんな感傷に浸るよりもやるべきことがある。


 俺は痺れている盗賊たちに近付き、手足を斬って動けないようにした。


 本来盗賊というのは見かけた時点で殺しておくべき存在だ。生かしておいても真っ当に生きている他の人の害になるだけで、何一ついいことはない。


 だが、こいつらは先ほどおかしなことを言っていた。だから話を聞きだすまで殺さないほうがいいだろう。


 周囲の状況を確認しようと見回すと、テントの向こう側からテオの声が聞こえてきた。


「よーし! やったぞ! どうだ! ざまあみろ!」

「テオ?」

「レクス! 無事か!?」

「ああ、なんとか。お前は?」

「俺も大丈夫だ! 盗賊を仕留めたぞ!」


 どうやらテオのほうにも盗賊が一人回っていたらしいが、テオもうまくやったようだ。


「他に盗賊は?」

「こっちにはいない。そっちはどうだ?」

「こっちもいないぞ」

「そうか。それにしても、ケヴィンさんたちはどうしたんだろうな?」

「だよなぁ。商隊の護衛が依頼のはずなのに、なんで馬車を置いて森の中に?」

「さぁ……」


 俺たちは二人で首を(ひね)る。


 それからしばらく周囲を警戒していると、森の中から大勢の人がこちらへ向かってくる気配がある。


 ……盗賊か?


 俺たちはさっとテントの陰に隠れ、再び奇襲の準備を整える。倒れている盗賊に気を取られたところをブスリとやる算段だ。


 緊張しながら隠れていると、なんとケヴィンさんたちが見知らぬ大勢の兵士たちと一緒に森から出てきたではないか!


「えっ!? 何それ? どういうこと?」

「お! 坊主! なんでテントから出てるんだ? って、うおっ!? 別働隊がいやがったのか」

「えっ? 別働隊!? レクスくん! テオくん! 怪我はない!?」


 ニーナさんが一団の中から走り出て、大慌てで近寄ってきた。


「はい。大丈夫です」

「テオくんは?」

「大丈夫です。俺、ちゃんと盗賊、やりましたよ!」

「……うん。そう。偉いわ。よく頑張ったわね」


 ニーナさんはそう言うとテオに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。それからすぐに俺のことも抱きしめてくれる。


「それでニーナさん、これは一体どういうことですか?」

「それはね……」

「いやあ、すまないね。俺から説明しよう」


 そう言って近付いてきたのはラニエロさんだ。


「実はね。この商隊そのものが囮だったんだよ」

「はい? 囮?」

「そう。コーザ男爵閣下はピエンテ公爵閣下に毎年一月に贈り物を送っているんだけど、今年はそれを狙った盗賊がいるっていう情報があったんだ」

「え? じゃあまさか俺たちに依頼をしたのって……」

「そう。わざと情報が広まるように冒険者ギルドでクランを護衛につけて、騎士を荷物として乗せた商隊の護衛をさせたんだ」

「じゃあ、進みが遅いのも度々トラブルを起こしたのも?」

「全部わざとだよ。君たちには伝えていなかったからだいぶやきもきしただろうけどね」

「……じゃあ、わざわざ盗賊を生け捕りにする必要も?」

「え? 生け捕り? 必要ないよ。狙いは知っていたからね。あ! もしかしてそこで手足から血を流している三匹のことかい?」

「はい。何かを探しているみたいだったんで殺さなかったんですけど……」

「おお! すごいね。君! さすがクランがスカウトするだけはあるね。そっちの子も一匹殺してるのか。いやぁ、やっぱりクランが目をつける子供は違うなぁ」


 ラニエロさんは感心しているが、なんとも複雑な気分だ。


「ま、生かしておいても仕方ないし、処分しておこうか」


 ラニエロさんがそう言うと、近くにいた兵士たちが動けない盗賊三人の首に剣を突き立てたのだった。

次回更新は通常どおり、2023/12/27 (水) 18:00 を予定しております

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― 新着の感想 ―
[一言] 黙ってやるのは詐欺だよな。 男爵の評判が悪化するで。
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