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悪霊探偵  作者: エビス
第一章「人喰いマンション」
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病室にて

あの後、病院に運び込まれた私は、直ぐに治療を受けた。


ハンマーで叩かれた指は何本か骨折していて、完全には元通りにならないと言われたが、お医者さんの頑張りと、異様に調子の良い身体のお陰でみるみる回復し、当初の見込みより指の状態は良くなっていった。


少なくとも日常生活に支障はない。


夏海の足は奇跡的に綺麗に折れていて、時間は掛かるがちゃんと元通りになるみたいだ。


治療中、事件の事情聴取にあの首藤という刑事が来た。


彼は主に監禁時の状況や立花の言動について尋ねてきて、さらに今回の事件は、容疑者死亡で決着がつく事を教えてくれた。


疑われた立花は、夏海と私を人質に山中まで逃走、そこで警察に追い付かれ、逃げ切れないと判断して自殺――


という筋書きらしい。


納得出来ない所もあるが、そうしないと阿部に迷惑が掛かるみたいだ。


なので渋々了承した。


後日、ニュースを見ると事件が短くまとめられており、夏海が見つかった事、立花が追い詰められて自殺した事はやっていたが、その他の事については一切触れられてなかった。


当然、私達を助けてくれた、あの男についても報道はなかった。



「はぁ……」


私は病院のベッドの上でため息を吐いて、窓の外を見る。


燦々と照った太陽が少し眩しい。


(外は暑そうね……)


あの男は……この暑い中、どうしてるのだろうか?

探偵として依頼をこなしてるのだろうか?


そうだとしても、一度くらいお見舞いに来てくれても良いんじゃないだろうか?

助けられた手前、あんまり大きな声では言えないが、もう二週間だぞ。


(聞きたい事が一杯あるのに……)


「はぁ……」


分かっている。


これは私のわがままだ。

あの男がいつまでも来ない事に拗ねているだけだ。


「あの……香織さんや……」


そんな私に隣のベッドから声が掛かる。

私は窓に向いていた顔を動かし、そっちを見た。


「なによ?」


「あっ、えっと……そんな露骨にため息吐かれると落ち込むというか……捕まってたから課題が終わってないのは仕方ないというか……」


ベッドに備え付けられたテーブルで夏休みの課題と格闘していた夏海が言う。

どうやら夏休みの課題に全く手をつけてなかったのを呆れられてると思ってるようだ。


「ああ、コレは違うわ。 というか今さらあんたの夏休みの勉強を見てため息なんて吐かないわよ。 見慣れた光景だし、場所が自宅か病室かって違いでしかないわ」


「……なんかヒドくない……?」


「酷くない。 それに丁度良いでしょ、今の内に終わらせておく方が。 どうせ暇なんだし」


「それは、そうなんだけどさぁ……! もっと楽しいお話しもしたいよぉ……! なんか話題ちょうだい!」


夏海はそう言ってペンを放り投げ、ベッドに倒れ込んだ。


「そんな事言われても……今日のお昼も美味しかったとか?」


「えぇ、私もうちょい濃い味の方が良いかな」


「全部食べてたじゃない」


「そりゃお腹は空くもん」


そのまま夏海と他愛ない話を続ける。

あんな目にあっても、二週間も経てばこんなものだった。


「……だから病院食は、使える塩分量とか決まってるから、お酢とかレモンをきかせたり、胡麻を使って味付けをしっかりさせてるのよ。 退院したら真似してみようかしら」


「はい! 味見、味見します!」


夏海が寝そべったまま手を挙げる。


「濃い方が好きなんでしょ?」


「香織が作ったのは別! それに私を唸らせれば味はばっちりだよ!」


「どうかしら? 夏海って何作っても『美味しい!』しか言ってくれないからあんまり当てにならないのよね」


「大丈夫だって! きっと阿部くんも美味しいって言ってくれるよ!」


ん?


「前も言ったけど香織は、美人なんだから自信持って! 手料理なんて作ったら、あの無表情もきっと……」


「待ちなさい、なんであの男に作る事になってんの?」


「えっ? その為の味見でしょ?」


「違うわ!」


鋭い声で否定するが、夏海はニヤニヤしながら口を開いた。


「んもう……いい加減、素直になったら? 病室に誰かが来る度に期待した顔して、阿部くんじゃなかったらテンション下がってるじゃん。 分かりやすいからね、アレ」


「っ……!」


「あっ! もしかしてさっきのため息も……!」


「うっさい! それ以上言ったらもう勉強見ないからね!」


このままだと追い込まれそうだったので、私は自分のベッドを降り、夏海から逃げるように病室の出入口に向かう。


そして、部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。


その時、丁度よくドアがノックされた。


「どうぞ~!」


夏海が元気よく返事をする。


すると、「失礼します」と言う、平淡な声と共に、ドアが開かれた。


「あっ……」


「……どうも、柊さん。 杉山さん」


いつもの丸渕メガネにボサボサの髪、変わらない学生服、


ニコリともしない無表情。


阿部修良がそこに立っていた。

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