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ミストリア王国編4


「久しぶりですね、ベッツさん」



そう言ってマスターと呼ばれた男がサリの隣に座る。



「久しぶりだな、フリタス。また世話になる」


「あの時、私の力が及ばずに申し訳ありませんでした」


「いや、君には感謝している。そんな顔をしないでくれ」



ベッツが苦笑すると、フリタスの視線がヒイラギに向けられた。



「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。商業ギルドルクス支部でマスターをしておりますフリタス・サンタールと申します。私がマスターになる前からベッツさんにはお世話になっておりまして、職員からベッツさんが来ていると聞き、急遽お邪魔させて頂きました」


「いや、こちらこそ登録に来ただけなのにギルドマスターにお会いできて光栄です。今回私が当主となりますが、支配人にベッツさんを雇用し、アラベス商会を復活させようと思いまして先程契約を済ませ、今は準備金のお話しをしていたんです」


「アラベス商会を復活…そうですか、とりあえずおおよその流れは把握できました。そうなると当然色々な事が起こり得る事も想定していらっしゃるんですよね?」



さすがに商会ギルドのマスターであり、頭の回転が速く鋭い視線をヒイラギに向けてくる。



「そうですね、少しですが経緯は聞いていますので、ある程度は予想していますし、ベッツさんとは今日お会いしたばかりですから今後の事はもう少し話し合いをする予定です」


「え?今日ですか?」


「そうですよ。商会を立ち上げたかったので元商人関係の人材を探していた所でベッツさんとたまたま出会ったんです。時間は有限ですから、良い出会いとばかりに即行動してここに来ました」


「なかなかの行動派ですね。正直に言いますが通常新規登録の準備金は10万〜100万ジニーお預け頂ければ問題ありません。ですが先程言ったアラベス商会の信用問題や色々を考えれば1億ジニーは必要だと思います。ベッツさんがここに居る事を考えればすでに相当の予算をお使いなったと思います。ギルドマスターとしてのアドバイスになりますが、契約変更で新規の商会での登録を考えては如何でしょうか?」



ありがたい事に全員が心配をしてくれているのが視線や表情で分かってしまうが、俺の答えは変わらない。



「心配して貰えるのは素直に嬉しいんですが、俺の答えは変わりません。先程言ったようにある程度は予想してますから。ちなみに当時アラベス商会がギルドから借り入れを拒否されたのは大手商会あたりから準備金を引き上げるとか脅されてたりしたからですか?」



フリタスが驚いてベッツを見るが、同じように驚いた表情を浮かべ首を振るとヒイラギに視線を戻して悲痛な表情で話し始める。



「ベッツさんがいる以上今更隠し立てはしても意味はありませんよね。ルクス支部の商業ギルドには小さな個人商会も含め約500以上の商会が登録されています。その準備金は総額で約100億ジニーになります。商業ギルドは商会間の仲介または斡旋、買取りや販売、貸金業などで運営されていますが、その大きな部分を純粋な売り上げと準備金で賄っています。あの時、アラベス商会に商業ギルドが融資をした場合、準備金で約50億ジニー分を一旦引き上げると大手を含めて各商会からギルドに通達が入りました。また私を含めたギルドスタッフに対しての脅しもあり、このギルドがあの時アラベス商会に対して手を差し伸べる事が出来なくなったのです。ベッツさん本当に申し訳ない…」


「大方そんな事だろうと思っていたし、私も立場が同じならそうするだろう。フリタス、気に病まずに顔を上げてくれ」



苦笑しながらベッツが促すと、フリタスが顔上げる。

全員の視線はヒイラギに向けらているが、大体予想通りな為にヒイラギの表情に変化は無い。

どこにでも悪意はあるし、糞な人種はいるんだよなぁ、などと心の中で思っていただけだ。



「聞かせて頂きありがとうございます。大丈夫ですよ。基準も理解できました」



そう言ってポケットから取り出した大白金貨をテーブルに積み上げていく。



「20億ゼニー分の大白金貨20枚、これが復活するアラベス商会の準備金になります。どうぞ確認して下さい」



フリタスやサリだけではなく、ベッツですら驚きの表情で固まっている。

それもそのはずで、先程の説明で大手商会ですら平均は5億〜10億ジニーほどと言われている。再登録とは言え新規商会がそれを遥かに上回る準備金を初めに用意するなど前代未聞レベルなのだ。



「サリ、確認次第書類を用意して」



さすがと言うべきか、いち早くフリーズ状態から立ち直ったフリタスが隣のサリに指示を出し確認作業に入る。

大白金貨20枚を確認すると、書類を用意致しますと部屋を退出していった。



「何点かお願いがあるんですが、マスターであるフリタスさんに言ってもいいんでしょうか?」


「ベッツさんの件がなくても、準備金に20億ジニーをお預け頂ける商会からであれば何の問題もありません」



事実商会ギルドに預けられる準備金は、商会に対する保証金の役割も果たすが、それらの一部を使用して貸付などをする銀行業などをする側面も持つ為だ。



「なら遠慮なく。賃貸でも売買でも構わないので、10部屋前後はあるお風呂が付いた家を、それと立地の良い場所に商会用テナント、場所は問わないので広めの空き倉庫を探して下さい。あと出来ればで構わないのですが買取が可能な養護施設、鉱山などがあれば情報を下さい」


「了解致しました。見つかり次第本日お渡しさせて頂くギルドカードに伝言機能が付随してますので、そちらでご連絡させて頂きます」



しばらくすると準備金に関する書類を持ってサリが戻ってきたので手続きを済ませ、商業ギルドのギルドカードを発行して貰う。

商業ギルドカードもハンターギルドカードと同じようにランクがあり、受けれるサポートやサービスなどランクによって変わると教えられた。

再登録のアラベス商会は元Aランクで、通常なら解散とペナルティで2ランクダウンのCからのスタートだが、準備金のプラス査定で1ランクアップのBランクからの再スタートとなったらしい。

商業ギルドや商会に関しては後からゆっくりベッツさんに聞くとして、とりあえずホテルに戻る為に商業ギルドを後にした。






次の日のお昼前にフリタスよりご希望に沿った物件が見つかったので商業ギルドまでお越し下さいと通信が入った。

流石と言うか、その早い仕事に驚きつつベッツを伴って商業ギルドに向かうと、止めた魔導馬車にフリタスが乗り込んできた。



「昨日ぶりです、ヒイラギ様、ベッツさん」



慣れた感じで乗り込んで運転士に何事かを告げると、そのまま対面に座っていたベッツの隣に腰を下ろした。



「ギルドマスター直々に案内ですか?」


「そんな大層なものではないですよ。あの時のお詫びも当然ありますが、新生アラベス商会に対しての期待、一商人としての勘みたいなものもあるので」


「それならこちらも遠慮なくお願いするとしますね」



しばらく経つと、かなりの速さで流れていた窓に映る景色が、少しずつゆっくりになって、それが大きな屋敷の前で停まる。

立派な門扉から覗く屋敷はかなり大きく、雑草が生い茂ってはいるが庭もかなり広い。



「こちらの邸宅がまずは最初のご案内物件になります」



停まった魔導馬車から降りながらフリスタが笑顔を向ける。

案内された邸内は多少掃除が必要だが立派なホールやリビングに食堂、大きな浴室は希望以上で部屋数は20ほどあった。



「少し前にギルドで差押えた物件でして、こちらは賃貸だと年2400万ジニー、購入ですと2億ジニーになります」



チラリとベッツを見ると、意図を理解したように頷く。



「ヒイラギ様、こちらの物件であれば賃貸でも購入でも相場の3割引ほどの条件かと思います」



なら要望以上の物件である訳だし、断る理由は無い。



「ならこれを購入で」


「畏まりました。それでは次はテナント物件にご案内致しますね」



待たせていた魔導馬車に乗り込み、今度はテナント物件に向かう。

停まったのは人で賑わうなかやか良い立地に建つ3階建ての立派なテナントの前だった。

中は各階50帖ほどの広さで申し分なく、都合の良い事に隣に広さは同じくらいの2階建てのテナントがあり、倉庫としても使えそうだった。



「こちらは2つで賃貸ですと年間1800万ジニー、購入ですと1億5000万ジニーになります」


「ヒイラギ様、相場の2割引、その上かなり好立地になります」



今度は視線を向けなくてもベッツが補足してくれる。



「いいんですか?」



色んな意味を含めて聞くも、聞かれたフリタスの表情は笑顔のまま変わらない。



「それだけ新生アラベス商会に期待していると言う事ですので、何の問題もありません」


「では期待に応えるように頑張らなきゃいけませんね。こちらも購入でお願いします」


「ありがとうございます。それでは清掃をした上で、どちらも3日後にお引き渡し致しますね」



そのままギルドに向かい契約と支払いを済ませると、帰りに養護施設と鉱山の情報が綴られた書類を渡されてギルドを後にした。

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