ミストリア王国編2
ホテルで朝食を食べ、ホテルで教えて貰った場所へ呼んでもらった魔導馬車に乗って向かっていた。
「お客様、着きました」
ホテルから20分ほどで目的地に着いたようで、魔導馬車から降りる。
目の前には3階建の立派な建物があり、サラカーン商会と看板が掲げられていた。
「サラカーン商会へようこそ」
中に入るとスーツを着こなし、白髪をオールバックに撫で上げた老紳士が胸に手をつきながら礼を持って迎えてくれた。
「元商人関係の奴隷が居れば見せて欲しいんですが」
「ご承知致しました。こちらにお座りになって少しの時間お待ち下さい」
そう言って老紳士はフロントに設置してある高級そうなソファに案内すると奥へ消えていった。
ここはホテルで聞いた王都内でも信用度の高い奴隷商らしい。
【リアルワールド】の時と同様に奴隷と言ってもきちんとした契約の元に成り立っており、扱う商会の許可があれば奴隷側が買われる事を拒否する事もできれば、衣食住の保障や給金の保障、暴力や迫害の禁止、性的な制約等もあり、最低限の人権が守られている。
これだけの大都市であれば、わざわざ王都まで行かなくてもスタートには充分だろうと昨日一晩考え、これからのやりたい事をやる為にまず商会を立ち上げようと、その人材を探しに来たのだ。
「お待たせ致しました。どうぞこちらへ」
出された紅茶を飲みながら10分ほど待っていると、先程の老紳士がにこやかに声を掛けてきた。
案内されたのはソファとテーブルだけが置かれた30帖ほどあるシンプルな部屋で、そのソファに座ると老紳士が手を叩いた。
「失礼致します」
そう言って入ってきた時とは逆側のドアから20代半ばくらいの正装をした男性が入ってきて、その後から同じシンプルな装いをした5名の男性が続いて入ってくる。
この5名が奴隷なのだろう、俺の対面までくると正面を向き立ち並んだ。
「こちらが現在当商会にてお客様のご要望に該当する奴隷になります」
「なら、こちらの奴隷と少し話したいのですが可能ですか?」
「分かりました、なら他の者は退出させましょう」
老紳士がそう言うと、若いスタッフが他の奴隷を引き連れて入ってきたドアから退出していった。
ステータス
名前 ベッツ・アラベス
年齢 55
性別 男性
種族 人族
職業 商人Ⅳ
レベル 41
体力 E・10
筋力 F・5
魔力 F・6
知力 A・51
俊敏 F・8
スキル 鑑定Ⅲ
備考 元アラベス商会当主・借金奴隷・誠実
これが目の前に立つ奴隷のステータスを除いた結果だ。
髪や顎髭は白髪混じりで少し伸びているが不潔な印象は無く、細身の身体だが年齢を感じさせない。
元商会当主であり誠実な人間で、商人ランクやレベル、知力まで高い。
正直考えていた以上に欲しい人材で、借金奴隷となっているのは、誠実と記載されている事からも、きっと何かしら理由があるのだろうと思った。
「お客様、こちらの奴隷は借金奴隷となっておりまして、条件が何点かございます。まずこちらの奴隷を購入なさる場合は娘1人と孫2人を含めた家族全員でのみ購入可能となっております。そして性奴隷としてはご契約できません。またこの奴隷は借金奴隷として高額な金額が設定されており、家族全員で3億5000万ジニーとなっております」
この世界の基準では平均所得が月10万ゼニーほどである事を考えれば価値的には更に倍額くらいの高額になる。
「なぜ借金奴隷になったか、その理由を聞かせて下さい」
奴隷のベッツが老紳士に視線を向けると頷く姿が見えた。
「分かりました。少し長くなるかとは思いますがお話しさせて頂きます。私は以前アラベス商会と言う商会の当主をしておりました。それなりに長い歴史を持った商会でこの大都市ルクスでも老舗の商会として誠実に商っていたと思っています。私にはひとり娘がおり、婿養子を迎え、2人の孫にも恵まれ、2年ほど前に娘夫婦に商会を任せ、私は隠居をしたのです。娘の旦那は私が長年商会で仕込んだ真面目で誠実な男で、商会を任せられると思ったんです。ただ1年前に事件が起こりました。その義息子は商会の販路を広げたのが気に入らない大手商会に反感を買い、仕入れで騙されて大量の借金を負い、更に商業ギルドへの圧力により借り入れすら出来ずに過労により倒れ、そのまま息を引き取りました。私がもう少し早く気付いていれば回避できていたかも知れないと思うとやり切れませんが、残る家族を守る為に商会を解体し、私財を売却して対応しましたが、余りにも高額過ぎて全てを支払う事は出来ませんでした。ただどうしても娘や孫を守りたいが為に信頼の置ける古くからの友人である彼に無理を承知で相談し、裏から手を回して貰い彼の店で取り扱って貰えるよう取り計らって貰ったのです」
彼とは当然老紳士の事だろう。
ステータス
名前 べベール・サラカーン
年齢 55
性別 男性
種族 人族
職業 商人Ⅳ
レベル 36
体力 E・12
筋力 F・6
魔力 F・6
知力 B・46
俊敏 F・5
スキル 鑑定Ⅲ
備考 商業ギルドルクス支部所属・サラカーン商会当主・誠実
プロとして表情には表さないが、その瞳は確かに揺れていた。
「べベールさん、残りのご家族をここに呼んで貰えますか?」
「承知致しました」
当然名前を呼ばれた老紳士が一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに手を叩き先程の若いスタッフに家族を連れて来るように指示を出した。
直ぐに3人の女性が部屋に入ってきた。
「私からご紹介致します。隣が娘のメリル、そして孫のリリとサラです」
ステータス
名前 メリル・アラベス
年齢 35
性別 女性
種族 人族
職業 商人
レベル 23
体力 F・6
筋力 F・2
魔力 F・8
知力 C・32
俊敏 F・6
スキル 鑑定Ⅰ
備考 借金奴隷・誠実
ステータス
名前 リリ・アラベス
年齢 17
性別 女性
種族 人族
職業 商人見習い
レベル 12
体力 E・10
筋力 F・7
魔力 F・6
知力 C・35
俊敏 F・8
スキル 鑑定Ⅰ
備考 借金奴隷・誠実
ステータス
名前 サラ・アラベス
年齢 15
性別 女性
種族 人族
職業 商人見習い
レベル 10
体力 F・9
筋力 F・2
魔力 F・8
知力 C・31
俊敏 F・6
スキル 鑑定Ⅰ
備考 借金奴隷・誠実
ステータスを鑑定してみると、全員が誠実と記載があり、更に知力が高く鑑定スキルを所持している。
今後の商会運営の助けになる人材ばかりだった。
「皆さんこんにちは。俺はヒイラギ・アオイと言います。今はハンターの肩書きで活動していますが、色々な活動をする為に商会を立ち上げたいと思って人材を探しに来ました。できれば皆さんを購入したいと思っているのですが、どうですか?」
「ヒイラギ様、大変ありがたいお話しですが私どもを購入するとなると大変な金額が…」
コートのポケットからホテルの時と同じようにして、先程老紳士べベールから言われた3億5000万ジニー分の大白金貨3枚と白金貨5枚を出して、テーブルの上に並べていく。
「お金の心配はいりません。俺からの条件は裏切らない、そして真面目に働く、この2点のみです。衣食住は勿論、それぞれに働きに見合う給金も保障します。もし問題ないようであれば契約後に今後の詳細を話しますがどうしますか?」
サラカーン商会当主であるべベールは自ら鑑定し、更に経験から培った勘で人を見、判断する為に自分で出来るだけ初めに接客を受け持っている。
ヒイラギを見た時に見た目に騙されず、まともに鑑定ができない事で自分よりもかなりレベルの高い人物であると見抜き、その上で信用に足る人物と勘が訴えていたが、さすがに全額を現金でポンと支払っただけではなく、かなりの好条件まで提示した事に驚きを隠せなかった。
「ヒイラギ様、大変申し訳ございません。プロとしては失格なのは承知ですが、友人としての発言をお許し願えますでしょうか?」
「気にしないので構いませんよ」
「ありがとうございます。ベッツ、プロとしても友人としても言うが、これほどの買主様は今後現れないぞ」
「元よりお断りするつもりはありません。ヒイラギ様、私どもをよろしくお願いします」
べベールの言葉に少しだけ間を置いて、言いながらベッツが頭を下げると全員が次々に頭を下げた。
「べベールさん、皆さんの予備を含む衣服と全員が座れる部屋を少しの時間貸して頂きたい。契約もその部屋でお願いしたいのですが良いですか?」
ポケットから20万ジニー分の金貨を2枚出してべベールに渡す。
「畏まりました。皆さんの着替えが終わり次第ご一緒にご案内致しますので少々お待ち下さい」
そう言ってヒイラギ以外の全員が部屋を後にした。