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悪霊探偵  作者: エビス
導入
5/21

事務所

「ここね」


スマホの地図アプリを頼りに、チラシにあった住所の場所までやってきた。

駅から少し離れたビル街、そこにある一棟のテナントビルだ。


看板を確認すると、一階は喫茶店、二階に出雲探偵事務所とあった。

三階より上は何も看板がない。入っている店舗がないのだろう。


ひとしきり看板を確認すると階段を上がり、二階へと進む。

受付のようなものはなくそのまま事務所の扉の前まで行くことができた。


ガラス製の不透明な扉で、脇に『出雲探偵事務所』と小さなプレートが貼ってある。


少しだけ様子を伺ってみるが、ガラスが不透明なせいで中はまったく見えない。


「ふぅー・・・」


いざとなるとかなり緊張してきた。

なんせ探偵に依頼するなんて初めての経験だ。


足が震えるし、喉も乾いた。

でもここまで来て帰る気はない。


必ず夏海を見つける、そのために来たのだから。


「すーはー・・・ よし!」


深呼吸して気合いを入れると事務所の扉をノックする。


すると・・・


「ひゃあっ!」


中で女性のものと思われる悲鳴と何かが崩れるような音がした。


「えっ?」


(な、なに・・・?)


私が困惑していると事務所の中から「少々お待ちくださーい!」という女性の声が聞こえ、その後、ドタンバタンと色んなものをひっくり返すような音が聞こえる。


そしてその音が止み、暫くすると扉が開かれる。

出てきたのは事務服を着たセミロングの若い女性だった。

彼女は扉の前に居た私を見るなり口を開く。


「お待たせ致しましたぁ! ご用でしょうか!」


「あっ、えっと、人探しの依頼をしたくて・・・ このチラシを見て来たんですけど・・・」


そう言ってポシェットからチラシを取り出す。

すると事務服姿の女性はそれを見るなり驚愕した声を上げた。


「ほえっ! まさかあの事務連絡みたいなチラシで依頼者がくるとは!」


(自覚はあったのね・・・)


まぁ確かに、人の興味を引くチラシとは思えない。

事務連絡という言い方も的を得ていると思う。


でも、私にはそれがシンプルが故の誠実さにも感じられたのだ。


だから、


「あの依頼を・・・ せめて話だけでも・・・」


「申し訳ありません! 中へどうぞ!」


事務服の女性は謝ると私を中へと通してくれる。


入ってみての第一印象は、思っていたより全体的に明るいな、だった。

壁紙は真っ白だし、観葉植物も置かれていてチラシからイメージしていた無機質な感じはしない。


内部は主に2つに分かれていて、向かい合わせの事務机が二組に、それから少し離れて、全体を見渡すような位置にちょっと立派な机があるスペース、多分、勤務している人達用の机だ。


そしてもう1つは仕切り板で簡易的に仕切られたスペース、こっちは応接用なのだろう。


「こちらへ」


案の定、仕切り板の内側に通されてそこにあった椅子に座るよう促される。


そして事務服姿の女性は私を案内すると麦茶と羊羹を出してくれた。


彼女も私の対面の椅子に腰かけて言う。


「自己紹介がまだでしたね。 受付兼事務員の氷沢(ひさわ)と申します。 ただいま所員は依頼で留守にしてまして、私がお話を伺いますがよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


私が了承すると氷沢さんはにっこり笑い続けた。


「まずご依頼前に身分証を確認させてください。 免許証や健康保険証といったものはお持ちでしょうか?」


「身分証ですか・・・ 学生証ならありますけど・・・」


私はポシェットの中から学生証を取り出して机の上に置く。


「学生さんだったんですね・・・ えっとこれは・・・」


「何か問題でしょうか?」


私が聞くと氷沢さんは少しだけ難しい顔をして答えた。


「えーっと、実はですね、民法で未成年者は“契約”を行う事が出来ないと決まっておりまして・・・ 法定代理人、つまりはご両親ですね。そういった方の同意がないと依頼出来ないんです」


「えっ・・・」


彼女の口から告げられた事実に身体が硬直した。

話そうとしていた事が飛び、頭の中が真っ白になる。


「失礼ですが親権者様の同意は得られておりますか?」


「い、いえ・・・!」


動揺しながらもどうにか受け答えるが、氷沢さんは私に学生証を返して頭を下げた。


「申し訳ありません。 今のままですと、あなたからの依頼は承る事が出来ません。 親権者様ご同伴の上、再度・・・」


氷沢さんが私の依頼を断ろうとしたその時、


事務所のドアが無造作に開かれ、誰かが入って来た。


「帰ってきました! もうこの時期に野宿で森の中とかヤバイっすよ、氷沢さん! 暑いし、虫は多いし!」


「戻りました」


入って来たのは声からすると二人組の男性で、一人は聞いた事のない声だ。大分テンションが高い。


もう一人の方はそれとは対照的なほど酷く平坦で無機質な声だ。


そして、私はこの声を知っている。

でもそんな筈はない。


あいつがここにいるわけが・・・


必死で否定したが氷沢さんが二人の名前を呼ぶ。


「あっ、お帰りなさい、小熊くん、()()くん」


その名前を聞いた瞬間、我慢出来なくなって椅子から立ち上がって仕切りから顔を覗かせ、部屋に入ってきた二人組を視界に捉える。


一人はスーツを着崩した背の高い短髪の男性で、服の上からでもプロレスラーのような凄い体格をしているのが分かる。


もう一人は、


「な、なんで!? どうしてあんたがここに・・・」


ダサい丸ぶちメガネに、ボサボサの髪、

相変わらずの無表情な顔。


私が声を上げた事であいつも私に気づいたようだ。

動揺している私とは違い、いつもと変わらない平坦な声で尋ねてくる。


「こんにちは、柊さん。 何かあったのですか?」

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