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ミストリア王国編7


「実は私も彼女欲しいんですよね…。以前は仕事は不規則で彼女作れる状況じゃなかったですし」


「だよね、現実なんて物語と違って切実に甘くないし、この世界で幸せになりたいよね…」



大分酒が効いてきたのか、さっきまでの緊迫した雰囲気が微塵もない会話である。

平凡な容姿のヒイラギとは違って、カナメは身長も180と高く(ちなみにヒイラギは172)、髪をオールバックにし、細身に眼鏡を掛けた理知的な容姿をしており、普通にモテそうだが。


リアルな現実なんてきっとこんなものなんだろう。



「カナメくんさ、そう言えば、ウチに付けてる人はそのままにして貰える?」



何かを思い出したように、ヒイラギが話を変える。

伝えるのを忘れていただけなのだが。



「別に構わないですが、いいんですか?」


「これからを考えると、護衛的な意味合いで付けて欲しいな、と」



これから表にも裏にもヒイラギの名前が上がる事を考えれば、ヒイラギの関係者に対しての護衛は必要になると考えていたからだ。



「分かりました。とりあえず常時5人は付けておきます。今後は必要に応じて増やします」


「おぉ助かるよ、でも5人も付けて組織の方は大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ。色んな国の情報を集めてるうちに増えていきまして、今だとウチに500人くらい所属してますから」


「え?500人!?」



せいぜい20、30人程度だと思ってたヒイラギが酔いが覚めるように声を張り上げた。



「半分は元【リアルワールド】プレイヤーです。賛同して集まったり、どう生きて良いか分からない人達が集まったり。大部分は各地に散って情報収集にあたってますけど」



カナメが作り上げた諜報組織「月光」は、各地で集めた情報を各ギルドや商人、貴族、機関などへ売却する事で資金を稼ぎ組織を維持している。



「組織の維持が大変そうだよね」


「そうですね、ウチはできるだけ悪用されないよう顧客は厳選してるので何とかやっていってる感じですね、まだ」


「よし、なら提携した契約金として2億ジニー、今後は月に3000万ジニーをウチの商会から支援するよ。あとは個別に相談でどう?」


「え?そんな大金!本当に良いんですか!?」



今度はカナメが酔いの醒めるほどの驚きの声をあげる。



「いやいや、そんな驚かなくてもいいでしょ。【リアルワールド】の時の資産は調整されてもこっちに反映されてるんだから」



管理者が言ってたように、元【リアルワールド】プレイヤーの装備やアイテム、資金などはこの世界の基準に調整されてはいるが反映されているはずだからだ。



「反映はされてますけど、上位プレイヤーだった私でも反映されたのは5000万ジニーに届かないくらいの資金ですよ?」


「いやさ、俺は職業制限のせいで初期装備しか装備できないからさ、レアな装備は手に入れたらほとんど売っちゃってたし、途中からは強さを求めちゃって討伐依頼とかイベント報酬とかほとんど使わなかったから貯まってたんだよね」



あははは、と苦笑しながらヒイラギが説明するが、ヒイラギ以外の元【リアルワールド】プレイヤーの反映された資産の平均は300万ジニーほどであり、カナメの金額でも相場よりもかなり多い。

通常であれば、資金を稼いでより良い装備やアイテムを購入する訳だから、そこまで資金が余るはずは無い。

ようするにヒイラギの資産が余りにもおかしいのだ。


【リアルワールド】では、ヒイラギしかクリアしていない階層、イベントなどが数多くあり、それらで取得した装備やアイテムはかなりの価値が付いた。

それらの資産は手数料を支払う事で等価に近い形でリアルマネーにも換えられた為、その一部を換金して生活費に充てていたりした。


余談だが、あるダンジョンでボスを倒して手に入れた聖剣の類いは、【リアルワールド】内の最高額である日本円換算で25億ほどの大金で職業とは全く関係無いどこかの富豪の収集家が落札している。



「それにさ、ウチの商会で始める回復薬関係とか、知ってると思うけど神眼使って買い取った廃鉱山で、最低でも月に1億ジニー以上は売り上げる予定だから本当に問題ないよ」



実際にアラベス商会が本格稼働した場合、月に数億ジニーもの売り上げが上がる見込みで、その売り上げは大手商会にも匹敵するレベルだ。


情報収集はこの世界を生き抜く為には必須だが、例え神眼があっても身体は1つ、集められる情報も限られてしまう。だからその売り上げを使って良い諜報組織が無かった場合は自分で組織自体を作ろうと思っていたので、逆に安上がりになっていたりする。



「まぁ、気楽に助けてよ。俺が最後って事らしくて、こっち来てまだ日が浅いし」


「あぁ、確か調整のせいですか。だから今まで私の情報網にも引っ掛からなかったんですね」


「とりあえず、やりたい事は沢山あるんだけどさ、色々知らなきゃ動けないよね」



運良く商会を立ち上げる事はできたが、ヒイラギには圧倒的にこの世界の知識と情報が足りていない。



「何を知りたいですか?」


「そうだなぁ、まずはウチの商会を以前嵌めた相手の詳細が知りたいかな。調べてくれる?」


「それならもう調べてありますよ?」


「え?早くない?」


「たまたまなんですけど、先程言った揉めてる裏組織の1つが絡んでいるので、その際の被害に遭った商会に含まれていたのでアラベス商会も記憶していたんです。だからそのアラベス商会が急に再開したと知って調べていたんですよ」


「なるほど」


「アラベス商会を当時追い込んだ商会はコルネロ商会と言います。数年前までは中規模クラスの商会の1つだったんですが、裏組織カザリアに買収され、その後から中小の商会を潰し、吸収しながら今では大商会になってます。実態は暴力団のフロント企業と同じ理屈ですね」


「裏組織カザリアねぇ」


「コルネロ商会は入口に過ぎないので、実際の主犯は裏組織カザリアです。本拠を王都アイギスに置くミストリア最大の裏組織でそのメンバーは数は2万人以上、その規模はこの世界でも10指には入り、このルクスには約3000人近いメンバーがいます」


「なかなか大きいよね、2万人も3000人も。まぁ大小関係なくやる事は変わらないけどさ。ちなみに証拠関連とか持ってたりするの?」


「はい、証拠は揃えています。ただ、買収、癒着、それ以外も妨害工作が酷く、なかなか進みません」



カナメがそこでやっと一息付くように久しぶりにグラスを煽った。

その表情は悔しさが滲み、やるせ無さが表れている。

実際に月光に所属する諜報員に犠牲も出ていて、カザリアの目を逃れる為に本拠地を王都アイギスから、このルクスに移したのが半年ほど前の事だ。


賢王と言われるリオネル・ミストリア王が治めるミストリアは他の国から比べると治安や内政は良いのは間違いないが、それでも全てに目が行き届く訳では無い。

更に嬉々として元『リアルワールド』のPKプレイヤー達が裏組織に大量に流れ込んでおり、裏組織カザリアにも流れ込んで余計に組織が強化されているのも問題だった。



「確か、裏組織とか捕まえたりすれば懸賞金とか出たよね?」


「ええ、捕縛や生死問わずなどありますが、国や領主から懸賞金が出ているので、ハンターギルドには懸賞金狙いのハンターもいますよ」


「いいねぇ、まぁ準備は必要だけど、カザリア潰しちゃおう」


「えっ?」



軽くとんでもない事を言うヒイラギにカナメが驚きの目を向ける。

それも当然で、相手はこの世界でも有数の裏組織で、分かってるだけで2万人以上、このルクスだけでも3000人はいるのだから。



「チマチマやってたら俺のスローライフがいつまで経っても訪れないしな。ただ別に何にも考えてない訳じゃない。俺がこの世界にいて健在だと分かれば、いくら俺に恨みを持っていたとしても死んだら終わりのこの世界だとPKプレイヤー達の抑止力になるはずだし、そいつらが組織内で俺の事を話せば裏組織自体にも抑止力なる。今後の事を考えれば国に恩を売っておけば行動もしやすくなるだろうし、何より以前とは言え俺の商会やスタッフに手を出したんだ、その報いは受けてもらわないとな」



そう言って、ニヤリとヒイラギが笑った。


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