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第13話 出発準備

 冒険者登録から数日後、俺は黒狼の(あぎと)の討伐に同行することとなった。ついに冒険者としての初仕事だ。


 え? ニーナさんと部屋に行ってからどうなったかって?


 いや、特に何もなかったぞ。ニーナさんは俺のことを完全に子供扱いしているのだし、俺のほうもなんとも思っていないのだ。そもそも何かが起きようはずもない。


 やたらと過保護で、着替えの手伝いをしようとしてきたり、子守唄を歌って寝かしつけてきたりすることに目を(つぶ)れば、部屋は広いしベッドもふかふかだし、孤児院とは比べ物にならないほど快適だ。


 そんな話はさておき、今回の仕事について説明しよう。目的地は北の森で、討伐対象は最近数が増えているという狼型のモンスターだ。


 ブラウエルデ・クロニクルにおいて狼型のモンスターは数多くいるが、無限湧きするフィールドモンスターだとフォレストウルフ、ディノウルフ、ブラックウルフやシルバーウルフなんかの色の名前がついたウルフ種あたりがぱっと思いつく。


 この中だとフォレストウルフが一番弱いので、できればフォレストウルフだとありがたい。まあ、弱いと言ってもレベル1の初心者はなすすべなくやられる相手なのでどうこう言える立場ではないのだが……。


 さて、今回の俺の仕事はズバリ! 荷物持ちだ。ニーナさんに習った剣で大活躍、となればカッコいいわけだが、どうやら黒狼の顎の人たちは俺たちを戦わせるつもりはないらしい。


 早く昇格したいという気持ちはもちろんある。だがきっとこれは子供である俺を大事にしてくれているということなのだろう。無理をせず、一つ一つ経験を積ませてもらえるというのは本当にありがたい。


 それに一見地味かもしれないが、荷物持ちだって大切な仕事だ。荷物持ちが食料などの必需品を運んでいるからこそ、戦闘に参加するメンバーはより良いコンディションで戦えるのだ。


 つまり、荷物持ちだって責任重大なのだ。そんな荷物持ちが忘れ物をするなど許されるはずもない。


 そう考え、出発前に部屋で忘れ物がないか最終確認をしていると、テオがしたり顔で声をかけてきた。


 ちなみに俺とニーナさんの部屋にテオがいる理由は、テオも荷物持ちだからだ。俺とニーナさんの部屋はスペースが余っているうえに他の宿泊者はいないため、黒狼の顎の荷物置き場としても使わせてもらっている。


「おい! まだ終わってないのか? 早くしろよ」

「今忘れ物がないか確認してるんだ。ちょっと待ってくれ」

「はっ! こののろまが!」

「しょうがないだろ。初仕事なんだから」


 そんなやり取りをしているとレザーアーマーを着て、すっかり身支度を終えたニーナさんが戻ってきた。


「どう? 準備はできた?」

「今、最終確認させてます!」

「は?」


 いい恰好をしたいのかテオがそんなことを言い始めたが、ニーナさんはテオのその言葉に眉をひそめた。


「テオくん? どうしてテオくんは一緒に確認してないのかな?」

「え? そ、それは……」

「いい? もし大事なものを忘れたら、最悪取りに戻らなきゃいけないんだよ?」

「で、でも、こいつは新入りで……」

「新入り?」

「あ、その……」

「あのねぇ。テオくんはたしかにレクスくんよりもちょっと早く私たちのところに来たわ。でもね? それはあくまで新人冒険者の研修として来たわけで、黒狼の顎の正式なメンバーになったわけじゃないでしょ?」

「う……それは……」

「いい? テオくんはまだ新人冒険者の一人。レクスくんと同じ立場なの。だからテオくんだってちゃんと基礎を学んで、しっかり成長してほしいの。だから、ちゃんと二人で点検して、忘れ物がないようにして」

「はい……」


 ニーナさんに叱られ、テオはしょんぼりとなった。


「あの、終わりました。忘れ物はないです」

「本当に?」

「はい。指示されたものは全部チェックリストを作っておいたんで」

「え? どういうこと?」

「これです」


 チェックをつけた一覧表の紙を手渡した。


「何これ! すごいわ! 自分で考えたの?」

「はい。忘れ物しちゃいけないと思ったので」

「んん~! 偉いわねぇ。それに字もちゃんと書けるのねぇ」


 ニーナさんは目じりを下げ、優しい表情でそう言うと俺の頭を()でてきた。


 完全な子供扱いだが、もう慣れてしまってなんとも思わなくなってきた。そもそもニーナさんは十九歳だそうなので、そんなニーナさんからしてみれば十歳の俺はたしかに子供だろう。


「これなら大丈夫そうね。じゃあ二人とも荷物を持って。出発しましょ」

「はい」

「……はい」


 テオは悔しそうにしているが、自業自得だ。俺はなんとも思っていないので、できれば俺を目の敵にしないでほしいのだが……。


 しかしそんな俺の願いも虚しくテオは俺のことをキッと睨みつけ、それから無造作に片方のリュックを背負った。


 あ……そっちは中に予備の水が……。


「うっ……」


 テオは予想外の重さに顔をしかめた。テオが俺に向かって何かをしゃべろうとするが、ニーナさんがもう一度出発を促してきた。


「さ! 行くよ! テオくん! レクスくんも」

「はい」


 こうして俺は重たい荷物を背負い、荷物持ちとしての初仕事に向かうのだった。

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