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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女を親友に取られたら、学校一の美少女が彼女になった

彼女を親友に取られたら、学校一の美少女が彼女になった 後日談① 

作者: 有栖悠姫




何でこんなことになったんだっけ。水原七海は座り込んだまま呆然としていた。さっきから梨花が背中をさすり慰めてくれているが、頭の中は別の事で埋め尽くされてた。


ついさっき、自分の彼氏だったはずの涼真が皆月真冬の肩を抱き寄せ、付き合っている相手だと宣言した。その上真冬に手を引かれて教室を出て行ったのだ。残された七海、梨花、樹にクラスメートの視線は集中していた。皆こちらを見ながらひそひそ話しているし、自分たちを見る目は今までカースト上位のグループにいた七海が向けられたことなんてない、汚らわしいものでも見るような目だった。おおよそクラスメートの幼気(いたいけ)な女子に向けるものではなかった。


「何だったのさっきの。蒼井くんと皆月さん付き合ってたの?」

「いやそれより七海と半田くんが浮気してたって皆月さんが」

「けど水原さんは自分と半田くんの仲を蒼井くんが誤解したって、それは嘘ってこと?」

「じゃあ自分達が浮気したのに蒼井くんに濡れ衣着せようとしたってこと?最低じゃない?」

「糸山さんも蒼井くんのこと滅茶苦茶罵倒してたよね、水原さんの言い分だけ聞いて責めるとかちょっとないよね」


さっきまでは良かったのに。皆自分の涙に同情して、梨花と樹の擁護も加わって七海は誤解で彼氏に一方的に別れを告げられた被害者だったのだ。なのに、真冬が来たことで教室の空気をひっくり返してしまった。自分たちが優勢だったはずなのに、じわりじわりと追い詰められる草食動物にでもなった気分だった。真冬が証拠を出すと言った瞬間、涼真があの写真を削除なんてしておらず、真冬も存在を知ってると悟った。あれを見られるくらいなら泣き叫び、醜態を晒す方がマシだった。決定的な証拠さえ見せなければ、言い逃れは出来ると思っていた。


皆月真冬。美人で誰に対しても分け隔てなく優しい、女神のような子。以前涼真が先に進むことを拒否し、自分が愛されていないのではと悩む七海が相談した時も親身になってアドバイスしてくれた。


『私は蒼井くんのことを良く知っているわけではないから、蒼井くんのことを良く知っている人に相談した方がいいんじゃない?』


だから七海は涼真の親友である樹に相談したのだ。彼ほど涼真について知っている人はいなかったから。


七海は樹が自分に対し好意を抱いていることを知っていた。しかし、涼真の方が顔は好みだし勉強、運動も樹より出来た。何より馬鹿な他の男子たちとは違い、常に冷静で落ち着いてるところがかっこいいと思ったから付き合ったのだ。だが、真面目で融通が利かないのはマイナスだった。いくら先に進みたいと言っても首を縦に振らなかった。身近な友人が熱に浮かされた様に彼氏との初体験を赤裸々に語る姿に、七海は周りに置いて行かれる気持ちになっていた。高校生になったのに、煌びやかなグループにいるのに処女だなんて、恥ずかしくて耐えられなかった。


その点樹は容易(チョロ)かった。七海と二人きりの時に向ける視線には情欲が見て取れたし、わざとボディータッチをして動揺するところも涼真と違い、新鮮で良かった。涼真は付き合い始めこそ照れたりしていたが、今ではそう言った面を見せてくれなくなってた。刺激が無くなっていたのだ。


誘ったのは七海の方だった。初めの方は樹は抵抗していた、親友の彼女に手を出すなんてあり得ないと。いやらしい目で舐め回すように見ていたくせに意外に強情だったが、七海が樹を押し倒し耳元でこう囁けば、堕ちた。


『バレなきゃいいんだよ』


友人がいう程行為そのものは良くはなかった。樹が下手なだけかもしれなかったけど、処女でないという事実は七海に自信を付けさせた。


その後も何となく関係は続いてた。樹の方も親友の彼女と寝たという事実に罪悪感で押しつぶされそうになっていたが、すぐにそれは涼真への優越感が上回っていたようだった。同類だな、と七海は思った。七海は樹が親友と言いながら涼真にコンプレックスを抱いていることに気づいていた。うまいこと利用できた。こんなことをしながらも七海は涼真と別れる気はなかった。樹とは身体の関係だけで好きなのは涼真の方だったから。



あの日もそうだった。誕生日なのにおめでとうの一つも言ってくれない涼真への不満から樹を家に誘った。親は仕事だし誰か来ても居留守を使えばいいと鍵を掛けなかった。まさか涼真がサプライズを考えているとは思いもしなかったのだ。自分はちゃんと愛されていたと、七海が気づいたときには涼真は汚らわしいものを見る目で七海達を見下ろしていた。



写真を撮られ、言わないと皆にバラすと淡々と言われた時は洗いざらい話してしまったが、涼真がそんなことをするはずがないと少し考えればわかるはずだった。だって涼真は七海と樹の事が好きなはずだから、謝れば許してくれると思っていた。そもそも涼真が七海を不安にさせたことが原因なのだから、これくらい大目に見るべきだと。


しかし、涼真は謝罪を受け入れないどころかまた冷たい目で七海を睨みつけた。涼真は自分たちを絶対許さないし、浮気したことも周囲にバラすと確信した。だって七海が同じことをされたら、そうするから。写真は消したと言われた時、咄嗟に涼真が悪いことにしてしまえばいいという悪魔のようなささやきが聞こえて来た。証拠はないのだから、こっちが先にやってしまえば、全てうまくいくと思っていた。梨花は七海が涙を流したことで涼真が悪いと判断し意気揚々と罵倒したし、樹は七海に合わせてくれた。小学校来の友情もその程度なのか、と七海が内心嘲笑したのは永遠の秘密だ。





なのに全部台無しになった。2人が出て行ったあと担任が教室に入ってきたことで皆席に着いたが、七海はその場から逃げ出したくてたまらなかった。


あれ以来、クラスメートのみならず他クラスの生徒からも『彼氏の親友と浮気したくせに、彼氏に濡れ衣着せようとした最低女』のレッテルを貼られ、肩身の狭い思いをしていた。


「あ、浮気女だ」

「良く学校来れるよね、面の皮厚過ぎ」

「恥知らずなんでしょ、私なら耐えられない」



あんなに自分を庇ってくれた梨花も今では話しかけるどころか目も合わせようとしない。


「あんたを庇ったせいで私まで同類に見られているのよ、冗談じゃないわ!もう話しかけないで!」


鬼の形相で睨みつけ、そう吐き捨てて去っていったのはあの日の放課後である。梨花は自分は悪くない、あの性悪な七海に騙されたと友人たちに言いふらしているらしい。元々片方の言い分を鵜呑みにして相手を責めるところがあった梨花だ。今まではその性格のきつさから誰も何も言うことが出来ずにいたが、あの日醜態を晒して以来その地位は失墜している。それでも自分を見つめ直す事はないのだろう、梨花も七海の同類だから。



七海は幸いにも元々いたグループの温情で、ハブられたり、孤立するといったことはなかった。

曰く


「七海があんな馬鹿な事やらかしたのは、私らが彼氏とのこと自慢したのが原因でしょ。私達にも責任の一端があるから子供みたいにハブったりはしない、グループにはいさせてあげる。けど学校内だけだから、外では一切会わないしもう友達でも何でもないから」


そう冷たく吐き捨てた友人の顔には、『浮気女』に対する軽蔑がありありと見て取れた。実際グループにいさせてもらっているだけで七海は空気と同じだった。七海が話しかけるとあからさまに無視するし、何で喋るんだとイラついているのが分かった。七海のプライドを容赦なくへし折る扱いだが、それでも高校生活で孤立するより何百倍もマシだった。


樹とはあれ以来話していない。樹も表面上は孤立していないようだが間男と陰口どころか堂々と言われ悔しそうに唇を噛みしめているのを見かけた。聞いた話によると部活のレギュラーも下ろされたらしい。


涼真は真冬といるところをよく見かける。楽しそうに笑っているのを見るたびに、こんなことをしなければあの笑顔は自分に向けられていたはずだったのに、と唇を噛んだ。けど、もう遅い。涼真はもう自分の事を見てくれることはないのだから。






***************



涼真とは小学校からの付き合いで親友と呼べる間柄だった。いつも落ち着いていて、頭もよく優しい涼真は自慢の親友だった。それが変わり始めてのはいつだったのか。


勉強も運動も涼真の方が出来たし、顔も涼真の方がカッコよかった。自分がいいなと思った女子は大体涼真の方を好きになっていた。初めはそんな親友を持てて誇らしかったが、段々劣等感に苛まれるようになっていった。


七海もそうだ。天真爛漫で守ってあげたくなる、そんな女子。樹もすぐに彼女のことを好きになったがやはり彼女が選んだのは涼真で、今までと違ったのは涼真が彼女と付き合ったことだ。


好きな相手が親友と付き合う様を身近で見続けるのは結構辛いことで、七海自身樹といるときやけに距離が近いのもいけなかった。勘違いしそうになったが理性でどうにか留まっていた。


それも駄目になったのは、七海が涼真が冷たいと樹に相談してきたことがきっかけだ。涼真に内緒で二人で会うことが増え、気持ちを抑えることが難しくなっていた。遂には彼女の部屋に呼ばれた時も、断ることが出来なかった、親友の彼女なのに。しかし、段々七海を悲しませる涼真に対する怒りも湧いてきた。


だから七海に押し倒され『バレなきゃいい』と囁かれたその瞬間、涼真への罪悪感も全て吹き飛んだ。


関係を持ってしまった後、樹は自分を責め続けたが、それも「涼真の彼女と寝た」という事実が樹に優越感を与えた。何も知らない涼真と話していると「お前の彼女と寝ているぞ」と心の中でほくそ笑むのを止められなかった。もうこの時から樹は壊れていたのかもしれない。人としての道を踏み外してしまっていたのだから。



あの日、七海の誕生日なのにおめでとうの一つも言わず不満を漏らす七海に家に誘われた時も断らなかった。これは七海が涼真に愛想をつかす日も近いと期待していた。



サプライズで七海を祝うために涼真が部屋に入った来たあの瞬間、あまりの衝撃で何もすることが出来ずただただ呆然としていた。なのに涼真はそんな時にも冷静で、樹には決して真似は出来ないことで絶対涼真には勝てないんだということを悟った瞬間だった。


侮蔑の籠った目で自分達を見下ろし、写真を撮る涼真を見て樹は背筋が凍った。涼真はドライな性格で他人に対する執着が薄い所があった。だから自分を裏切った七海たちの事も切り捨てかねない、と。

だが七海は涼真は自分たちの事が好きなはずだから、あれも本気ではない、謝れば許してくれると能天気に笑ってた。内心そんなわけないだろうと憤っていたが、既におかしくなっていた樹は七海の言い分を受けいれていた。


正直、写真を消したと言った涼真を七海が陥れようとしたときは焦った。そんなことすぐにバレるはず、考えなしにもほどがある、と。しかし、このまま放っておいても涼真は自分たちの事をバラすだろう。あの目は絶対にそうすると言う確信が樹にはあった。ならば、七海に乗っかり涼真を嵌めた方がいいだろうと思考を放棄した。幸い、と言っていいのか七海を溺愛している糸山梨花も乗っかってくれた。そんな茶番を起こした樹達を涼真はどこまでも冷ややかな目で見つめていた。



そんな状況も皆月真冬が現れたことで変わってしまった。あの日から付き合っているという涼真に対し、何て変わり身の早さだ、七海への気持ちはその程度だったのかと内心憤ってた。そんな資格は一切ないのに。涼真が皆月真冬とそんなに親しかったことも、皆月真冬が涼真の事を好きだと言うことも初耳だった。だが、不思議と納得してしまった。涼真は昔からそれなりにモテた。彼女持ちじゃなかったら狙っていたのに、と零した女子がいることも知っている。七海以外眼中になかった当時の涼真は知る由もないことだが。



あの日以来、樹は「間男」「親友の彼女を寝取ったクズ」と陰口を叩かれていた。陰口どころか面白がって直接言って来る奴もいたが、事実なので言い返せなかった。言い返して騒ぎでも起こしたらもっと面倒なことになるのは目に見えていたから。


幸いと言っていいのか今までつるんでいた友人は「間男」の自分をハブることはなかった。しかし、今までのようにはいかない。ただそこにいるだけという、空気のような存在に変わった。何か言おうものなら「間男に言われたくないわ」と冗談交じりに返されることが増えた。惨めだった、だから何も言わなくなった。


そんなある日、バスケ部の部長に呼び出された。嫌な予感はしたが行かないわけにはいかない。


「お前をレギュラーから外すことが決まった。理由は分かっているだろう、お前の噂が俺の学年にも届いているぞ。素行に問題がある奴をレギュラーに入れたままだとバスケ部全体の評判に関わるからな、辞めさせないのは温情だと思え」


立ち去るとき、部長は涼真と似た、それよりもマシな冷めた目で樹を一瞥した。


「…半田は真面目な奴だと思ってたんだがな、失望したよ」




その瞬間樹は全てを無くした。七海とはあれ以来話すらしていない。七海まで失ったら何のために自分はこんな馬鹿げたことをしたのか、分からなくなってしまう。だが、樹にはもう何をする気も起きなかった。


涼真は彼女と親友に裏切られた被害者としてクラスメートのみならず、他クラスの同情も集めていた。しかも、人気者の皆月真冬が好きだと告白した相手だ。色んな意味で時の人であった。


何で真冬と仲が良かったのか、もしかして自分たちを嵌めたのではないか、と疑問が頭を渦巻いていたが樹はもう涼真に話しかけることすら許されていなかった。あと2年の高校生活がお先真っ暗なことが確定してしまったが、樹はもう、何もしようとは思わなかった。




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