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ミストリア王国編3


「ヒイラギ様こちらへお願い致します」



すぐに戻ってきたべベールが部屋を出て、2つほど隣にある突き当たりの部屋のドアの前に立ち、言いながら礼をしてそのままドアを開けて入室を促した。


部屋の広さは先程と変わらないが、テーブルを中央に3人掛けのソファが2つ、その左右に1人掛けのソファが2つ、絵画や質の良い調度品が並ぶ室内は派手ではない落ち着いた応接室だった。


案内された3人掛けのソファに座ると、しばらくしてベッツ達が入室してきた。

そこまで高級な物ではないだろうが、全員が先程と違い正装しており、元々教養もあるからだろうが、それだけで貴族と思われてもおかしくない雰囲気を醸し出している。

中でもベッツは商会当主として経験故か威厳が垣間見えた。


ベッツ、メリル、リリが3人掛けソファに座り、サラが隣の1人掛けソファに座ると、空いていた1人掛けソファにべベールが座り契約が始まった。



「これで無事に契約は終了致しました。私は席を外しますので、お話しが終わりましたらお呼び下さい」



10分ほどで契約が無事終了すると、そう言ってべベールが退室していき、ヒイラギとベッツ達だけになった。



「改めまして、ヒイラギ・アオイです。これからは色々と助けて頂くと思いますが、よろしくお願いします」


「ご主人様、頭を上げて下さい。私達はあくまで奴隷です。誠心誠意ご恩が少しでも返せるようお仕え致しますのよろしくお願いします」



突然頭を下げたヒイラギに驚き焦りながらベッツが頭を下げると、次々と全員が頭を下げ始めた。



「正直に言えば、他の人がどう奴隷を扱うかは知らないですし、俺は俺の好きなようにさせて貰います。俺はベッツさん達を購入しましたが、奴隷とは思っていませんし、従業員であり、仲間であると思っています。だからそんなに畏まらずに楽にして下さい。できればご主人様では無くヒイラギの方が良いので、そう呼んで貰えると助かるんですけど」


「さすがにそれは難しいので、ヒイラギ様でお願い致します」


「分かりました。そうゆう事であまり気を使い過ぎないで下さいね。とりあえず冷めないうちに皆さんも飲んで下さい」



用意されていた紅茶を飲みながら、ヒイラギが笑顔を向けると、全員が紅茶に手を伸ばした。



「まず商会の設立、住居の確保をこれからやりたいのでベッツさんに流れを教えて頂きたいんです。住居の確保が出来るまでは俺が宿泊しているホテルで仮住まいになりますから安心して下さい」


「了解致しました。商会は商業ギルドに登録料10万ジニーを支払って申請すれば30分程度で可能です。それに住居や店舗は商業ギルド経由にて探す事が可能なので、その時にご相談が良いかと思います」


「さすがベッツさんですね、助かります。条件や給金、仕事の内容とか色々話そうかと思いましたけど、できればなるべく早く商会を立ち上げたいので、予定を変更して一度ホテルに戻って俺とベッツさんで商業ギルドに行きましょう」



そう言ってべベールを呼び、魔導馬車を呼んで貰ってホテルに向かう事にした。



「ヒイラギ様、これはさすがに…」



ホテルに到着し、同じ部屋を全員分確保するとベッツが焦ったように呟いた。

高級ホテルで、しかもそれぞれに個室を用意したからだろう。



「言ったと思うけど、俺は俺の好きにしてるだけだから遠慮はしないでくれていい。それにメリルさん達は俺達が商業ギルドに行っている間に、とりあえずの必要な物をこれで揃えておいて下さい」



ヒイラギはそう言ってメリルに30万ジニーほど渡す。



「ヒイラギ様!?」


「これが俺です。気にせず必要な物を買って、お昼ご飯も3人で食べていて下さい」



笑顔でそう言って、ベッツに行きましょうと促しホテルの部屋を後にした。


商業ギルドに向かう魔導馬車の中でベッツが真剣な表情をヒイラギに話し始める。



「このご恩をどう返せばよろしいのか正直分かりませんが、本当に誠心誠意お仕えさせて頂きます」


「俺は好きなようにしてるだけですよ。だからそう思っていてくれるなら、これから俺を沢山助けて下さい。多分俺は常識が微妙にズレてるからベッツさん大変ですよ?」



そう言って笑うと、ベッツも苦笑しながら微笑んだ。



「それと新しい商会を考えていたんですが、ベッツさんと出会えたので方針を変更しようと思ってるんです。可能であればですけどベッツさんの解散したアラベス商会を再登録できますか?」


「当主は変わりますが、可能か不可能かで言えば可能です。ただし色々と曰く付きの商会ですが、よろしいのですか?」


「可能ならアラベス商会を復活させましょう。心配はいらないですよ、何かあれば俺がなんとかします」


「畏まりました」



なぜか不思議に大丈夫なような気がして、ベッツはヒイラギの言葉をすんなりと受け入れられた。


立地条件の良い高級ホテルだけに、30分ほどで真っ白な煉瓦作りの5階建ての立派な商業ギルドに到着し、ベッツの案内でギルドに入ると受付に真っ直ぐ向かった。



「ベッツさん!」



受付の女性がベッツに気付き声を上げると、周りがざわつき出す。



「申し訳ございません。こちらにどうぞ」



声を上げた受付の女性が、慌てて奥の部屋に案内する。

10帖ほどのこじんまりとした応接室で、ソファに座ると対面に腰を下ろした受付嬢が頭を下げた。



「驚いて大声を出してしまいご迷惑をお掛け致しました」


「サリよ、奴隷に身を落としたはずの私が急に現れたんだ、驚くのは仕方ないから気にしなくてよい」


「ベッツさん…、あれだけお世話になっておきながら何の助けもできず本当に申し訳ございません」


「だから気にしなくてよい。今日は私の主人であるヒイラギ様が話があって来たんだ」



サリと呼ばれた受付嬢は、主人の意味を即座に理解し、そこでようやくベッツの隣に座るヒイラギを認識する。



「大変申し訳ございません、ヒイラギ様」



20代半ばくらいの眼鏡を掛けた知的で綺麗な女性が若干涙目になりながら頭を下げて謝罪する姿に、ヒイラギは罪悪感を覚えて慌てて頭を上げて欲しいと伝える。



「とりあえず個室まで用意して貰ったこの場では気にしなくていいし、もう少し楽にして話を聞いて欲しい」


「サリよ、今回私達家族は全員一緒にここにいるヒイラギ様に拾って頂いたのだ。その上で今日は当主をヒイラギ様としアラベス商会を再登録する為に来たのだ」


「ベッツさん、本当によろしいのですか?」



ヒイラギの言葉を引き継いだベッツの話に、サリが心配そうに聞き返した。



「問題ない。ヒイラギ様がそうしたいと仰ったからな」


「分かりました。では申請書類をお持ち致しますので少々お待ち下さい」



少し落ち着いたサリが言って部屋を退出する。



「ヒイラギ様、申し訳ございません。彼女は非常に真面目で昔から懇意にしていたもので」


「大丈夫ですよ、ちゃんと理解してますから。それに大手の商会との関係性も想定してますから、そこら辺も含めて心配しないで下さい」



笑顔で言い返すと、書類を胸に抱えてサリが戻ってきた。



「お待たせ致しました。ご確認して頂き、こちらにサインをお願い致します」


「ベッツさん、お任せしても?」


「では私が代行致します」



書類関係は事前に聞いたように10分ほどで終わり、申請費の金貨1枚をサリに手渡す。



「確かに申請書類と申請費を承りました。これで受付は完了致しますが、準備金はどう致しますか?」


「ヒイラギ様、準備金とは商会の保証金のようなもので、商業ギルドに預ける事で商会の信用度を高め、準備金が多いほどその信用度は高くなります。ギルドカードで引き出しは自由にでき、ギルド経由の取り引きにも利用可能なので便利ですよ。一般的には初めて登録する商会は10万〜100万ジニーほどが相場になります」


「そうゆう仕組みなんですね。ちなみに以前のアラベス商会はいくらくらいだったんですか?」


「当時は大手とはいきませんが老舗の商会でしたので、大白金貨5枚ほどを多少は変動しますが常時準備金として預けておりました。準備金が多いとギルドから優遇されますから中堅の商会で1億〜5億ジニー、大規模な商会になると5億〜10億ジニーほどになります」



ベッツがそこまで説明すると、コンコンとドアがノックされ、そのまま仕立ての良いスーツを着た40代くらいの切長の目に眼鏡を掛けた男が入ってきた。



「マスター!?」



サリが驚いた様に声を上げる。


そう、ルクス支部の商業ギルドマスターが入ってきたのだ。


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