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ある休日の午後。高級デパートが立ち並ぶ大通りの広い歩道で、場違いにプロ仕様の大きなハンディカメラを回すカメラマンと、マイクを持ったインタビュアーが街行く人々に次々と声をかけていた。
急いでいるからと断られたり、聞いたことのないテレビ番組だと一蹴されることもあったが、何とかインタビューを受けてくれる人に出会うことが出来たようだ。
インタビュアーの
「今、時間ありますか?」
という問いに、
「あります。」
と答えると、
「では、こちらへ。」
と歩道の端に導かれ、無造作に置いてあった電子ピアノを前に、椅子に座るように促された。
普段なら、キッチンカーなどの出店が出ているであろうスペースを間借りしているのだろうか、不自然に置かれた電子ピアノ。
弾き語りのストリートミュージシャンが演奏しそうな呈の簡易的なものであった。
声をかけられた女性が椅子に座ると、すかさず、
「ピアノのご経験はおありで?」
と聞かれていた。
・・・
「プロのピアニストが素人(経験者問わず)を1ヶ月指導して、クラシック曲を弾かせる。」
そんな企画を面白半分に提案したところ、通ってしまった制作会社のプロデューサーは悩んでいた。
ふと、駅ピアノやら街ピアノがブームとなっていると聞いて考案した企画なのだが、はっきり言って音楽に関してはずぶの素人。何から始めていいかも分からないまま、とにかく人を集めなくてはと、街に繰り出したのである。
その上、この番組で、懇意にしている芸能事務所から無理難題を送りつけられているのだから、さあ大変。
決まってしまった企画を疎かにすることはできず、夜の30分番組×4回放送が確定してしまったので、出来る限り仕事を進めることにした。
・・・
子どもの頃にピアノを習ったことのある人は多いと聞く。習い事が当たり前となっている昨今においては、感性豊かな子どもを育てるためにと、ほとんどの子どもたちがピアノを習う機会に恵まれているかもしれない。
自分の同世代はどうだったろうかと、周りに子どもの頃の習い事をきくと、水泳とピアノが二強だった。
習う機会が多い一方で、自分には合わないとやめる人も多いと聞く。繰り返しの練習が必須の世界。
テレビゲームをはじめ、誘惑の多い子どもの世界において、地味に何度も同じことを繰り返すという練習に、魅力を感じる子はそう多くはないであろう。結果、一曲を仕上げる達成感は軽視され、飽きる前にと次から次へと新しい課題が追加され、楽しいものではなくなっているのかもしれない。
それに、たくさんのことを学び、身につけていく必要があるこの時期に、一つのことに固執して後々取り返しのつかないことになっては大変だと、才能の開花を求め、よりたくさんの習い事に通わせたがる親と、これは合わないとの親の判定をうのみにして自分の才能を探し続ける子ども。結果、ほとんどの習い事を、「合わない。」という一言によって、やめてしまう状況らしい。
習い事ひとつにしても、世知辛い世の中である。
子どもが習い事をやめてしまう原因の一つに、先駆者である先生の責任もあると思うが、話がそれてしまうのでここでは割愛する。
・・・
今回の番組制作の主な目的には、もう一度、ピアノに興味をもってもらい、演奏者人口や演奏会の観覧人口を増やすこともある。その趣旨に賛同いただいた楽器メーカーやイベント会社、チケット販売会社などがスポンサーに名乗り出てくれた。
今でも、人気演奏者の公演は、クラシックジャンルであっても販売開始とともに即完売となるが、全ての演奏者の公演がそうなるかというと、程遠い現状がある。しかも、今現在、こういった娯楽に余裕をもって予算を注ぎ込めるのは定年後の世代で、もっと若者に興味をもってもらいたい、未来のファンを増やしたいというクラシック業界の思惑とはかけ離れていた。
そういった訳で、街角インタビューは、若者をターゲットに行われていた。