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転生孤児が幼馴染の死亡エンドを回避する方法  作者: 一色孝太郎


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第38話 マッツィアーノ公爵家での日々(6)

 私がセレスティア・ディ・マッツィアーノとなって最初の年末がやってきた。もう侍女たちに(かしず)かれることは当然のこととなり、ミスをした者を罰することにも慣れてきた。


 きっと、本物のマッツィアーノに少しずつ近づけてきたということだろう。


「テレーゼ、今日の予定は?」

「はい。教養の授業はすべて終わりましたので、ご褒美として午前中はご当主様が直々に特別授業をなさってくださいます。午後はダンスの予定となっています」

「特別授業?」

「はい。もし特別授業でご当主様のお目にかなった場合、マリア奥様にお会いになれるとのことです」

「そう。わかったわ」


 私は平静を装い、興味がないように素っ気ない返事をした。


「ご当主様より動きやすい服装で来るようにと仰せつかっております。急ぎ、支度いたしましょう」

「ええ」


 短くそう答えると、テレーゼは私の着替えを手伝い始める。そうしてぴっちりしたくるぶしまで覆うズボンのようなボトムスとその上から膝丈のスカートを履き、屋敷の地下にやってきた。


「お父さま、ごきげんよう」


 私はすぐにカーテシーをした。


「ああ、セレスティア。よく来たな。成人までに学ぶすべての教養の授業を終えたそうだな。さすがは俺の娘だ」

「ありがとうございます。すべては尊敬するお父さまのおかげです」


 するとお父さまは満更でもない表情を浮かべる。


「今日はそんな優秀なお前が一日も早く大人になれるように訓練してやる」

「お父さまに直接教え授けていただけるなんて、光栄です」

「ああ。ついてこい」

「はい」


 私はお父さまの後を追いかけ、ランプの明かりしかない薄暗い地下通路を歩いて行く。


「着いたぞ。さあ、入れ」

「はい」


 そうして入った部屋の中には鎖で壁に繋がれ、動けないように拘束されている五人の男がいた。


 あいつらは!


「どうだ? 覚えているか? こいつらを」

「……はい」


 忘れもしない! あいつらは私の暮らしていた孤児院を襲撃し、レイたちを殺して放火した殺人鬼たちだ。


「憎いか?」

「はい」


 務めて冷静にしていたつもりだったが、きっと表情には出てしまっているのだろう。お父さまは私の顔を見てニヤリと笑う。


「そうか。だが顔に出るようではまだまだだな」

「……申し訳ありません。精進します」


 するとお父さまはじっと私の顔を見てくる。


「次はない。いいな?」

「はい」


 お父さまは満足げに(うなず)く。


「では授業をしてやろう。あの五人は罪人だ。なぜかわかるな?」


 本来であればレイたちを殺し、孤児院に火を放ったことだと答えたいところだが、本物のマッツィアーノにとっては別の答えが正解だ。


「はい。マッツィアーノである私の体を許可なく触り、無理やり運びました。これは死をもって償うべき罪です」


 お父さまは再び満足げに頷いた。


「いいだろう。ではセレスティア・ディ・マッツィアーノ、マッツィアーノ公爵家が当主クルデルタの名において、あの罪人どもを処刑することを命じる」

「……はい。謹んで拝命します」


 ドキリと心臓が跳ねたが、私はなんとかそれを押し殺してお父さまに頭を下げた。するとお父さまはニタリと笑みを浮かべる。


「殺しは初めてだったな?」

「はい」

「ならば俺が手本を見せてやる。来い」

「はい」


 私はお父さまの後を追い、右端に繋がれている男の前にやってきた。猿ぐつわをかまされた男が目を見開きながら命乞いをしてくるが、お父さまはそんなことなどまるで気にしていない。


「いいか? マッツィアーノに無礼を働いた者はできるだけ苦しませて殺すんだ」


 そう言ってお父さまは男の太ももにナイフを突き立てた。男は苦しそうなうめき声を上げ、顔を(ゆが)める。


「さあ、マッツィアーノに働いた無礼を詫びながら地獄に行け」


 お父さまはそれから何度も何度も言葉で男をなじりながらナイフを体のあちこちに突き立てていく。


 やがて、男はぐったりとなった。


「セレスティア、見ていたな?」

「はい」

「これがナイフしかない場合のやり方の一つだ。今後は試行錯誤し、よりお前らしいやり方を見つけろ」

「わかりました」


 するとお父さまは再び満足げな表情を浮かべた。


「では最後にマッツィアーノらしいやり方を見せてやる」

「マッツィアーノらしいやり方、ですか?」

「ああ」


 そう言うとお父さまは手を振り上げた。するとすぐに部屋の扉が開き、炎の塊が入ってくる。


 え? あれは……。


「炎の、鳥ですか?」

「こいつはファイアイーグルという珍しいモンスターだ。最後はモンスターに処刑をさせる。これこそがマッツィアーノにのみ許された特権だ」

「そうですね。とてもマッツィアーノらしいと思います」

「そうだろう? ファイアイーグル、この男の体を少しずつ燃やして殺せ」

「んんんー!」


 お父さまの命令に男は再びくぐもった声を上げた。だがファイアイーグルはすぐに男のつま先に火をつけた。


「んんんー! んんー!」


 男は暴れるものの拘束を解くことができず、徐々に炎は全身へと回っていく。


 いつの間にかくぐもったうめき声は聞こえなくなり……やがて炎が消えるとそこに残っているのはただの炭の塊だった。


「さあ、セレスティア。残る四人を処刑して見ろ」

「……はい」


 お父さまに手渡されたナイフを手に、隣に繋がれた男の前に立つ。


「んんっ! んんんっ!」


 男は(すが)るような目で必死に私に何かを訴えかけてくる。


 ……こいつらは罪人だ。レイたちを殺し、マッツィアーノである私の体に許可なく触れて不快な思いをさせた死んで当然のやつなのだ。


 私はナイフを振り上げ、男の体に突き立てる!


 お前が! お前たちさえ来なければ!


「いいぞ。その調子だ。マッツィアーノらしくなってきたじゃないか」


 私はお父さまに褒められ、何度も何度も男にナイフを突き立てる。


 そうして私は四人の憎い男を地獄に送りつけてやった。


 これで少しは気分が晴れるかと思ったが、私の心を満たしたのは虚しさだけだった。


 ああ、そうか。私は……。


「お父さま、今日はご指導いただきありがとうございました」


 今の私はきっと無表情なはずだ。


「ああ、見どころがあるぞ。さすがは俺の娘だ」


 私は満足げなお父さまに向かってニッコリと微笑む。


「ありがとうございます。私はお父さまの娘、セレスティア・ディ・マッツィアーノですから、常にお父さまを手本とし、今後とも精進してまいります」

「ああ。期待しているぞ」


 お父さまはそう言うと、私に背を向けて立ち去るのだった。

 次回更新は通常どおり、2023/12/24 (日) 18:00 を予定しております。

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